そんな調子で数冊読んでいるうちに、外がなんだか薄暗くなってきた。雨の勢いは弱まってないけど……。時計を見る。……あ、もう夕方だ……。台風のせいか、ずいぶん暗いなぁ……。
(くぅぅ……)
もう一度鳴る、ボクのお腹。お昼食べるの、忘れてた……。 熱中してて、時間、忘れちゃってたんだなぁ……
でも、もうすぐ晩ご飯だし、今晩は、また二人なんだ! 今は軽くすませて、晩の支度、始めちゃおうかな?
立ち上がって、冷蔵庫の中にある物を適当につまんじゃおうおうかと思ったとき……
(ぴかっ!)
「えっ?」
一瞬、部屋の中が明るくなったかと思うと……
(ガラガラ ドーーーン!!)
体の中へ直接響くような、ものすごい音がした。
「ひっ……?!」
体が震え始め、その原因になる気持ちを、ボクの心が探して、声に表そうとするより先に、
(カッ! ガラガラ ズドーーン!)
もう一度、まばゆい光と、激しい音が、部屋と、ボクの体を埋め尽くした。
「きゃ……きゃぁぁ……」
あまりの恐ろしさに、悲鳴は尻すぼみになり、ボクは腰を抜かして、その場にへたりこんでしまった。
それが『稲光』と『雷鳴』だということに気づいたのは、それからしばらくだった。
「(怖い……怖いよぉ!)」
ボクは、小さくうずくまって、ぶるぶるとおびえていた。けれど、外を暴れ回る光と音は、全くやむ気配は無くって、それどころか、ますますその勢いを増しているみたいだった。
(ピシッ! ガリガリ……バシャーン!!)
「ひぃぃ……っ!!」
そのうち、一際大きな音がしたと思うと……
(バチッ……ブツン……)
何かが弾け飛ぶような音がして、電気が消えた。
どろりとした闇と、痛いほどの静寂が、部屋を、満たす。
真っ暗……
暗い……静か……ボク……ひとり……
「やあぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
暗い! 嫌! 暗い! 嫌! 暗い! 嫌! 暗い! 嫌! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い!
「ううっ……ひくっ……えっ……」
ボクは完全にパニックになっちゃって、突然襲ってきた寒気にガチガチと震えながら、うずくまってポロポロと泣き始めた。
嫌だ……もう……暗い中でひとりぼっちは嫌……嫌だよぉ……
・
・
・
・
どのぐらい時間が経ったんだろう……?
うずくまったまま泣き尽くして、ボクはぐったりとしていた。もう、何も考えられなくなっていた。雨の音も、どこか遠くの出来事のように聞こえる。そんな空っぽの頭に……
(がちゃっ……)
扉の開く音がした。……何?
「あらら……やっぱ停電してたかぁ……っと、非常用の懐中電灯はっと……」
この……声……
「あったあった。すまんな、台風で電車が遅れて、帰るのが遅くなっちまってよ……携帯も持って行き忘れちまうし……ん? おーい、どうした? ゆーき?」
人の気配が、ボクの側で止まる。あったかい空気を感じる。おそるおそる、そっちに顔を向ける。そこには……
「じゅん……いち……さん?」
「ただいま。遅くなって、ごめんな。怖かったか?」
かがみ込んでいる人影。そして、電灯に照らされた、優しい笑顔。あぁ……
「潤一さぁぁーーーーん!!」
「うおわっ?!」
ボクが勢い良く飛びついたせいで、二人して床に倒れ込んでしまった。それにも構わず、ボクは潤一さんの胸で泣きじゃくっていた。
「うっ……うぅっ……じゅんいちさぁん……よかった……よかったよぉぉ……うえぇ……ふえ……ん……あーーん!」
体に感じる、温かさ。顔を埋めた胸からわかる、本当の匂い。汗と、ちょっぴり、タバコの匂い。潤一さんの、匂い。
(どくん どくん どくん どくん……)
耳に聞こえる、潤一さんの、心臓の音。
体に響く、潤一さんの、いのちの音。
あったかい……ほんとうにほんとうに、あったかい……
「おいおい……たった一晩だろ? 大げさな奴だな……」
困ったような声だけど、おっきな手が、ボクの頭と、背中を、優しくなでてくれる。こわばってた力が、すぅっと抜けていくのが分かった。
そう。たった一晩、ほんの一晩だったけど……だけど……
「うん……うん……」
ボクはただ、ずっと泣き続けるだけだった。
・
・
・
それからしばらくして、電気も元通りになって、ボク達は改めて一緒に晩ご飯を食べた。やっぱり、一緒に食べる方がずっとおいしい!
食べながら、ボクはまた、ほんのちょっぴり泣いていた。
……その夜のボクは、自分でもびっくりするぐらいに……そのぅ……積極的、でした。
えへへっ……
おしまい