がちゃっ 5 教祖と逮捕と公開処刑

SF(少し・不条理)
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がちゃっ

扉を開けて部屋へ入った僕を、たくさんの黄色い悲鳴が迎えた。
「あぁあっ! 生マラ様ァッ!!」
「生マラ様よォォォッ!」
そこにいるのは、たくさんの裸の女性達。もちろん、若い上に容姿端麗だ。
すがりつこうとするところを手で鷹揚に制しながら、僕は中央にしつらえられた巨大なベッドに乗った。期待に満ち満ちた数十の目をぐるりと見渡し……
「では、君にしましょう」
「ああっっ! ありがとうございますっっ!! 生マラ様ぁぁ…………」
大きく腕を拡げる。歓喜の涙を止めどなく流すその女性は、文字通りに僕の胸に飛び込んできた。くねくねとうねる腰が、シーツにどんどんシミを作っていく。焦がれていた分濡れ方も十分、僕の物も、その痴態に勃起は十分だった。すぐに結合が果たされた。
「ぁふあぁぁぁ…………っ!! 生マラ様ぁぁ……生マラ様のぉぉぉ……」
存分な快感を与え、十分な奉仕を受けながら、僕はその女性を座位で抱きしめてささやいた。
「今宵も、存分にぬくみを与えてあげましょうね……」
「アァァアァァ……ありがとうございます……アリガトウゴザイマス……」

オカマさんに頼まれ、彼女の妹をたっぷりと全身で抱いてからしばらく、僕は彼らの家に世話になった。
やがて、彼女の紹介だという別の女性達が、家を訪ねてくるようになった。
みんな、分離するペニスに疑問を感じ、全身でのセックスを望んでいると言った。切なる願いは断れるべくもなく、僕は全員を同じように抱いた。
『外れないペニスを持つ男との、この上なく深いセックス』
……その話は、ひそかに潜っていた女性達の共感と反響を呼び……さらにいくらか尾ひれが付いて、気がつけば、今や僕は教祖のような存在だった。

「さあ……そろそろ行きますよ……! しっかり受け止めなさい……!」
「はいっ! ああっ! いっ! イクッ! 生ッ! 生のチンポッ! チンポイクッッ!! アッッ!! ひぃぃぃっっっ…………!!」
折れよとばかりに抱きしめて、たっぷりと膣内に注ぎ込んでやる。一滴の逃さず飲み込もうとヒダがうねり、随喜の涙が、僕の肩にポロポロと落ちる。
「うあぁぁん……生マラ様、もっとぉ……」
すがりつく身に、僕は優しく、だが厳格に言った。
「いけません。公平さを保つために、一人については必ず一発。鉄則ですよ?」
「ああっ……申し訳ございません……お許しを……」
「かまいませんよ」
女性はフラフラと待機組に混じった。そこへ、指名してもらえなかった者達が群がり、一角でレズ乱交――あるいは、僕の精液の奪い合い――が始まった……。

毎日がこんな調子だ。
僕の所にやってきた女性は例外なく虜になり、以後、足しげく通ってくる。
中には、学校や会社を辞めて、兄妹の家に住み着く者まで出始めた。最初のうちは、家が広いこともあって事は足りた。しかし、僕の元に居たいという女性は後を絶たなかった。結果、不動産関係の仕事をしている女性の口利きで、大きめの施設を作り、そこに移ることになった。生活費は、他の女性達が寄付してくれるお金で、十二分だった。
僕たちのグループの評判はじわじわと広がった。マスコミは、『身体から外れないペニスがあるなどとうたう、怪しげな新興宗教』として騒いだ。
でも、僕も女性達も、聞く耳を持たなかった。だって本当のことだし、悪いことをしているという意識はこれっぽっちもない。そんな無理解な連中への対応は、オカマさんがやってくれた。彼の口、時に腕は、頼りになった。『どこでもドア』で侵入を試みる者のために、防御磁場発生装置も、メーカー関係の女性の手で、特別強力な物をつけた。こうして、誰の邪魔も許さない、愛の城ができあがったんだ。

「さあ、次は誰に……」
行きましょうか、と言いかけたところで、彼女……一番初めの彼女が、ベッドに上がってきた。にっこり微笑んで、僕ににじり寄りながら、言う。
「私のこと、忘れてないわよね?」
「もちろんだよ」
「じゃあ……して……」
「うん……」
皆には等しく愛を与えているけれど、やっぱり、この彼女は別だ。僕は、さっきの女の何倍もかけて、彼女を抱いた。
僕を求める周囲の狂騒は、水を打ったように静まりかえり、ただ、羨望と尊敬の視線と、ため息だけが聞こえた。僕達は、見られてさらに燃え上がる。自分で決めた『一人一発』なんてどこへやら、だ。

……そういえば、いくら出しても大丈夫になったのはなぜだろう? 彼女がしがみつく首筋に、覚えのない傷跡があるけど、これが関係してるんだろうか? でも、そのことを考えるとものすごく頭が痛くなるから、どうでもいいかと思う。それに、彼女と愛し合っている最中にそんなことを考えるのは、ヤボって物だろう。

僕は、彼女のあらゆる穴へ、あらゆる姿勢で射精する。
白く柔らかくしなる身体は、花火のように何度も紅潮を浮かばせて絶頂を示し、びっしりと浮かんだ汗が、照明にキラキラと跳ねた。
周囲にはべる外の女性達は、そんな僕たちの姿を見て、いつしか皆ひれ伏し、口々に何かを唱えながら、一心に祈っていた。

「さあ、10発目……行くよ……!」
「んっっ! うんっっ!! んあぁあっっ!! わっっ!! 私っっ!! にじゅっ! にじゅっかいめっ! あぁっ! イクッ!! イッちゃうぅーーーっ!!」
「くっ……!!」

どくんっ!! どくんっ!!

「はぁんっ……!!」

子宮に入りきれない精液が、つなぎ目から、ごぼりとあふれ出す。
性欲が無尽蔵になったとはいえ、さすがに疲れた。
僕は、襲ってくる眠気に逆らわずに、彼女の上に折り重なった……。



「……んっ……」
目覚めたのは、施設内の自分の部屋だった。寝ている僕達を見て、誰かが運んでくれたらしい。
よく眠ったせいか、疲れはすっかりとれ、またいくらでもセックスしたい気分になっていた。さあ、待ってる皆にやってあげようか……そう思って、ベッドから起きあがった時だった。
外に、物々しいたくさんの足音を聞いた。

がちゃっ!!

「!?」
荒っぽくドアが開けられ、入ってきたのは、刑事とおぼしき男達だった。何か紙を突きつけて言う。
「貴様が主宰者だな? 監禁の容疑で逮捕する!」
眼前の紙……それは、僕への逮捕状だった。別の男が言う。
「他の女性達は皆保護した。残るは、お前だけだ。おとなしくお縄を頂戴しろ!」
「えっ?? えっ!? えぇーーーーっ!?」
いきなりの事態の急展開に、僕はかなり遅れて叫んでしまった。
「ドアの防御磁場は!?」
「監禁されていた女性の一人が、我々のために解除してくれたよ。おかげで、突入できたというわけだ」
「なっ……」
そういえば以前、オカマさんが言っていた。指名の回数をめぐって、女性達の間でいさかいが起きているらしいと。……となると、防御磁場の解除は、その女性の嫉妬だろうか?

とんでもないことになった。歯がみする僕に、最初の刑事が言う。
「貴様、公然ワイセツ拒否容疑で収監中の所を、脱獄・逃亡中でもあったよな? 覚悟を決めろ」
背筋の凍る話を、刑事はいともあっさりと言う。
そこで僕は、自分の中に一筋の光明を見いだした。
「ちょっと待ってくれ! 僕は、この世界の人間じゃないんだ! 『どこでもドア』で、偶然迷い込んで来ただけなんだよ!! 本当にペニスは外れないんだ!!」
「ほう……それならなぜ、別世界と認識した時点で、速やかに出頭しなかった? 脱獄する前ならば、酌量の余地もあっただろうに……もう遅いな……」
刑事は、心底残念そうに言った。
「何でだよ!?」

がちゃっ

食い下がる僕に、再び、人のぬくもりとは対極にある冷たい手錠がはまる。それからの言葉。
「私たちの世界ではな、きわめて悪質な犯罪者に対して、公開処刑が認められているんだよ。執行の是非は、国民の投票で決まる。マスコミは、決して報道しない事になっているがね」
窓の外を見る刑事。施設の前は、広場になっている。
「……通常は、適当な広場に連行した上で行うんだが……今回は必要ないな。そろそろ、全国から抽選で選ばれた者が、ドアを使ってやってくる」
僕は、外を見られなかった。腰を抜かして、床にへたり込んでいたからだ。

 がちゃっ

そして、無数のドアが一斉に開く音が聞こえた。

おわり

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