「ふうっ……」
「んぐ、んふ……ふむ……くぅん……」
その後の深夜。おれは、またいつものように、窓縁に腰かけて、ワン子にチンポをしゃぶらせていた。
何はともあれ、やっかい事は片付いたんだ。足の痛みも、消えることはないが、いつものレベルにまで戻っている。これでしばらくは、妙なことを考えずにすむ。
窓からは、ちょうど満月……いや、その半歩手前か……が見える。
静かな夜だ。ヒトミは、また用事があるとかで、今はいない。団長は、別室でさっさと寝て、いびきもかいていない。
別に、ヒトミが夜に外出するのは、今回が初めてじゃない。たまにあることだ。
アイツは、何をしてるんだろう?
「(いや……)」
仮にヒトミが本当に男を作っていようと、おれには関係ない。はずだ。
死んだ奴にいつまでもすがって、せっかくおれがマンコにクモの巣が張らないようにしてやってるってのに、それでも男をあさる、淫、乱、女……?
アイツのことをそう決めつけようとすると、嫌な気持ちになる。
「(今晩は、ちっと優しくハメてやっか……)」
おれは、嬉しそうな顔でドバドバ涎を垂らしながらチンポをしゃぶり、ついでに空いた手で自分のマンコをいじり倒しているワン子に言った。
「やるぞ、ワン子」
「くぅんっ……!」
飛び付いて、おれにキスをせがんでくるワン子。今回は、拒まない。
おれは、コイツに上に乗るように布団に寝た。
嬉々としてワン子がそそり立ったおれのチンポを持ち、せかすようにマンコにくわえ込んだ、その瞬間だった。
ずきんっっ……!!
「うがぁっ……!?」
ハメた快感なんぞ一瞬で消しとぶような激痛が、おれの膝を襲った。
「わんっ!?」
「どっ……どけっ、ワン子……!! あ……ぐあぁあぁっ……!!」
おれは、一気に噴きだした脂汗と共に、床をのたうちまわった。
「わんわんわんわんわんっ!!」
「う……おぉぉぉぁぁ……!!」
痛ぇ。痺れで、つま先の感覚さえなくなってきた。
なんでだ!? 災難のモトは、解決したはずだろう!?
「ぬ……う、お、あ……っっっ……!」
「……ユム……ねえ、アユム! しっかりして……!」
グラグラと回る世界のどこかから、ふと、声がした。しぼり出すように、言う。
「お、お前……今……歩けるな……? 肩……貸せるか……?」
「うん。大丈夫! あの、ご神木の所よね?」
「ああ……頼む……」
おれは、その声の主……ワン子に肩を借りながら、例の神木の所へ行った。
そして、かなりもたつきながら、神社へ着いた。
かけられたばかりのしめ縄が、夜風にそよいでいる。
「……ちゃんと、あるよな?」
「うん……」
「あのババアが、おれをだましたのか……?」
「でも、そんなことしても、何の得にもならないんじゃない?」
まっ先に浮かんだ可能性に、ワン子が素早く突っ込みを入れる。この変わり様には、いつもながら驚く。
「じゃあ、いったいどうして……」
「他に、原因があるんじゃないかな?」
「それを今から捜せ……ってのか?」
「わたし、手伝うよ! 今なら、できるし……」
「…………」
それがどれ程の手間になるか? 見当もつかねえ。
こんなやっかい事、このままうやむやにして、さっさとここをオサラバするのも手だ。
だが……
だが、だ……。
「ちくしょう……、そうするしか、ねえのかなあ……」
手前ェの性格が、つくづく嫌になる。おれは「くそっ!」と地面に吐き捨てて、とにかく動こうとした。
「いいえ、その必要はないわ」
と、ふいに、後ろから声がした。
「あっ……」
「ヒ、ヒトミ……? お前、どうして……!?」
ヒトミの手には、しめ縄があった。ただ、少し細かいところが違う。
「ワン子、しめ縄をこれと替えてきて」
「う、うん……?」
ワン子が、ヒトミに言われたとおりにする。
「あっ……!?」
と、同時に、おれの膝の痛みがやわらいでいった。
「どういうこと? ヒトミさん……?」
目を丸くするワン子に、ヒトミが、フフンと鼻でせせら笑って真相を明かす。
「簡単よ。長老の思い違いと物忘れが原因だったって事」
「何だと!?」
「訊き返すほどのことでもないわよ。つまり、しめ縄の作り方が間違ってたの」
「ち、ちょっと待て! おれは、んなこと聞いてねえぞ!?」
「当然よ。ここ数年、長老はボケ気味だったらしいから。お友達もね」
「じゃあ、なんで今まで大丈夫だったんだよ?」
「家族が、コッソリ正しいのに替えてたんだってさ。長老は頑固だったから、まともに言っても取りあわないからって」
それからおれは、ヒトミからさらに詳しいいきさつを聞いた。
つまり、いつからか、しめ縄の作り方を勘違いするようになったボケジジイの尻ぬぐいを、家族がやってた。そいつらは普段村を離れているが、毎年取り替えの季節には戻ってきてた。
だが今回は、風で飛ばされたっつう不測の事態だったから、村を離れたままだった。そこを、ヒトミが連絡を付けて、急ぎ戻って来させた……と。
「…………」
全くの骨折り損……に近いわけだ。おれの動き回ったことは。
だが、ヒトミが……
「わ……」
『るかった』と、おれが続けようとしたところへ、ヒトミがぴしゃりと言う。
「でも、都合のいい勘違いするんじゃないわよ? 客寄せには、しっかり働いて欲しいだけのことだから」
ニヤリとゆがむ口元。自分自身珍しいぐらいの素直な気持ちが、いっぺんに消し飛んだ。
「……はっ、そういうことにしといてやるよ」
「あーあ、どこまでも幸せな坊やだこと……」
ふうっ、と夜空に溜息をついて、ヒトミは笑った、ようだった。きびすを返しながら、言う。
「朝にはここを発つんだからね。寝坊したら置いていくよ」
おれは、「へいへい……」と同じく笑いながら続こうとする。肩を支える、ワン子の声。
「ねえアユム、歩ける?」
「ああ、もう大丈夫だ。帰るぞ、ワン子」
「うん!」
おれは、煌々と満月が照らす闇夜を、マシになったびっこ足で、歩き始めた。
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・
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今回の顛末は、こんなとこだ。
ご退屈様だったな。特にヒネリがある話でもなかったろ?
何? なんで最後の方で、ワン子がしゃべるようになったのか、とか、納得行かねえところがあるって?
ま、それはまたの機会にさせてくれ。なんせ、ちっと疲れたんでな……。
おれ達は、そのうちどっかに現れるさ。見掛けたら、気楽に覗いてくれ。
この、闇色のテントをな。
―終わり