休息の日~『姉妹いじり』紫エンド後の一コマ

 ピピピピッ…… ピピピピッ……

静かな部屋の中、控えめな電子音が鳴る。俺は、閉じていたまぶたをうっすらと開き、軽く身じろいでそのもとを探った。
「36度9分……少しだけですけど、下がりましたよ。俊二さん」
すぐ側に座っている紫が、体温計の目盛りを読んで、ほんの少しホッとしたような声を漏らす。俺は、起きあがりざまに「そうか……」と答えたかったが、こみ上げる咳がそうさせてくれなかった。
「だめですよ、寝ていないと……」
紫が、背中をさすりながら俺の姿勢を再び水平に戻し、掛け布団を几帳面なまでにきっちり被せる。整然としすぎていて、かえって落ち着かない。
「お腹、空いてませんか? お粥でも作りましょうか?」
「じゃあ、リンゴでもむいてくれないか?」
「はい、わかりました……」
俺のしゃがれ声に、紫は、柔らかな笑みを返して立ち上がった。

「……ふう……」
俺は、熱っぽさに幾分ぼやける天井の板目に向かって、よどんだ吐息を恨みがましく吐き上げた。頭は、まだ痛い。
普段の体力に自信があるとは言っても、俺も風邪を引くときはある。
「(まあ、昔と違って、世話を焼いてくれる奴がいるってのが、最大の救いだがな……)」
俺は、流しでリンゴをむいている紫の後ろ姿に向けて、ほんの少し照れ笑いを浮かべてみせた。
築二十年は軽く経っているだろう、六畳一間の木造アパート。申し訳程度のキッチンがあって、風呂は共同。家賃格安。そこが、俺達の暮らす部屋だ。
「(いつもながら小汚い部屋だな……まったく……)」
部屋全体につく悪態は、愛着の裏返しだ。『住めば都』という言葉があるが、今の俺にはよく分かる。紫がそばにいれば、小汚い六畳間も、お偉方が『入院』する、病院のVIPルームより上だ。そう思う。

やがて、ていねいにむかれたリンゴを載せた皿を持って、紫が戻ってきた。ちゃんと、食べやすい一口大に切り分けてある。
「はいどうぞ、俊二さん」
「すまん……」
口に運ばれた一切れをほおばってみる。鈍った味覚にも、さわやかな甘みと酸味が心地いい。じっくり味わう。
「あっ、すり下ろした方が良かったですか?」
その姿が、喰いづらそうに見えたんだろうか。紫が、俺をのぞき込み気味に言った。
「いや、そこまで手間をかけなくていい。うまいからゆっくり食ってるんだ」
「そうですか、良かった」
「ああ」
うなずいた後も、紫は、俺がリンゴを食べる様を、じっと見ている。別の意味で、味が分からなくなりそうだった。
「どうした?」
「えっ? あ……ごめんなさい。ちょっと、思い出してたんです」
「思い出す?」
一体何を……と返しかけて、俺も気づいた。
そうだ、確かにこんな事があった。
あの、俺達が出会ったマンションで……。

以前の俺は、ある『組織』に属していた。まあ、有り体に言えばヤクザだ。そこで、いろいろと非合法な事を『仕事』としてやっていた。
ある日、俺は借金のカタとして身売りされた姉妹を、マンションに軟禁して性奴隷として調教するよう命令された。
オイシイ話だった。
そして、そういうことは、とことん非情に徹するべきだったんだろう。
だが、俺には出来なかった。初めこそ獣欲のままに二人をなぶってきたが、次第に、女二人をモノ扱いすることに、迷いが出始めた。

迷いは情を産み、
情は口数を増やし、
増えた口数は、知る必要のない互いのことまで話させ……
いつしか、立場を忘れて惹かれ合う俺達がいた。

だが、どれほど惹かれ合おうと、『仕込み師』と『商品』という立場は変わらない。非情にも別れは訪れ、俺は一度はあきらめた。
しかし、詳しくは省くが、様々な紆余曲折の末、俺達は再会することができた。そして、逃避行の途上で今、ひとまず落ち着けるところを見つけて、こうして一緒に住んでいるというわけだ。俺は経歴を隠して普通の企業に勤め、紫はパートに出ている。いつか妹を捜しだし、3人で高跳びするために。

紫が『思いだした』と言ったのは、その調教期間中、自分が風邪を引いて俺が看病してやったときのことだ。
「あの時、俊二さんにむいてもらったリンゴの味、よく憶えてますよ」
「リンゴなんて、どれもそう変わらないだろうが?」
面はゆい笑みを浮かべながら言う俺に、紫は「いいえ……」と、嬉しそうにかぶりを振って、なつかしむような笑みで返した。
「あの時の笑顔で、私は、あなたのことが好きになったんですもの……」
「はっ、お手軽な奴め……」
俺は、あまりの恥ずかしさに、目を細めて小さく毒づくのが精一杯だった。まぶたの薄闇越しにも分かる紫の微笑みが、なんだか顔をくまなくなで回しているようだった。
「……しばらく寝るぞ。起こさないでくれよ」
「はい。おやすみなさい……」
その見えない手を心の中で繋ぎ、俺はしばらくの眠りに就くことにした。



「……う……?」
深く沈んでいた意識が、ゆっくりと引き揚げられて光にさらされる。結構眠れたようだ。即座に体調が快復しているわけじゃないが、ずいぶんと気分がマシな気がする。
「あっ、起きられましたか?」
俺の側には、寝入る前と同じ姿勢の紫がいた。指先が、いくぶんふやけている。どうやら、たびたび額のタオルを替えていてくれたらしい。マシになったのはきっと、これのせいだろう。
「何か、召し上がりますか?」
「なんか、食ってばっかりの気がするな……」
「うふっ……俊二さん、ほんとによく寝てらしたんですね。いつもなら、そろそろ夕食の時間ですよ?」
「なにっ!? そんなに経ったのか?」
改めて時計と外を見る。なるほど、時計の短針はしっかり夜で、日は既にとっぷりと暮れている。
「そんな驚かなくても良いじゃないですか。お休みなんですから……」
「まあ……それもそうだな」
そんなことで慌ててしまうほどに、歯車的生活に馴染みつつあるんだろうか。少し苦々しく思う気持ちを払うように、俺は「じゃあ、頼む」と言った。

紫の作ってくれた粥は、まるで店で出される物のようにしっかりと米が砕けて胃に優しく、塩加減が心憎いほどに絶妙で、とてもうまかった。
穏やかな満腹感は玉の汗となってにじみ、拭ったパジャマの袖が濡れる。
「身体、拭いて差し上げますよ。ここのところ、お風呂にも入ってなかったでしょう?」
声に振り向いたときには、湯をはった洗面器とタオルを持った紫がそばにいた。まったくかいがいしい。元はOLだったと言うが、看護婦の方が向いているのかもしれないと思う。

「ふう……」
パジャマの上を脱ぎ、半裸になった俺の身体には、いくつかの生傷がある。前の『職場』でついた物もあるし、そこから逃げてくるときに紫を守って負った、真新しい物もある。
「…………」
それを知っているからか、紫はやや哀しげに、黙々と身体を拭く。愁いが似合うタイプの顔だとは言え、いい気分はしない。
「もたもた拭いてるんじゃない。冷えるだろう?」
「……あっ! ご、ごめんなさい……」
ごまかすためにきつめに言う言葉。その、見つめる目に「いつまでも気にするな」と裏を込める。それをくんだ紫は、もう一度小さく「ごめんなさい……」とつぶやいて、身体を拭う手を早めた。
「あの、次は下を……」
「そうだな、頼む」
ズボンを脱ぎ、同じくいくつかの生傷がある下半身があらわになる。体調が悪いせいもあって、性器はひたすらおとなしい。
「…………」
だが、紫の目は違っていた。一生懸命視線をそらそうとはしているが、物欲しそうな光が確かにある。そういえば、お互い会社勤めとパートで、ここ数日そっちの方がご無沙汰だった。出会いのきっかけがそれで、俺が紫をそれの虜にしたくせに。
「…………」
つま先まで終わったのに、紫は、理由をその都度作りだすかのように、俺の性器を未練がましく拭き続ける。
「残念だが、無理だぞ。この体調じゃ」
「……はい……」
沈む声と、引いていく手に、俺は言った。
「どうしてもってんなら、一人でやれ。見ててやる」
「そ……それじゃ……」
『見られる』ことに喜びを見いだした紫が、俺の股間から手を離し、ゆっくりとした、もったいぶったような動きでジーパンを脱いでいく。
紫の大きな尻をめいっぱい広がって覆う、安っぽいショーツの布。その中央の膨らみに、染みが見えた。
「ふ……」
きつく見つめる視線に、意地の悪い笑みを浮かべてみせる。続けるほどに丘の染みは広がり、紫は熱い吐息を漏らす。
「あぁ……」
布地の上から、その染みの元を触ろうとする紫。指が沈み、にちゃり……と粘液音がする。
「待て」
「えっ……?」
「脱げ」
「……」
最小限の言葉で命令をする。その声に、紫は恐怖ではなく、歓喜に震え、いっそう荒くなった息で、本当にもどかしそうに――あるいは、俺をじらすように――ショーツを脱ぐ。俺の側からは見えないが、紫の視線が止まったところからすると、布と肉との間には、糸が引いているのに違いなかった。

「脱ぎ……ました……」
紅潮した顔で言いながら、紫が足を開く。
すっかり興奮にほてり、滑った光と、みだらなメスの匂いをただよわせている性器。
普段の、つつましく、清楚な雰囲気からはおよそ考えられないかも知れない。
「(いや……)」
あらわになった白い足、その肉づきのよさだけで分かるが、こいつは十二分に肉感的な体をしている。そう考えると、むしろしっくりくる光景とも言える。
「どう……ですか? 俊二さん……」
紫は、俺が命ずるまでもなく、性器の花弁を押しひろげ、その奧までさらけだす。中の穴は、物欲しそうにせり上がったヒダがせばめ、そこからトロトロと蜜をあふれさせている。
俺は、その光景を凝視しながら紫に返した。
「ああ。いつもながら、綺麗だな。紫」
「はあぁっ……ん……!」
その言葉に反応して、さらにヒダがうねり、紫の中から蜜が湧きあがる。
「んぅっ……!」
そして、手が、動きはじめる。
「はあっ、はっ、あぁっ……ん……! んんっ! んっ! んあっ……っ!」
悩ましげに――そしてやはり、俺に見せつけるように――身をくねらせながら、紫の指は縦横に、なめらかに、複雑に動く。
「声、気を付けろよ。ホテルじゃないんだからな」
「はあっ! はああっ! はっ……はい……」
うなずいて、喘ぎを呑みこもうとする紫。
「んくっ……うっ! うあっ! あ……んんんっ……!」
それでも、手が止まらないらしい。きつくしかめた顔の下、やわらかなヒダが幾度も形を変え、そそり立つ肉芽が鞘から顔を出し、こねられ、さらに蜜が溢れ、それが白濁していき……
「んぐっ……っく……ううっ……くあぁあ……!」
まじめな性格の紫のことだ。完全に声を殺そうとしているんだろう。だが、そんなことは出来ないはずだ。
「いや……ぃやぁぁ……声……出ちゃうぅぅ……だ……めぇ……」
紫は、いきんだ顔で泣きだしそうになっている。
「紫……」
「あっ……!?」
たまりかねた俺は、おもむろに起き上がって紫を胸に抱いた。頭を撫でながら言う。
「ここなら、多少声が出ても、こもるだろ? 続けろ」
「俊二さぁん……」
腕の中の紫が、熱く潤んだ目で俺を見上げて、興奮に濡れた唇を突き出す。
「おい、風邪が移るぞ?」
「あなたからもらうんだったら、かまいません……。ください……」
そういう問題じゃない気もするが、俺の方も、さっきまでの痴態を見て、実はかなり高ぶっている。欲しかった。
「俺は知らんぞ……」
負け惜しみのセリフを言いおわらないうちに、俺は紫と唇を重ねた。
「んっ……んふ……う……」
決して飽きることのない、甘く柔らかな唇の感触と、味。俺は、知らずのうちにきつく紫を抱き締めていた。紫も、俺の背に回した腕に力を込める。
「んぐ……んぷ……んっ……うふう……っ……」
もつれるように布団へ倒れこみ、長い長い抱擁とキスが続く。
「ぷはっ……はあっ、はあっ……」
息継ぎに口を離した紫が、何かすばらしい物を発見したかのように顔をほころばせ、俺の腰のあたりで、尻をくねらせる。
「大きく……なりましたね……。すっかり……」
「……だな。無理だと思ってたが……」
パジャマの中、いつも通りに硬く屹立している肉棒。俺もしたかったし、してやりたかった。だから、復活したのは素直に嬉しかった。
「いいな? 紫……」
「はい……」
俺は、服を脱いで横たわった。そこへ、同じく全てを脱いだ紫がまたがってくる。
「ぅんっ……」
紫の手が添えられた肉棒。先端が、蜜にひたる。
「……」
「……」
そのまま数瞬、おののきにも取れるような――でも実際は歓喜の――緊張が漂う。
「俊二……さんっ……!」
そして、俺を見つめながら、一気に紫の腰が落ちる。
「くっ……!」
みっしりとしたヒダを一気にかき分け、中に収まっていく俺のモノ。こっちの腰がつい跳ね上がるほどの快感の波が来る。
「あっ……はあぁあぁ……っ……」
紫は、うっとりとした顔で体を反らせてしばらく動かず、ヒダだけで、俺をしごいてくる。
「ぅうんっっ!?」
ふいに俺から突き上げたせいで、紫が驚いて体を震わせる。腰の上の尻に、包みこむように手を添え、撫でながら言う。
「俺は大丈夫だ。だから、もっと動いていいぞ?」
「えっ……」
「そら」
紫に向けて、手を差しのべる。
そっと、だがしっかりと、繋がる。ちょうど、馬の手綱だ。
「俺のことは気にするな。好きなようにやっていいぞ。ここのところ、してやれなかったからな」
「俊二さん……」
紫の中が、きゅん……と締まる。
「んっ……!」
そして、本格的に腰がくねりはじめた。
「はぁふっ……んっ! んううっ! くっ……うあっ! あっ! あぁん……!」
恍惚の表情を俺に示しながら、ふくよかな肢体が俺の上で踊る。
豊満な乳房がぶるぶると揺れ、つなぎ目の茂みからは、くちゅくちゅ、たぷたぷという音が聞こえる。その中の熱さは、言うまでもない。
手のひらに、互いの汗を感じる。
手綱が、騎手の手をたぐる。
覆いかぶさってくる身体を、抱き締める。強く。
小動物のように頬ずり。何度目かの、キス。絡み合う舌、とろけるだ液。
両方の乳房、先端をつまみ、もてあそびながら下の芽も。
「んあぁぁーーっ……! あっ! あうっ! んっ! うふうぅっ……!!」
「く……おっ……!」
緊張が高まる。
上と下から、腰がぶつかりあう。
しがみつき合あう。
うなじに顔をうずめあう。
声を殺しあう。
そして……
「ゆ……かりっっ……!」
「しゅんっ……!」
わだかまっていた欲望を、俺は紫の中へそそぎ込んだ。
「んっ……しゅん……じ……さ……ぁはぁん……」
余韻の吐息を荒くつきながら、紫は俺の上で虚脱し、つながったまま、しばらく甘える。俺も、紫の髪を撫でながら、しばらく呼吸を整えた。

やがて、少し落ち着いた。紫の耳元に、ささやく。
「このぐらいじゃ、満足しないよな? なにせ、久しぶりだからな?」
「えっ?」
「さあ、今度は俺がお返しする番だ……!」
俺は、身体の上下を入れかえて、高らかに攻守交代宣言をした。
「あっ……また、大きく……? やっ、あぁぁっ……!!」



「う……あぁっ……はっ、はぁっ、あ……」
「ふうーっ……」
腕の中で、ぐったりとのびている紫。さすがに、俺もかなり疲れた。
あれから、正常位で一回、バックで一回、ついでにアナルで一回やれば、こんなものかも知れない。
病人が、なんでそこまで元気なのか?
実は、種明かしがある。
数日前、折込チラシ以外入るはずのないポストへ、俺宛に荷物が来ていた。
差出人は……『真殿 ケイ』。俺の古い友人であり、非合法なクスリの売人を主にやっている。裏社会と、独自のパイプを持つ奴のことだ。俺の今の居場所を探りあてたとしても不思議はない。

もっとも、奴がその情報を俺がもといた『組織』に洩らさないか、という疑念もないではないが、奴には、紫との再会を手助けしてくれたという恩がある。そんな奴を、あまり疑いたくはない。

ともあれ、その荷物の中には、薬のビンと、一通の手紙が入っていた。
いわく……

『面白いものが手に入った。“逆風邪薬”だ。好きに使え。』

つまり、『飲むと一時的に風邪になる薬』だというのだ。
猫になる薬があるぐらいだ。もう、何があっても驚かない。さっそく、俺はその薬を飲んで……みごとに、風邪をひいた。確かに症状は辛かった。だが、なまじ体力に自信がある分、めったに体調は崩さないから、面白くさえあった。
そうまでした理由は……簡単だ。
一日、紫と一緒にいたかった。週末以外で。
心配させてみたかったという、少し幼稚な理由もある。
「紫……」
俺は、いっぱいの安堵と喜びで彼女の名を呼びながら、汗だくの身体を抱きしめ、またしばらく頭を撫でた。
「はあっ……俊二さぁん……」
うっとりとした、嬉しそうな声。
だが、驚くべき言葉が続いた。
「素敵……すてきぃ……俊二さん、もっと……」
「なっ!?」
「もっと……もっとください……。飲ませて……俊二さんの……」
「お、おい……!?」
ねっとりとそう言ったかと思うと、紫は、俺の股間に顔をうずめた。



 その後……俺は、フェラで一回、騎乗位で一回やられてしまった。

自分が紫をセックスの虜にした。それは、間違いない。
そして、紫は俺を愛してくれている。それも、間違いない。
だが……時々、どことなく、怖い気もする。
俺は、騎乗位で達した後、なおも股間にはりついて肉棒をしゃぶっている紫を、ぼやけた視界で見つめながら、同じくぼやけた頭で考えていた。

「あぁっ……好きです、俊二さん……。おいしい……」