星空の君 3 唐突な光景

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「んー……なんか、遠近感が変になりそうだぜ……」
ツマミを取りがてら、俺がむくりと起きあがったときだ。
ほとんど真っ暗な視界に、人影が見えた気がした。
「ん? おい……あそこ、誰かいないか?」
俺は目を凝らし、遠くを指さした。確かに誰かいる。
「んんー? どうせ夜釣りかなんかじゃねぇの?」
うとうととしたウッチーの声が返ってくる。奴はあまり興味がないようだ。
だが、俺はなんだか気になりだした。別に、この場所に俺達以外がいるのがダメ……なんてことはない。ただ、変に気になる。

物陰があれば良かったんだが、あいにく、浜辺にそんな物はない。よって、意味はほとんどないが、中腰で、そろそろと近づいていった。
人影の手前まで来て、それが女の子であることがわかったった。屈んで、空を見上げている。しかし妙だったのは、真っ暗なのに、その娘の姿がやけに良く見えることだった。着ている服……クリーム色で、ノースリーブのワンピース。顔はさすがによく見えないが……髪が、たっぷりとしたストレートロングということも分かる。
……でもちょっと待て。なんか、姿勢が変じゃないか? お尻をついて座ってるわけでもなく、普通にしゃがんでるわけでもない。んー……言い方は悪くなるけど、うんこ座りだ。

「(うわっ……?!)」
ちょっと待て。あの一際白く見えるのって……お尻……だよな。
ワンピースのすそをたくし上げて、お尻丸出しになって屈んでるんだよな……?

(しゃぁぁぁ……)

さらに待て。なんか音がしないか?
「(おいおい、この姿勢に、この音……まさか)」
その時、少し強めの潮風が吹いてきた。風が運んできたのは、潮の香りと……甘ったるいような、臭いような……ニオイ。

「うそ……」
思ったことが口に出てしまったのか、その娘が振り向いた。 目が合う。
「あら……?」
「あっ!! あああああ……あのその……いっ……いい……夜空……ですね……! あは、あは、あはははは……!」
俺は動転して、わけの分からないことを口走っていた。
しかし、目の前の彼女は、慌てている俺を見てか見ずか、
「えぇ。今夜もとってもいい星空。こんな空を見ながらオシッコするのって、すごくイイわ。そう思わない?」
そう言って、にっこりと笑った。
「は……はえ??」
全く予想の出来ない答えに、俺はアゴが外れたような声をあげた。
「いやその……思わない? って……星空とオシッコと……何の関係が……第一、こんな浜辺で用を足すなんて……感心……しないなぁ……って、あれ??」
俺が目をそらしてブツブツ言ってる間に、その娘の姿は無くなっていた。
……見間違いだったのか? いや……

そして、もう一度潮風が吹いた。間違いない。その娘のいたあたりから、やっぱりさっきの……オシッコのニオイがした……。
『うふっ……こんな空の下、オシッコするのって、凄く良いわ』
さっきの声が聞こえてきた。空耳か?

うーーーーん、不思議だ。でも、あの娘のあの姿、可愛かったよなぁ……あー……ドキドキしてきたぞ。くりんと突き出た白いお尻に、あの音。そして……あぁぁぁっ! こんなとこまで来て、何考えてんだ俺は! こら!! 落ちつけ、俺の下半身!!

ちなみに、俺はさっき見たような光景に、強烈なセクシャリティを感じる人なのだ。友人達も皆知っている。以前、ウッチーの下宿で集まって飲んでいるときに、思い切って打ち明けたのだ。 正直、かなり思い切った告白のつもりだった。
しかし、ウッチー含め、その場にいた友人達は言った。
「別に、それを知ったからと言って俺達のお前を見る目が変わったりしねーよ。人それぞれだもんな」
……実はとても嬉しかった。こう言う友人達を持って、つくづく俺は幸せだと思う。……おっと、これは閑話休題。

「おいトミー、どした?」
さておき、ウッチーが俺を追いかけてきた。そうだよな、こんな夜じゃ、人間の顔なんてそうそうはっきり見えるモンじゃない。じゃあなんで、あの娘の姿ははっきり見えたんだ?
「あぁ、そこに女の子がいたんだ。で……その……座ってションベンしてた」
俺は見たままを言った。だが、ウッチーはあきれ顔で
「おいおい、一日目にしてもう性欲の方が勝ってきたのか? あいかわらず、三大欲求に忠実な奴だな。ちょっと前からそこに立ってたが、誰もいなかったぞ」
半ばジト目で俺を見る。

ちなみに、『三大欲求』とは、『性欲・食欲・睡眠欲』縮めて言えば、『ヤリたい・喰いたい・眠たい』だ。全く外れてはいないが、言い過ぎじゃないか? ウッチーよ……

「しかし、ホントにいた。ホラ、ニオイがしないか?」
それはさておき、いぶかるウッチーに、俺は鼻をフンフンとさせてみた。……やっぱりまだ臭う。
「どれ……フンフン……潮の香りしかせんぞ。おまえ、そんなにタマってるんか?」
「ちがわい! ホントに見たんだよ……」
抗議する俺には構わず、
「はいはい、分かった。……そろそろ戻るぞ。さすがに少し肌寒くなってきたからな」
奴は、すたすたと戻っていく。
「おい……! うーん……気のせいだったのかなぁ……」
釈然としないまま、俺は宿に戻った。

つづく

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