ばふっ 4 4回目

SF(少し・不条理)
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駅前から、タクシーで行くと5分足らずの所に、僕の家はある。小汚いワンルームマンションだ。いつもなら、何の感慨もなく帰ってくるんだけど、今日ばかりは勝手が違う。後ろから、ちょっと妖しげな女性がついて来ているのだ。
「ここで……いいかな。僕の家だけど……」
ほとんど独り言のように呟いて、僕は彼女を部屋に招き入れた。男やもめとは言え、それなりに部屋の掃除に気を配っておいて良かった。えぇっと、人生何が起こるか分からないって意味の故事成語って、何だったっけ? ああ、『塞翁が馬』だ。
そんなバカなことでも考えていないとお茶を出す動作もままならないほど、僕は緊張していた。そしてやっと流しに向った手が動き始めた時だ。
「しゅるっ……」
衣擦れの音がした。
「(え?)」
「かさかさっ……ぱさっ……」
続いて、紙が擦れ合うような音。
「見て……」
背中に、声が多い被さる。僕は、ゆっくりと、ゆっくりと後ろを見た。
今度は、僕が硬直した。
上半身は、スーツ。そして……下半身は……紙おむつ……。
僕には、何がなんだか解らなかった。
いや、初めて彼女のお尻を蹴ったときに、予想はついていたのかも知れない。
それにしても、奇妙なのは確かだ。
言葉を発する代わりに、いつの間にか僕は、ふらふらと彼女のそばに歩み寄っていた。両肩に手をやり、体のラインを確かめるように、手を下に運んでいく。くびれた腰から下。「がさり……」と、確かに紙の手触りだった。僕は、まるでそれが全く未知の物で有るかのように、オムツをがさがさと手で撫で始めた。紛れもなく、赤ちゃん用の紙オムツだった。
「んふっ……おかしいでしょ? こんな女がオムツなんて……」
僕の頭の上から、彼女の声が降り注ぐ。
「……なぜ?」
想像し得ない展開に、抑揚を失った声で、僕は短く訊いた。
なぜあなたは、オムツをしているのか?
そして、なぜ今ここにいるのか? という意味も含めて。
頭上から声がする。
「……この前、貴方、私のお尻を蹴ったでしょ? びっくりしたけど、後でゾクゾクしちゃったの。それに、貴方の顔が、何か気づいてるみたいだったから、もう一度機会が無いかなって、思ってたのよ」
彼女は、最初の「なぜ」には答えずに、うっとりとした声で僕に答えた。
「…………」
「そしたら今日、やっぱりもう一度蹴ったでしょ? あたし、漏らしちゃったのよ。とっても気持ちよかった……」
「漏らした……?」
僕は相変わらず、何かに憑かれたように、紙おむつに包まれた彼女の下半身を撫でていた。そして、ちょうど股間のあたりに、ゲル状の物を感じた。
いくら僕でもテレビCMで知っている。おむつは、オシッコを吸うと中でゲル状に固まるんだ。
「そうか……僕に蹴られて漏らしたのか……オムツの中に……」
世の中には、そういう趣味を持った人がいる、とは聞いたことがある。
でも、こんな見ず知らずの男の所にやってきて、自分の趣味を見せびらかしたりするのか? それに、この後を期待するようなそぶりじゃないか?
「……蹴られて、気持ちよかったのか……」
声は相変わらず抑揚を持てなかったけど、僕は妙に冷静に考えていた。
ひょっとしたら、これは夢なんじゃないか……?
そう思うと、それが一気に確信を持ち始めた。
そうだ、これは夢だ!
こんな都合のいいことがあるはず無いんだ!
……じゃあ、何をやっても良いはずだ!
ちょうどいい、ここのところ退屈してたんだ。
僕は、お茶を入れる動作を中断して、大股でのしのしと彼女に歩み寄った。
床にどっかと座り、その上に来るようにアゴで示す。彼女は、静かに僕のあぐらに腹ばいに伏せ、お尻を突き上げた。

ばふっ!!

僕は、振りかぶった手を、みじんのためらいもなくそこへ振り下ろした。
「……ひぃっ!!」
身体を跳ねさせ、悲鳴を飲み込む彼女。もちろんそれで終わらせるはずもなく、どんなオムツでも吸い取りきれない強さで、めいっぱい叩く。

ばふっ!! ばふっ!! ばふっ!!

「きっ……! ひ……あぁぁっ……!!」

「他人に蹴られて、漏らしたあげくに感じただと? あんた変態だな!」
いつしか僕は彼女をひざまずかせ、腰を抱えるようにして、無心に彼女の尻を叩いていた。一度やってみたかったんだなぁ、こういう態度。さすが夢の中。

「あうっ! あううっ! そう……わたし……は……ヘンタイ……悪い……子……です……ああ……ひああぁぁっ!!!!」
親のカタキのように激しく叩いているのに、彼女は甲高い悲鳴を切れ切れに上げながら、髪を振り乱し、腰をくねらせて悶える。
なるほど、サディスティックな快感って、こう言うことなのかもしれない。ハマる人がいるのも、わかる気がする。ためになる夢だ、まったく。
僕は、彼女の様子を見て、自然とニヤニヤしていた。そして……
「あっ!! あひっ!! いっ!! いぃぃっっっ…………!!」

しゃぁぁぁぁ……っ……

びくんびくんと身体が跳ね、2回目の音。おむつの隙間から、吸い取りきれないおしっこが、僕のズボンと、床にあふれだした。
「……汚いな。どうしてくれるんだ!」
内腿を伝い、膝に広がる染みを一瞥した後、僕は、彼女の穿いているオムツに手をかけ、思い切り引き裂いた。夢だから、思うままに破れる。
そして現れる、アンモニア臭のする、桜色の丸い尻。割れ目の間が、ぬらりと光っている。その卑わいさに僕の劣情はさらに燃え上がり、叩く手にいっそうの力が込もった。

べしっ!! べしっっ!! べしっっ!!

軟らかな尻の肉は、水袋のように衝撃によくうねり、手の形に赤く塗りつぶされていく色が、やけに綺麗に見えた。
「ああっ! あっ! ひぎっ! ごめ……ん……なさい……ごめん……なさい……あっ! あぎっ! あひっ……あっ! あっ! あああぁぁぁぁーーーっ!」
やがて、多量の涎と涙をまき散らし、彼女は失神してしまった。

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」
ぐったりとしている彼女を見おろし、僕も荒い息をついていた。
彼女のお尻同様、僕の手も真っ赤に腫れている。夢にしては、痛さまでリアルだ。珍しいな。

それにしても、カタルシスが得られる夢だ。日頃のうっぷんが晴れるよ。彼女には悪いけど、まぁ夢なんだし、幻に気兼ねすることもないか。うん。気持ちよかった。

……あれ? なんか……頭が朦朧とする。
……眠い、無性に眠くなってきた。
夢から醒めるのかな……ちょっともったいないけど……今は眠りたい。すぐに……。
ここでいいや。もう……寝よう……
僕は、彼女のそば、オシッコの溜まっている床に、ばたりと倒れ込んだ……。

つづく

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