闇色きゃらばん 4 うさんくせぇ習わし

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「ふうっ……」
手近な自販機で買ったカップ酒をあおりながら、おれは村の中を歩いていた。
酔うどころか、水代わりにもなりゃしねえ。気分は朝から最低だった。
『アユム、ずいぶん巧くなったじゃないか。どうだ、一杯?』
そう言って、アイツはよくカップ酒をおごってくれた。
おれを一座に引っぱりこんで、ジャグリングを教えてくれた男……トモキ。
詳しい素性は知らない。ただ、おれと同じようにスポーツマンくずれって事だけだ。
「へっ……」
自分で思った言葉に嫌気がさした。『おれと同じスポーツマンくずれ』だと? おれは、『スポーツマン』だったってのか? くだらねえ。
「(ちっ……奴のことを思い出すと、イモヅルで嫌なことが浮かぶぜ……)」」
ヒトミのこともそうだ。
ヒトミとトモキは、惚れ合ってた。
奴が、おとなしくヒトミとくっついてくりゃあ、それで良かったんだ。
なのに……いつだったか、酔っ払って絡んできたゴロツキの刃物に刺されてあっけなく死んじまった。あんな連中、十分ぶちのめせるだけガタイを持ってんのに、『暴力はいけない』だの甘っちょろいこと抜かしやがって……揚げ句に手前ェが死んでりゃ世話はねえ。まったく、情けねえ男だ。
おれがヒトミに惚れたのもあいつのせいだ。あいつが死んで、あんまりヒトミがメソメソしてやがるもんだから、ちょっと優しい言葉かけてやったらコロリだ。
顔のことをさっ引いても、ヒトミはいい女だ。ラッキーだぜ、と思っていたら……
「…………」
脳裡に、くっきりとヒトミの顔が浮かぶ。
喜、怒、哀、楽……いろいろな顔が。
「ったく、やっかいなのに惚れさせやがってよぉ……」
おれは、アッという間に空けた2つの酒のグラスを片手でお手玉しながら、酔い以外の理由で熱くなる顔へのいらだちをまぎらわそうとした。

やがて、おれは目指すところに着いた。
村の中でも、とびきり古そうな家だ。
「ホントにココなのかよ……」
うさんくささを拭えないまま、おれはその家の扉を叩いた。

「さあさあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここに集うた我らが一座、そんじょそこらの奴とは違う……」
分かっていても、口上の歯切れが悪くなる。
今日は、客の姿がまばらだからだ。
まあ、村の長老がくたばった日には、こんなもんかも知れねえ。
まったく、しち面倒なことになったもんだ。
おれの膝痛……つまり、その土地にある『危機』のモトが分かった。
この神社にある一番でかい木。村では、神木として崇められているらしい。
そこには、小さなしめ縄がかざってある。
なんでも、特別な造り方をしたモノで、毎年新しいのに替えないとタタリがあるらしい。

んで、長老がずっとその仕事をやってた。
だが、そのしめ縄が、数日前の突風で飛ばされ、なくなった。そしてタイミングの悪いことに、くだんの長老が、昨日死んだ。
村の誰かに引き継ぎをしてればいいもんだが、そんな儀礼めいたこと、誰も信じなかったそうだ。おかげで、そのしめ縄の造り方を知る奴ってのがいなくなっちまったんだ。
別に、それならそれで放っておいてもよさそうなもんだ。別に、本当にタタリがあろうとなかろうと、流れのおれには関係のないことだからだ。
だが……

「っと……! 今日のボールは、ちょーっとごきげん斜めのようで……。改めてぇ……っと!」
滑り落ちたボールを笑顔で拾いあげ、ふたたび手の中で躍らせる。
そう、いつも以上に膝がうずくせいで、手元が狂いやすいんだ。しくじりは、客の入りに影響する。ここへの滞在期間はまだしばらくあるが、馴れられる痛みじゃねえ。モトを断たなきゃならねえんだ。
「くうん……」
「やかましい。なんでもねえよ」
心配そうな声を上げるワン子に、おれは他の客には聞こえないよう、言った。コイツにまで同情されるのは、いよいよもってガマンがならねえ。
幸い、あれから村長周辺のことを調べて、望みが出てきた。
そのしめ縄のことを知っている、長老の友人ってのがいた。だが、今は隣町に行っていると言う。おれは、なんとかソイツに連絡をつけてもらって、急いで戻って、新しいしめ縄を作るように頼んだ。
まったく、とんだ回り道だ。
なんでおれが、ここまでバタバタしなきゃならねえんだ? くそったれ!
だいたい、『危機を察知する能力』なんぞ、くれと言った覚えはねえってんだ! しかも、膝の痛みで報せるだと? なんて迷惑なんだ!
くそったれ……くそったれめ!!

「あのぉ……お兄さん?」
痛みと苛立ちで歯ぎしりをしている(もちろん、ジャグリングの手は休めていないが)ところへ、おれを呼ぶ声がした。
「あぁん!? っと……ごめんなさいよ、何ですか?」
見ると、この間、ヒトミに失せ物当てをして貰ったとかで、たんまり金をくれた婆さんだった。手には……しめ縄を持ってる!
「おばあさんが、例のお友だち、なんすか?」
「いえいえ……。そのまた知りあいでしてねぇ。作った人は、忙しいとかでさっさと隣町へ行きましただぁ……。その用事と言うのがまた……」
ババアはクドクドと、そのオトモダチとやらの話を始めやがった。
『いいからさっさとしめ縄を神木に飾りやがれ! 絞め殺すぞ! このクソババア!!』
おれは、そう叫びたいのをグッとこらえて、
「あ、あの……お話しはさておき、それ……早く神木に飾った方が……」
話の頃合いを見はからって、ひきつりながらも言った。
「おお、おお……。そうじゃなあ。では、これはお兄さんにお渡ししますだ……」
「ど、どうも……」
そう言って、ババアはまた、何度も何度も頭を下げながら帰っていった。
まったく、やれやれだ……。

「おいヒトミ。今日のおれのメシ……いやに、少なくねえか?」
「当たり前よ。アンタ、今日どれだけミスったと思ってんの? ちゃんと見てたんだからね。おかげで、客の入りが少なかったじゃない。喰わせて貰えるだけ有難いと思いなさい」
「理由は説明しただろうが!」
「客はそんなこと知らないわよ。気取られないようにするのがプロでしょうが?」
「くそっ……」
夜。ちゃぶ台を挟んで、つめたい眼差しを向けるヒトミに、おれは返す言葉を思い出した。
「ったくよぉ……だからって、買い出しの時間まで遅らせることねえじゃねえか? そこまで、おれにあてつけたいのか?」
「あきれた……そこまで自意識過剰だと、笑えるわね、まったく」
「んだとぉ!?」
「私にだって、食事を作る以外に用事はあるわよ」
「用事? 何だよ?」
「よけいな詮索はやめて頂戴。でも、一つ言えるのは、世界がアンタ中心に回ってないって事ね」
「フン、この辺で、行きずりの男でもひっかけたのか?」
「下品よ、アユム。最低」
ヒトミの眼が、この上なく冷たく突き刺さる。
「くっ……」
「カカカカカ! アユム、ガキダ、ガキダ! ゲヒン! ゲヒン!」
「うるさい!」
「うぅうぅうぅ……!」
カタカタと笑うスージーに、ワン子がうなる。またかばってくれているらしいが、やっぱり情け無い。
「くうん……?」
と、ワン子が自分のメシ皿(もちろん、本物の犬用ドッグフードだ)と、おれを交互に見る。
「おまえの分、 喰っていい……ってか?」
「わんっ!」
ワン子が、嬉しそうにほえてうなずく。
「んなのいらねえよ……。バカも休み休み言えってんだ……」
「くうん……」
「こら、そこのヒネクレ坊主! 食べないんだったら片付けるわよ!」
「ちっ……」
おれは、冷めかけた半人前のメシを、口の中の苦虫と一緒に、一気にかきこんだ。

つづく

 

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