魔法の言葉と薬の話(続・看板娘)

その日の昼下がり、設楽絵美ちゃんは、うきうきとした足取りで廊下を歩いていました。でも、他の教室は授業中でしたので、あまり浮かれたそぶりは見せられないのですが、出来ればスキップしたいぐらいの気持ちで、歩を進めていました。
「んー……そーろそろかなぁ……?」
よく晴れ渡った空を窓から見上げ、ぽつんとつぶやいたときです。

ぱたぱたぱたぱたぱた……!

後ろから、ものすごく慌てた足音が迫ってきました。それに合わせて絵美ちゃんはピタリと止まり、くるりと背後へ向き直りました。
「はぁい、きょーこぉ♪」
「あっ……あれっ!? 絵美ちゃん!?」
きゅきぃっ! と古典的なブレーキ音を立てて止まったのは、同じクラスで絵美ちゃんの親友、相模鏡子ちゃんでした。
「ずいぶん慌ててるわね、きょーこぉ? どったの?」
「きっ……決まってるでしょ! お……おトイレよ……!」
「ふうん……」
「えっ!?」
言い終わらないうちに、横をすり抜けて後数歩のトイレに行こうとする鏡子ちゃんに、絵美ちゃんが立ちふさがります。鏡子ちゃんが右を抜けようとすれば右へ、左へ動けばそちらへ、絵美ちゃんは軽やかなステップで行く手をふさぎます。
「えっ?? えっ!? えぇぇっ!!」
「んふふ……きょーこ、アタシがバスケ得意なの知ってるでしょ?」
「しし……知ってるけど……なんでなんでなんでぇぇっ!?」
ただでさえ尿意が迫ってきているのに、障害物突破のために思い切り動かざるを得ない物ですから、鏡子ちゃんはもう必死の形相です。それでも、周りのことを思いだして、叫び声を全部床にこぼすあたりは、とても優等生でした。
「きょ・お・こっ♪」
「ひっ、あっ、きゃあっ!?」
そしてやおら、『けん・けん・ぱっ!』のリズムで、鏡子ちゃんに迫り、身体を抱き寄せる絵美ちゃん。そのまま、まるで社交ダンスのようにくるくると二人で回り、化学実験の授業でみんな出払っている、自分たちの教室へ入ったのでした。
「どっ、どうしたのよ絵美ちゃん……?」
絵美ちゃんの胸の鼓動が分かるぐらいに抱きしめられ、鏡子ちゃんはどぎまぎしながら訊きました。
「お嬢さぁん、どーしましたかぁー?」
でも、当の絵美ちゃんは、妙に芝居がかった口調でさらに強く鏡子ちゃんを抱きしめるだけです。そしてしばらく抱き合い、鏡子ちゃんがちょっとおとなしくなった頃、思いっきりの猫なで声で言いました。
「ねぇーん、きょーこおぉー……アタシ、きょーこにお願いがあるんだけどなぁー……」
「えっ……」
甘えるような目で可愛く言われては、いくらそこに何かしら不吉な物を感じていても、黙って聞くしかない鏡子ちゃんでした……。

「お嬢さぁん、どーしましたかぁー?」
それは、昨日の帰り道のことでした。絵美ちゃんは、ふいに後ろから声を掛けられました。
「あぁん?」
振り向いた先には、一人の小太りの男が立っていました。季節はずれの真っ黒な外とうをはおり、同じ色の山高帽をかぶっています。その時代錯誤なうさんくささたるや、問答無用で腰の入ったハイキックをえんずいに叩き込みたくなるようでした。ちなみに絵美ちゃんは、空手の茶帯です。
「おじさん、何よ?」
それでも絵美ちゃんがそうしなかったのは、その男のにやついた目が、しゃくに障るのもそうなんですが、何か、自分の心中を見透かしているような感じがしたからです。
「そこなおじゃうさん。この薬をあげませう」
「はあ?」
男は冗談のような口調でそう言うと、小さな丸薬が入ったガラスの小瓶を差し出しました。
「何よこれ?」
「魔法の薬に御座居まする。おじゃうさんの想ひ人……鏡子嬢に飲ませるがよろしひかと。のほほほほ……」
「なんでアンタ、きょーこの事……!」
ふざけきったしゃべり方に、突然鏡子ちゃんの名前が出てきましたので、絵美ちゃんはびっくりしてくいかかりました。
しかし……
「のわあっ!!!!」
「きゃぁっ!?!?」
やにわに男が、ぐわあっ!! と顔を拡散させてものすごい形相を作った物ですから、絵美ちゃんも同じぐらいに驚いて口を開けてしまいました。
「ていっ!!」
「んごっ!?」
そこへ、男の手がひらめきました。絵美ちゃんの喉の奥に丸薬を放り込み、飲ませたようでした。
「けふっ……なっ、なにすんのよ……!!」
不意をつかれた絵美ちゃんの怒るまいことか。えんずい斬りじゃあ飽き足りたりない、必殺の内臓殺しスペシャルでも見舞ってやろうかと思ったときです。
「あれ!?」
男の姿はすでになく、道ばたに丸薬の小瓶が一つあるきりでした。
『ほほほほほ……効果は身をもってご確認あれぇ~……』
風に乗ってそんな声が聞こえ、あたりはいつもの静けさを取り戻しました。
「うー……ん……」
全く唐突な出来事に、絵美ちゃんは首をひねってうなるばかりでした。
でも、使う使わないは別にして、持っておいてもいいかな、と思って、絵美ちゃんはその小瓶をポケットの中に入れました。

さて、場面を冒頭の教室に戻しましょう。
皆さんのご想像通り、男のくれた薬は利尿剤で、絵美ちゃんは鏡子ちゃんのお弁当のお茶に、こっそり薬を盛ったのです。それで、効き始める頃合いを見計らって、先に実験室を抜け出して待ち伏せしていたというわけです。
「な……何? 絵美ちゃん……」
抱きすくめられた腕の中、引きつりながらも目線をそらさない鏡子ちゃんに、絵美ちゃんはねっとりと吐息を感じさせる距離の唇から言いました。
「アタシねぇ……きょーこに、ここでオシッコして欲しいなあ……見たいなあ……」
「うっ……」
息をのむ鏡子ちゃん。薄々、そうではないかと思っていたのです。お互いの家でならそういうこともする仲の二人ですが、今は場所が場所です。でも、いやと言っても離してくれそうにない絵美ちゃんですし、何より、尿意はすぐそこまで来ているのです。
「だぁーいじょーぶよぉーん……ちゃぁーんと、見張っててあげるからさぁ……」
「で……でもぉ……」
「好きよ、鏡子」
「あっ……」
その一言を聞いて、一気に鏡子ちゃんの頬が染まります。そして同時に、「絵美ちゃん、ずるい……」と思いました。絵美ちゃんは、自分も絵美ちゃんのことが大好きで、その言葉を聞くと逆らえないのを知ってて言うのです。こんな意地悪があるでしょうか。でもやっぱり、それを聞くたびに、ただでさえおしっこを我慢して熱くなってきているおまんこが、もっともっと熱くなってきて、どうしようもなくなってくるのでした。
「け……けど、どうするの? 床にしちゃうのは……」
「こーゆーのが、あるんだなぁ……」
別の面からも股間をモジモジさせる鏡子ちゃんに、絵美ちゃんは自分のカバンから空になったペットボトルを出してきました。
「はい、この中にどーぞ」
「うっ……」
他に選択肢はありません。鏡子ちゃんは、震える手でそれを受け取りました。
「そこに座って。授業中なのを想像すると、燃えるかもよ……?」
「な、何言ってるのよぉ……」
困りながら、ショーツを脱ぐ鏡子ちゃん。ボトルの口を尿道口にあてがおうとするのですが、自分の目線からは見えませんし、焦りも手伝って、なかなか位置がつかめません。
「やりにくい? じゃあ、こうしてあげる……」
「あっ……」
そう言うと、絵美ちゃんは机の下へ潜り込んで、鏡子ちゃんのおまんこを指で拡げました。中は、おしっこ以外の物で濡れています。机の陰になって少し見えづらいですが、絵美ちゃんの目には、切なそうにうごめく大小二つの穴と、むせ返るような臭いがはっきり分かるのでした。
「いつもより、濡れ方多くなーい? きょーこぉ……?」
確かに、そのひくつく穴からおつゆがたくさんあふれているのが、机の薄闇にもよく分かりました。だって、自分で飲んでみて分かったのですが、あの薬は尿意と共にものすごく身体をうずかせる働きがあるからです。その効き目はすさまじく、絵美ちゃんは家のトイレで用を足し終わるや、便座に座ったまま何回何回もオナニーをしてしまいました。もちろん、オカズは鏡子ちゃんです。
「は……早くして……えみちゃん……で……でないとぉ……」
興奮を思いだしてうっとりしかけたところに聞こえる、歯ぎしり混じりの鏡子ちゃんの声。別に絵美ちゃんは、このまま彼女が自分の顔面めがけておしっこを吹き出させようが、ちっとも気にならないのですが、ここは家ではありません。後のことを考えると、断念せざるをえませんでした。
「はーいよ……」
「あんっ……!」
たっぷりと自分のだ液で濡らしたボトルの口を、鏡子ちゃんの尿道口にあてがう絵美ちゃん。「このままで支えとくのよー」と言い際に触れた鏡子ちゃんの指の震えがあんまりにもなまめかしくて、絵美ちゃんは、自分のおまんこが濡れていくのがはっきり分かるのでした。
「ち……ちゃんと見張っててよ……」
「へいへい」
もう限界、とばかりに弱々しい声を絞り出す鏡子ちゃんのかすかに濡れた唇。絵美ちゃんは、飲ませる時間と場所を間違えたかなあとちょっぴり思いながら、このままキスして押し倒したい衝動をぐぐっとこらえ、廊下の方を向くことにしました。
「はい、どーぞ?」
「んっ……うんっ……」
返事の最後は、お腹のいましめを解く小さなうめきでした。

ぱたっ……じょおぉおぉおぉおぉおぉおぉ……っ!!

「う……ううっ……あぁあっ……!!」
ボトルの底が抜けるのではないかと思えるぐらいの勢いで吹き出すおしっこの音と、薬で上乗せされたあらがいようのない快感を、それでもこらえようとする鏡子ちゃんの声が聞こえます。
「…………」
絵美ちゃんは、たまらなくなって後ろを少し振り向きました。すると、いっぱいの不安で泣き出しそうになっている鏡子ちゃんのまん丸な目と、視線がぶつかりました。その瞬間、ちょっとかわいそうだからそれなりに見張っていて上げようという絵美ちゃんの思いは、こっぱみじんに吹っ飛びました。うわずる声で言います。
「きょーこ……アンタ、なんて顔してんのよぉ……」
「ち……ちょっと絵美ちゃん……! ちゃんと見ててよ……!」
「見てるよぉ……ちゃんと見てる……アンタがぁ……教室でペットボトルにジョボジョボおしっこしてんの、ちゃんと見てるよぉ……」
「ちっ……ちが……あぁあっ……!」
その間も、鏡子ちゃんのおしっこは止まりません。いっこうに弱まらない流れはペットボトルをどんどんと満たし、顔を染める快感の紅潮は、遠目にもはっきり分かるほどでした。
やがて、長い長い鏡子ちゃんのおしっこが終わりました。
緊張しっぱなしの疲れと、やっと用を足し終えた安堵感と、なぜだかいつも以上にくすぶるえっちな気分に、鏡子ちゃんは、机の上に崩れ落ちるしかありませんでした。
「はふ……あっ……はあぁぁ……くっ……えみちゃ……これぇ……」
何とか気分を落ち着けようと、激しく背中を上下させながら、自分のおしっこがいっぱいに入ったボトルを絵美ちゃんに差し出す鏡子ちゃん。震える手が中身を揺らし、たぷん……と音がしました。
「きょ……こぉ……」
その音を聞いた瞬間、絵美ちゃんの理性にはロケットエンジンが装着され、はるか大気圏外へとすっ飛びました。いわゆる『ぷっつん』です。
「よこしなさいよぉっ……!」
ぷっつん絵美ちゃん、鏡子ちゃんの手からボトルをむしりとります。出したてほやほやですからとても熱く、たくさん入っているのでずっしりと重く、むせ返るような鏡子ちゃんの匂いをまき散らしている物。嗅いでいるだけで、頭の芯がビリビリにしびれていくのでした。
「はあぁっ……!」
「えぇぇっ!? ち、ちょっと絵実ちゃん嫌だぁっ!!」
鏡子ちゃんの悲鳴も、ぷっつん絵美ちゃんには聞こえません。大きく口を開け、その中身を口の中に注ぎ込んでいきます。
「うぶっ……く……うはあぁぁぁ……が……」
単なる塩水とは違う濃いしょっぱさが、のどを焦がしていきます。その灼けつきはさらなる刺激を求めて猛り、どんどんと絵美ちゃんにそれを飲ませました。そしてついには、いくらか身体に浴びた以外は、全部飲んでしまいました。
「きょーこの……きょーこのぉぉぉ……」
のどから背筋、背筋から全身に行き渡る、何かすさまじい衝動。それにつき動かされて、絵美ちゃんは自分のパンツを脱いでいきました。中は、飲んだ分がそのまま転じたのかと思うぐらいに濡れていました。
「ふう……ふうう……」
焦点の定まらないがゆえにたくさんの矢になって鏡子ちゃんを射すくめる、絵美ちゃんの目。ものすごい迫力をたたえています。
でもそれは、恐怖の迫力じゃあありません。大好きで、たまらなくて、切なくて、欲しくて、どうしようもなくて、ちょっぴり哀しくさえある……そんな目でした。
「え……みちゃん……」
だから鏡子ちゃんは、その目に見つめられて同じぐらいに自分のおまんこからおつゆをあふれさせながら、ゆっくり絵美ちゃんに向き直り、足を開いたのでした。

ちゅくり……

「うあぁっっっ……!!」
「はあぁあんっっっ……!!」
足を組み合わせ、たがいのおまんこをすり合わせ、コリコリにしこったびらびらと、パンパンに腫れ上がったクリトリスを感じた瞬間、それだけで、二人は同時に軽くイッてしまいました。
「あぐ……う……うはあぁぁ……きょ……こほおぉぉ……!」
大気圏外に飛び立った理性は意識の宇宙で爆発して粉みじんに砕け散り、ぷっつん絵美ちゃんは、けだもの絵美ちゃんになりました。夢中で、腰をねじ込んでいきます。
「おっ……おあっ……あはあぁぁっっっ……!! あっっ!! あいっっ!! いひいいぃぃ……!!」
「きひっっ!! いあっっ!! あっっ!! ああんっ!! え……みちゃあはあぁぁんっっ!!」
もうすでに、ここが授業中の教室であるとか、誰かが廊下を通る可能性であるとか、隣に聞こえるんじゃないかなんてことは完全にすっ飛んでいます。
そして、まともに書けば『あ』と『ん』と二人の名前の連呼と粘液音で枚数が尽きてしまうほどの時間が過ぎました。
「えっ……えみちゃ……!! わっ……私ぃ……また……あぁあっ!! 出ちゃうよぉぉっっ!!」
「いーーよぉぉ……出してぇぇぇ!! きょーこぉぉぉっっ!! アタシのマンコん中ぁぁ……オシッコして……してぇぇぇ……!!」
「んっ!! 出るっっ!! 出ちゃうっっ!! やっ!! イクっっ!! ひぎっっ!! あ……ふああぁぁぁーーーーっっっ!!!!」

じゅばっ……!!
じょじょじょじょじょじょじょじょぉぉぉぉぉ……!!

思いっきりイキながら、射精もかなわぬぐらいの勢いで、絵実ちゃんのおまんこにおしっこを注ぎ込む鏡子ちゃん。子宮の奥まではっきり分かるその熱い流れに、絵実ちゃんは本当に全身がとろけていきそうな錯覚に襲われました。椅子から転げ落ちて、そのまま床にへたり込みます。

しょおぉぉぉぉぉぉ……ぢょろぢょろぢょろぢょろ……

鏡子ちゃんは、ぐったりしながらもまだおしっこを吹き出させています。その放物線は弱まることなく、絵実ちゃんの頭上へと降り注ぎます。
「あふっ……は……あぁあぁっ……えみちゃぁん……見てぇ……まだ出るのぉ……出るのぉぉぉ……」
「うん……出てる……いっぱい出てる……ステキ……ステキよきょーこぉ……」
鏡子ちゃんのおしっこを真正面から浴びながら、絵実ちゃんは恍惚そのものの顔でいました。
「出る……全部……いっぱい……あぁ……え……みちゃ……あれ……?」
「……えっ……!?」
いつまでもいつまでも出続ける鏡子ちゃんのおしっこ。やがて……その身体がしぼみ始めましたではありませんか!
「あれ……? あれれ……?? え……みちゃ……ん……た……すけ……」
風船から空気が抜けるように、鏡子ちゃんの身体はどんどんしわくちゃになっていきます。
「きょーこ?? きょーこぉぉぉーーーっ!!」
叫びながらすがりつく絵実ちゃん。でも……

ぺしゃん……

鏡子ちゃんは紙より薄くぺらぺらになり、そのまま、オブラートのようにおしっこの海に溶けてなくなってしまいました。
「……きょーこ……うそでしょ……? そんな……」
教室いっぱいに広がったおしっこの海にへたり込み、絵実ちゃんは大粒の涙をポロポロ流して泣きました。
「うっ……そんな……いや……いやあぁぁぁ……きょーこ……きょーこぉぉぉ……!!」
涙はいつまでも止まることなく、身体中が全部涙になって流れていくかと思えるぐらいでした。
……そして事実、泣けば泣くほど絵実ちゃんの身体はしぼみ始め、どんどん小さくなっていくのでした。
ああ、これできょーこの後が追える。待っててねきょーこ……。そう思いながら、絵実ちゃんはますます涙を流し……自分もまた、オブラートのように、おしっこと涙の海に溶けていきました。
『きょーーーこぉぉぉーーーーーっ……!!』
絵実ちゃんの最後の叫びは、声にはなりませんでした。

・・・・・
・・・

「きょーーーーこぉぉぉーーーー!!!!」
がばり! と絵美ちゃんが跳ね起きたのは、ベッドの中でした。
「どっ、どっ、どうしたの……絵美ちゃん……!?」
そして、かたわらには、自分と同じく生まれたままの格好をしている鏡子ちゃんが、突然の大声に目を白黒させながらこっちを見つめていました。
「へ? きょーこ? あの変なオッサンは? 薬は? あれ?」
混乱のあまり、脈絡のない言葉を思いついたままに並べる絵美ちゃん。困ったような鏡子ちゃんの声がします。
「絵実ちゃんってば、何言ってるの? 変な夢でも見たの?」
「えっ……それじゃあ……」
そこで絵美ちゃん、やっと思い出しました。確かに、一緒に帰る途中、妙な黒ずくめの男に声をかけられましたが、『うるさい!』と、問答無用でえんずい斬りを見舞ったのでした。男は鈍い音を首からたてて倒れましたが、そのまま放っておきました。そして、いったん別れてから鏡子ちゃんの家に遊びに来て、いつものようにえっちをして、いつものように一緒に気持ちよくイッた後、何だか眠くなったので、そのまま眠ったのでした。
「よかった……きょーこ……きょーこぉぉ……」
絵美ちゃんは、鏡子ちゃんの胸に顔を埋めて、くしゃくしゃの顔で泣きました。夢で良かったと、心の底から思いました。
「絵美ちゃん……」
鏡子ちゃんは、胸がいっぱいになりました。いつもイジワルばっかりする絵美ちゃんが、こんな弱くて可愛い顔を見せてくれたのは、初めてだったからです。嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。
「好きよ、鏡子……好き……アタシの……鏡子ぉ……」
「私も、絵美ちゃんのこと大好きだよ……」
鏡子ちゃんは、絵美ちゃんのことがもっともっと好きになりました。

それからその日は、へとへとになるまでやりまくった二人でしたとさ。

 

―おしまい

看板娘の終わらない一日

「……どう? 絵実ちゃん……?」
「もーちょい前」
「このぐらい?」
「気持ち後ろ」
「……んっと……?」
「はあい、オッケ」
早朝の女子トイレ。相模 鏡子(さがみ きょうこ)ちゃんは、壁に手をついてお尻を突き出し、設楽 絵実(したら えみ)ちゃんの指示に従っていました。
「も……もうちょっと待ってね……」
「へいへい、わーってるわよー」
しいんとした間が流れます。校舎にはまだ誰もいなくて、二人だけです。
「いつも思うんだけどアンタ、恥ずかしくないのぉ?」
「恥ずかしいよぉ! でも、しっ……しょうがないじゃない!」
しらあっと言う絵実ちゃんに、鏡子ちゃんは真っ赤な顔で恥ずかしがりながら怒ります。
「あっ……あんまり見ないでよ、絵実ちゃん……」
口を尖らせる鏡子ちゃんですが、迫力はてんでありません。だって、彼女の下半身はすっぽんぽんなんですから。
「だーって、見てなきゃ出来ないでしょーがー……」
絵実ちゃんも、そんな声なんて聞き流して、しゃがんだ目線にある鏡子ちゃんのおまんこをじーーーーーっと見つめています。
「あー、そうだ。きょーこ、拡げ忘れてるよー」
「あっ……ごめん、絵実ちゃん」
鏡子ちゃんが、指で自分のおまんこをむにっと拡げます。中身はとってもきれいなピンク色で、膣の穴から尿道口まで、しっかり絵実ちゃんにさらけ出します。
「……アンタ、いつまで経ってもマンコの毛少ないねぇ……」
「……子供っぽいって言いたいわけ?」
「そ」
「ーーーーー……」
まるで『救いようがない』とばかりに冷たぁく言う絵実ちゃんに、鏡子ちゃんは頬を膨らませて、『お父さんの使っている育毛剤って、陰毛に効くのかしら?』なんて事を考えていました。
そんな鏡子ちゃんの気持ちなど知らずに、絵実ちゃんのだるーーーい声がします。
「あー……ったく……なーーんでアタシがアンタの検尿につきあわなきゃいけないのよ……。毎年毎年毎年毎年毎年毎年毎年毎年さあー……。なーーにが悲しゅうて、早朝のトイレで女二人、こんなことせにゃならんのかねえ……」
「そっ……そんなに何回も頼んでないでしょ!? 留年なんてしてないんだから!!」
「ばかあ。頭固いよアンタぁ……。言葉のアヤっちゅうのを分かりなさいよぉ……ったくう……。ところで、まだでないのぉ?」
「もっ……もうちょい……」
いらだたしげな絵実ちゃんに、鏡子ちゃんは申し訳ない気持ちで下腹に力を込めました。
「…………」
ふと、鏡子ちゃんが後ろを振り向きます。絵実ちゃんも、「どったの?」とだるそうに言って、視線を追います。
「えっ? ううん……やっぱりこのかっこ、なんか変だなって思って……」
そこには、大きな鏡がありました。ちょうど、二人の姿がすっぽり入っています。白いお尻を突き出して、おまんこをむき出しにしている鏡子ちゃんと、採尿用の紙コップを持ってしゃがんで待つ絵実ちゃん。はた目には、ものすごくシュールな光景でした。
「ほらほら、見とれない見とれない。さっさと済ます!」
「みっ……見とれてなんか無いわよ! 絵実ちゃんったら……」
「あーもう! 言い訳は後で聞くから! 早くやる!」
「ひゃっ!?」
おまんこの中に思いっきり息を吹きかける絵実ちゃんに、鏡子ちゃんは跳ねあがらん程に驚きました。
やがて……
「んっ……え……絵実ちゃん……出る……」
「あーいよ……」
鏡子ちゃんの尿道口から、おしっこが今まさに出ようとしていました……。

さて、どうして鏡子ちゃんは、わざわざ立っておしっこをしなければいけないのでしょう? それは、彼女のいやぁぁぁぁな体験によります……。

今日とは別の尿検査の日でした。鏡子ちゃんは普通に採尿カップをもらい、普通に個室に入って、ふつうううううにおしっこを取ろうとしました。 ですが、「よいしょ」と和式便器にしゃがんだその時……

ねろんっ

「ひっ!?」
お尻を、何かぬめっとした物がなめ上げました。
気のせいかと思って、もう一回しゃがみました。

べろろ~んっ

「きっ……!!」
やっぱり、何かにお尻をなめられました。
しかも、お尻の穴からおまんこからクリトリスまで全部なめられてしまいました。
「何……!?」
鏡子ちゃんは、すごく悔しいと思いました。いったい誰……いや、便器の中からという時点で、『誰』という表現は当てはまらないのだとは思いますが……とにかく、中をのぞき込みました。
「いやあぁあぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!」
絶叫、絶叫、また絶叫。金切り声も裸足で逃げ出し、絹を裂く音もかすむほど、鏡子ちゃんは叫びました。
「おっ! おっ! おっ! おおっ!!」
後の二文字が出てきません。
だってそこにいたのは……強引にたとえるなら……
『浮浪者のドザエモン・ただし首のみ』
あるいは
『袋叩きにしたクマ人間の頭部・毛剃り済み』
またあるいは
『現代風落ち武者さらし首・アバンギャルド添え』
……なんだか分からなくなってきましたが、つまりはそういう首だけオバケだったのです。それが、『にまぁ~っ!』と笑っているのです。
「あぁあっ……」
鏡子ちゃんは、そのまま泡を吹いて気を失ってしまいました。

次の日になって、鏡子ちゃんはみんなに必死で説明しました。でも、お約束と言いましょうか、だーーーれも信じてはくれません。おおかた、ゴキブリでも見たんだろう……という、全然違う方向で話はまとまってしまいました。しかも、『おおボラふきの鏡子』なんていう、まったく不名誉なあだ名までもらってしまいました。
かくのごとき次第で、以来、鏡子ちゃんは便器にしゃがめなくなってしまったのです。あれから何度かしゃがんではみたのですが、やっぱり、あの生首オバケが便器から出てきて、思いっきりお尻をねぶるのです。それで結局気を失い、またクラスの笑い物になり……鏡子ちゃんのクラスでの居場所は、すごーーーく、ものすごーーーく、狭くなっていきました。

しかし、日々の尿意は容赦なくやってきます。
でも、しゃがんでおしっこはできません。
結果的に、立ってやる必然性が出てきます。
女の子の立ちション。
普通、無理です。身体の仕組みが違うのですから、訓練でもしなきゃ、とてもできません。
鏡子ちゃん、訓練をしました。一人じゃできませんから、親友の絵実ちゃんに頼んで。お互いの家の風呂場で。
姿勢の研究から始まって、力の込め方、時間調節の仕方、我慢の方法……それはそれは奇妙かつすさまじい特訓でした。たかが検尿のためにこの努力。真面目です。根性です。作者も見習いたい物です。
そしてその努力の甲斐あって、鏡子ちゃんは、こぼさず、散らさず、見事に立ちションをするすべを身につけたのです。拍手。

……で、場面は最初に戻ります。

ぴしゅっ……ぢょろろろぼぼぼ……

「あ……ふあぁぁぁ……!」
研究しつくされた角度で、鏡子ちゃんのおまんこ……の上の尿道口……からおしっこが出ます。そして、きっちり正しく、絵実ちゃんの持つコップに入っていきます。見事な呼吸でした。
「おーおー……相変わらず出る出る……」
どんどん一杯になっていくコップをにやにや見つめながら、絵実ちゃんがヒヒヒと意地悪く笑います。
「せっ……生理現象なんだから、しょうがないじゃない……! それより、ちゃんととれてるの?」
返す鏡子ちゃん、いつものことですがプリプリ怒ります。
「だーいじょうぶよぉん……」
でも結局、絵実ちゃんには見事に流されてしまうのです。このへんも、見事な呼吸でした。

ちょろ……ちろろ……
おしっこは、ようやくその勢いを弱めました。
変わらない調子で、絵実ちゃんが言います。
「……ねえ、きょーこぉ……アンタ、マンコから別の汁垂れてなぁい?」
「なっ……!? そんな訳……! うあ……あ……んっ……!」
ニヤニヤと笑いながら、絵実ちゃんは鏡子ちゃんのおまんこのヒダを、ネチネチとなぞっていきます。そこはとっても熱くほてっていて、いっぱいのぬるぬるで濡れていました。
「んー……どっから興奮してたのかなぁ~? オシッコしてるときからかな~? 脱いだときからかな~? それとも、検尿の日になったときからかな~……」
「あぁんっ!!」
「おほぉぉ~絡む絡む……」
つるりと膣に指を入れ、思いっきり音がするように指でかき回します。鏡子ちゃんはもう気持ちよくて気持ちよくて、カクカクとお尻を揺さぶります。
「やっ……めて……えみちゃ……あっ! あああっ!!」
「んー……やめたく無いなあ……アンタの中、熱くってきもちいーんだもんなあ……ホレホレ……」
絵実ちゃん、鏡子ちゃんの訴えなんて、まるで聞いちゃくれません。
「うあっ……! やっ……あああぁっ……!!」
鏡子ちゃんは、甘ったるい声でもだえながら、どうして今日に限って絵実ちゃんがこんな事をするのか、不思議でたまりませんでした。確かに、立ちションの特訓をしている最中に、おしっこをガマンしたり一気に出す練習で、えっちな気分になってしまうようになったのは事実です。おしっこしながら、おまんこから別の汁をあふれさせたことだって、今日だけじゃありません。でも、絵実ちゃんは何も言いませんでした。だから、気づかれてはいるだろうけど、あえて言わないでおこう、と思っていたのです。
「はふ……あ……はあぁ……えみ……ちゃぁん……」
「やめて」と言おうか、「もっと」と言おうか決めかねて、鏡子ちゃんはお尻をくねくねさせるばかりです。そんな彼女を見て、絵実ちゃんは……
「あーー……もーーうガマンできない……!」

じゅるっ!!

「はうんっ!!」
おもいっきり、鏡子ちゃんのおまんこにむしゃぶりつきました。そのまま舌をべろべろ動かして、おまんこの汁もおしっこも、ずるずるとすすっていきます。
「ひあっ……あ! あぁぁっ!! えっ……えみちゃ……あんっ! きっ……汚いよぉぉぉっ!!」
悲鳴のような声を上げる鏡子ちゃんに、絵実ちゃんは言いました。
「……アンタのオシッコが、汚いわけないでしょーが……」
「えっ……?」
「あぁん? だーら言ってるでしょぉ? でろでろのマンコも、マン汁も、オシッコも、アンタのだったら汚くない……つってんのよぉ……」
真剣な想いをいつものダルダル口調に隠して、絵実ちゃんは、さらに鏡子ちゃんをねぶります。
「あ……あ……あはあぁぁぁっ!!」
鏡子ちゃんは、もう飛び上がるほど嬉しくて、そう思うともっともっと気持ちよくて、おまんこから新しい汁がどんどん出てきて、頭の中がわやくちゃになっていくのでした。

「あ……あ……あぁぁ……!」
身体が、おまんこからとろけていきそうです。
頭の中も、どんどん真っ白になっていきます。
なんだか、絵実ちゃんとの特訓風景やらその他諸々なんやらかんやらが、ぐるぐると頭を駆けめぐります。
ひょっとして、これが走馬燈というやつでしょうか、じゃあ、私はこれから死ぬのかしら? でも、絵実ちゃんにおまんこを舐められながら死ぬんだったらいいな……そんな風に思っていました。

「あんっ! んっ! んううっ!! えみ……ちゃぁぁん……」
「おいしい……おいしいよ、きょーこのマンコぉぉぉ……ああ……なんか白い汁も出てきたよぉぉ……」

ビリビリとした快感の中、いろんな光景が浮かびます。
そう……あれは、絵実ちゃんの家で特訓後、部屋でお茶を飲んでおしゃべりをしていたときでした。
一緒にマンガを読んでいて……本棚に目がいきました。
そこには、不釣り合いな見かけの本がありました。
気になった鏡子ちゃんは、絵実ちゃんがトイレに行っている間に、こっそり読んでみました。しおりが挟んであるところには……

「んはあぁあんっ! ウンッ!! ンッ!! んふうぅっ!! いいっ!! 気持ちいいっ!! ああっ! 絵実ちゃあん!! おまんこ気持ちいいぃっ!!」
「ああ……きょーこ……きょーこぉぉ……! すごい、すごいよアンタぁぁ……濡れちゃう……アタシもマンコ濡れちゃうじゃないのぉぉ……ああんっ……!」

自分もぐちゃぐちゃとおまんこをいじりながら、鏡子ちゃんのものをねぶり倒す絵実ちゃん。
まるで、あの生首オバケみたいです。
……そうです、しおりが挟んであったページは……あの、トイレの生首オバケの絵が描いてありました。そこに、召還がどうしたとか書いてあったのです。

「あうっ!! んっ!! んんんっ!! おまんこイイッ! 絵実ちゃんっ!! もっと!! 私のおまんこベロベロしてぇぇぇっ!!」
「んぐっ! んっ……ううんっ……! わーってるわよぉぉぉ……アンタのマンコはアタシのモンなんだから……アタシだけの……アタシだけのぉぉ……!」

トイレのオバケを呼び出して鏡子ちゃんにトラウマを植え付けたのは、他ならぬ絵実ちゃんだったのです。
そしてそういえば、オバケが出るようになった日は、鏡子ちゃんがクラスの男の子からラブレターを受け取った次の日でした。
でも、鏡子ちゃんは絵実ちゃんを許しました。実は、そうじゃないかなと疑っていたのです。けれど、鏡子ちゃんは思います。たとえクラスの全員から嫌われても、絵実ちゃんがいればいいと。もちろん、もらったラブレターなんて、封も開けずに捨てました。

「かわいい……かわいいぃぃ……あたしのきょーこ……きょーこのマンコォォォ……おいしい……ああ……アタシぃ……うれしいぃぃ……! いーい……? アンタはぁ……アタシのモンなんだからねぇ……!」
「あんっ! あんっ!! んっ!! んうううっ!! そうっ!! そうだよっ!! 私っ!! ああっ!! 絵実ちゃんのっ!! 絵実ちゃんのぉぉっ!!」

絵実ちゃんも、実は気に病んでいました。嫉妬からとはいえ、鏡子ちゃんにものすごく嫌な思いをさせてしまったのですから。
だから絵実ちゃんは、かけをしました。
わざとまじないの本を鏡子ちゃんの目に付くところに置き、彼女を試したのです。それで鏡子ちゃんが怒れば、絵実ちゃんは彼女をあきらめるつもりだったのです。
でも、鏡子ちゃんはいつもどおりでした。
ある日、彼女はこんな事も言いました。
「私、もしあのオバケを呼んだ人が分かっても、きっと許すよ。だって、絵実ちゃんと立ちションの特訓ができるようになったから。うふふっ……」
絵実ちゃんは、嬉しくて嬉しくて、どうしようもありませんでした。あんまり嬉しくて、鏡子ちゃんを想ってするオナニーの回数が増えてしまいました。

「きょーこぉぉ……アタシだけのきょーこぉぉ……! 可愛い……かわいいぃぃ……きょーこ可愛いぃぃぃ……!」
「あっ!! 絵実ちゃんっ!! 私っ!! イクッ!! イッちゃう!! ああっ!! おまんこっ!! おまんこイッちゃうぅぅっ!!」
「イッてぇ……きょーこぉ……! たくさんイッてぇぇ……!」

……疑いあい、でも、それを全部許しあい、信じあって、笑いあって、いつも一緒にすごす……。
それはつまり、とてもすてきな関係であって、簡単に二文字で言うと……

「あんっ!! イクッ!! 絵実ちゃんっ!! イッちゃうっ!!」
「アタシも……イク……きょーこ……いっしょに……いっしょにぃぃ……!!」
「絵実ちゃんっ!! 絵実ちゃぁぁぁんっ!!」
「きょーこ!! きょーこぉぉーーーっ!!」

『す……す……す……!!』

最後の一文字を言う前に、二人の意識は、プツン……と途切れてしまいました。

その店は、薄汚れた裏路地にありました。
入り口上のすすけた板に、『看板屋・ダウェンポート』と読めます。でも、看板屋という割には、薄暗い店内にはそれらしき物がありません。が、壁を見ると、『当店は、オーダーメイド専門です』と書かれていました。
「ごめん、店主はいるか?」
そこへ、一人の紳士風の男が入ってきました。
「へいへい……やあ、これはダンナ……」
声に応じて出てきたのは、黒ずくめのぼろけた服をまとった、小太りの男でした。
「どうかな?」
「エッヘッヘ……すっかり出来ておりますぜぇ……」
どこまでもいやらしい笑みに、客の男は、店を出ようかと思いました。
しかし、注文した品を受け取らないといけません。この男に支払ったお金は、前金だけでかなりの額なのですから。
「ぃよぉーいしょっ……と……こんなんでどうですかねえ? へっへっへ……」
「……むうっ……!」
やがて運ばれてきた看板を見て、男はうなるしかありませんでした。それほど、見事なできばえだったのです。
「ひっひっひ……題名は、『相模 鏡子と設楽 絵実の秘密の採尿』ってとこですかねぇ……ぐふふふふ……」
会心の笑みを浮かべる店主。男は、そのネーミングセンスのなさに、苦虫をかみつぶさざるをえませんでした。
「……しかし、本当にみずみずしい絵だな。生きてるみたいだ……」
「生きてますぜ。へっへっへ……」
「なにっ!?」
「この二人は、鏡の中で生きてると言ったんですよ。ヒヒヒヒヒ……」
「ちょっと待て!! 同系星民の商用捕獲および封印は極刑だぞ!? そんな非合法品なら前金を……!!」
「ウシシシシッ!! ダンナ、人の話は最後まで聞きましょうぜ? コイツをご覧くだせえ……」
店主は、一枚の紙を取り出しました。
それは、『この容姿をした、相模鏡子および設楽絵実という人間は、同系の星民には存在しない』という旨が書かれた、惑星連邦の公式証明書でした。
「なんなら、ダンナご自身が連邦のデータベースで検索して下さっても良いんですぜ? もっとも、この証明書に疑念を挟んだ方こそ、反逆罪で極刑ですが……ヒッヒッヒ……」
「なら……一体どうやって……」
男はただ、狐につままれたような顔でいるのがやっとでした。店主が得意げに言います。
「ダンナ、『地球』ってぇ星をご存じですかい?」
「いや……聞いたことがないな……」
「へっへっへ……やっぱりそうですかい……」
自分だけが知っていることを自慢するこの店主の態度に、男は激しく気分を害しました。プライベートでは絶対につきあいたくないタイプです。でも、初めて聞く『地球』という名の星については少なからず興味がありましたので、続けて話を聞くことにしました。
「アッシらの星から、銀河系の中央を挟んでほぼ対称の位置にある星でさあ……。おもしろいことに、星民の容姿から環境その他まで、アッシらとうり二つ。見かけ上の文化レベルもね」
「そんな星があったのか……かなりの辺境だな。しかし、『見かけ上』とは?」
「魔法のたぐいがねえんでさぁ。理論さえもね」
「なんと……」
男は絶句しました。店主のその一言で、機会があったら調べて行ってみようか……という欲はいっぺんに消えました。
「んで、その『地球』上から、ダンナのご要望にかなう女二人を探しだし……後はいろいろ伏線を張って……たとえば、アッシらの魔法の本を一冊紛れさせてやるとかね……。で、封印鏡をセットした場所で、感情がピークになるのを待つ……って寸法でさあ。ヒヒヒヒヒ……」
冷たい笑みを浮かべる店主。「ですから、高い高いと言われるウチの値札も、その辺の経費を考えればしごく妥当なんですがねえ……」と、訊きもしないことをぺらぺらとしゃべります。男は、さらに気分を害しながら言いました。
「しかし、封印した後、周りの者に対する処置はどうするのだ? いや、そもそも封印鏡を……察するところ、学校のようだが……そこに設置するのもだ。文化レベルが違いすぎるのなら、大混乱に……」
「そのへんの記憶操作法などは、企業秘密って事で……ウシシシシ……」
「なるほど……」
男は、長いため息を付きました。
どうやら、安全な買い物だったようです。彼はその場で残りの代金を払い、ようようと帰っていきました。そしてその看板は、男の経営する店……放尿プレイを売りにする風俗店の看板として、絶大な反響を呼びました。男が、それにかけた金を回収するのに、さほどの時間は掛かりませんでした。

今日も、鏡子ちゃんと絵実ちゃんの一日は終わりません。
今や看板となった鏡の中、一番幸福な瞬間を、いつまでもいつまでも繰り返すのです。

『す……す……す……!!』

次に続く、カ行二段目の一文字が、いつまでも、言えないままに。

―おしまい

緊急避難と再利用

「んむむむむむむぅ……」
白瀬 知美(しらせ ともみ)ちゃんは、顔を真っ赤にしてうなっていました。電車の中で数十分間、とんでもない我慢を強いられていたからです。
状況はいたって単純。電車が、めちゃくちゃに混み合っているのです。すし詰めもすし詰め、押しずし状態でした。

「ふぐぐぐぐぐ……」
どうして電車通学でもない知美ちゃんが、こんな通勤ラッシュの時間に電車に乗らなければいけないのか? それは、お母さんのお使いのせいです。普通の買い物なら、近所のスーパーに行けばいいのですが、今日はそうではありません。少し前に遠くのデパートで仕立てた、洋服を取りに行くのです。仕立てができあがった日と、創立記念日が重なったのが不運でした。せっかちなお母さんは『すぐに着たいわ』と言い、デパートの開店時間ちょうどになるように、知美ちゃんを一人で行かせたのでした。『一人で電車、乗ってみたいでしょ?』とお母さんは言うのですが、あのときは、窓から見える景色がおもしろかったから。今は、とてもそんなのんきなことを言ってられません。通勤ラッシュの噂は聞いていましたが、まさかこれほどとは……。見知らぬおじさんの汗の臭いと、見知らぬお姉さんの化粧品の臭いと、その他いっぱいで、知美ちゃんも、いつしかびっしょりと汗をかいていました。




「ぷはぁー……」
洋服の入った袋と、デパートでしか売っていない珍しい食材の入った袋を下げ、知美ちゃんは、ながぁいため息をつきました。
とにもかくにも、用事が終わったのです。後一時間電車に乗れば、家に帰れる。これだけ大変な思いをしたのだから、きっとお母さんはほめてくれるだろう。おやつを作ってくれるようにねだろう。ケーキがいいな、お母さん手作りのケーキ! 知美ちゃんの頭は、ケーキのことでいっぱいになりました。
ケーキ、ケーキ、ケーキ! 知美ちゃんは、わくわくしながら足取りを軽めていきました。




ケーキ、クリーム、紅茶、おいしい、おやつ……いろいろ考えているうちに、なんだかのどが乾いてきました。そういえば、来るまでにびっしょり汗をかいて、それから何も飲んでいません。知美ちゃんは、手近な自動販売機で500mlのペットボトルのお茶を買い、ごくごくとのどを鳴らして飲みました。お茶はとってもおいしく、元気がわいてくるようでした。元気いっぱいで食べるおやつは、もっとおいしいだろうな! 楽しみだな! 知美ちゃんの足取りは、ますますもって軽くなっていきました。




やがて、駅に着きました。
切符を買い、さあ、乗り込む前にゴミを捨てよう、ちょうど今飲み終わったし……そう思って、ゴミ箱を探したのですが……
「あれ?」
なんと、駅にあるすべてのゴミ箱に、封がしてあるではないですか。何やら、張り紙がしてあります。

『不審物が発見されたため、当分の間、ゴミ箱を封印します……うんぬん』

「こわいなぁ……」
しょうがないかな、と思い、知美ちゃんは空になったペットボトルを、自分の荷物の中に入れました。

ステップを踏んで踊るような音を立てて、窓から景色が流れていきます。
電車の中は、朝の混雑がうそのような静けさです。スーツ姿のおじさんや、しわくちゃのおばあちゃんが、ぱらぱらと座っています。

まったくのどかでした。大きな大きなゆりかごに乗って、家へ向かっているようでした。もし電車がこのまま空へ飛び立って、おとぎの国へ行ったとしても、知美ちゃんは不思議に思わないでしょう。そのぐらい、のんびりとしていました。

外の寒い空気も、電車の窓は通しません。お日様のポカポカとした陽気だけが、知美ちゃんに降り注ぎます。うとうと、うとうと……知美ちゃんは、なんだかとっても眠くなってしまいました。




「……あっ……?」
ふいに、知美ちゃんは誰かに起こされました。
あたりをきょろきょろと見渡してみても、手の届くところには誰も座っていません。それでも、知美ちゃんの目ははっきりと覚めました。寝ぼけ頭で考えて、知美ちゃんの血の気が、さあっ……と音を立てて引いていきました。
「おしっこ……したい……」
そうです。電車に乗る前に飲んだお茶が、今になって尿意をせき立ててきたのです。トイレ! と思えど、ここは普通の私鉄です。新幹線や特急列車のように、中にトイレはありません。通り過ぎていく駅の名前を見ます。なんということでしょう、まだ半分ほどしか来ていないではありませんか。そう思った瞬間、おとぎの国行き特別列車“知美号”は、暗黒の淵行き最終列車“絶望”に変わったのでした。

「…………!」
流れる景色も、今はやけにのろまに見えます。知美ちゃんの中にいる車掌さんは、さっきから、むやみやたらに鳥肌という名の汽笛を鳴らし続けています。
うるさい、うるさい、うるさぁい……! 知美ちゃんがいくら言っても、彼は全然聞く耳を持ちません。きっと彼は、目も耳もぽっかり空洞の、どくろのような外見をしているのに違いないのでした。

知美ちゃんは、もう泣きたくなってきました。このままでは、もらしてしまいます。ぱたぱたぱた……と足をもががせたところで、尿意がまぎれることも、まして電車のスピードが上がるわけでもありません。それでも、知美ちゃんはそうせずにはいられませんでした。

もぞもぞ……そわそわ……こつん。

「……?」
もがく足が、プラスチックを蹴るような音を響かせました。
それは、荷物の中に入れていたペットボトルでした。

ズッギャァーーーーンッ!!

知美ちゃんの脳裏を、背景に気合いの入った書き文字と雷鳴のエフェクト付きで、閃光が貫きました。

知美ちゃんは、頭のいい子です。それは、学校の勉強が特別にできるということではなく、創意工夫の点においてでした。ガラクタを再利用していろいろな道具を作ったりする……つまり、『違う使い道を考える』のが、とても得意なのです。

それが今、ひらめいたのです。
でも……あんまりです。あんまりにも恥ずかしいです。
確かに、それを実行すれば、この状態から解放されます。
『背に腹は代えられない』という言い回しを、いつだったかに習ったような気がしますが……それにしても……

がたんっ!!

「ひゃあっ?!」
突然、電車が大きく揺らぎました。本物の車掌さんのアナウンスが聞こえます。
「線路に置き石を発見したため、緊急停止いたしました……」
その後は聞こえません。もう、だめです。だって、さっきの衝撃でほんの少しもれちゃったんですから。

限界でした。
知美ちゃんは中学生。もう、おもらしをしてかばってもらえるような年ではありません。
ちょうど、列車は石を処理し終えたのか、再び動き始めました。怪しまれないように周りを見渡して、誰も自分に注意を払っていないことを確認してから、知美ちゃんは、意を決して立ち上がりました。

目指すは、列車の連結部。
両側に扉がついていますから、閉じれば部屋のようになります。中央にガラスの窓がついていますが、身を寄せればなんとか隠れられそうです。
扉のそばの席にも、誰もいません。電車が空いているのは、本当に幸いでした。

知美ちゃんは、その薄暗い小部屋の中にすべりこみました。ぶわぶわとしたじゃばらに背を預けて立ちます。そして、荷物の中からペットボトルと、ポケットの中からもう一つの道具を出しました。

それは、ケーキ用のしぼり袋と口金のセットでした。デパートでほかの買い物をしたときに、福引きをして当てたのです。五等の、いかにも安っぽい物ですが、十分です。知美ちゃんは、急いで準備にかかりました。

絞り袋に口金をはめ、じょうごの要領で、ペットボトルにはめます。
もう一度窓からこっそり周りを見て……誰も見ていないことを確認して、パンツを脱ぎました。

暗くて、どのあたりがおしっこの出口なのかはっきりしません。
でも、絞り袋の入り口はかなり大きいので、すっぽりと割れ目全体をおおうことができました。

後はおなかの力を緩めるだけなのですが、何せ場所が場所です。緊張してしまって、あんなに出したかったおしっこは、ちっとも出てきてくれませんでした。
「ふう……っふっ……」
あせる気持ちでいくらか力んで……
「あっ……」

しゅううぅうぅうぅーーー……じょぼじょぼじょぼじょぼ……

「あ……あ……あぁっ……!」
音が大きい! そう思いました。
ものすごいイキオイで吹き出すおしっこの音。
そのおしっこが、袋のビニールに思い切りぶつかる音。
さらに、口金にすぼまってペットボトルにたまっていく音。
全部がすぐ耳元で聞こえるぐらい、知美ちゃん本人には大きく思えました。

がたん……!

「ひっ……!!」
カーブを曲がったんでしょうか、列車が大きく揺れました。ぎしいっ……とじゃばらがたわみ、知美ちゃんはめいっぱいバランスを崩しました。
「うっ……ううっ……!!」
知美ちゃんは、根性で踏ん張りました。

じょぼぼぼぼぼぼ……

なのに、お股からは変わらない勢いでおしっこが出続けます。
頭と足はこんなに頑張っているのに、なんてのんきなんだろう……
知美ちゃんは、まるで人ごとのような笑いがこみ上げてくるのを感じていました。いえ、そのぐらい気持ちよかったんですね。

ちょろろろろ……

おしっこの勢いが、ようやく収まってきました。ぷううー……と、知美ちゃんが息をつこうとしたときです。
「!!」
一人のおじさんが、こちらの扉の方に向かってくるではありませんか!

ちょろ……ちょろちょろ……

「(はっ……早く止まって! 止まってぇぇぇーーーっ!!)」
そんなときに限って、おしっこは出尽くしてくれません。未練がましく大粒のしずくをたらしています。今パンツを上げれば、大きな染みが出来きるでしょう。それはスカートで見えないとしても、臭いがするかも知れません。コンマ何秒さえ惜しい。知美ちゃんは心底からそう思いました。

おじさんの距離は、あと2メートル? 1メートル? 何秒でこのドアを開ける? 私がパンツを上げるまで掛かる時間は? あれ? 絞り袋の後始末は? ここに捨てちゃう? ダメだよ汚い! おしっこの入ったボトルは? えっ? えっ? えぇえっ?!

見られる?? 見られる!? 見られる!!

それこそコンマ何秒の間に、知美ちゃんの頭には色んな事が駆けめぐりました。
でも結局、その思考の断片がまとまった答えは……

『万事休す』

……でした。
もういいや。訊かれたら、正直に全部話しちゃえ……!
知美ちゃんが、なげやりな気分になったときです。
「あっ……」
そのおじさんが、急に横を向いて縮みました。
どうやら、ドア近くの席に座っただけのようでした。
「はあぁーーー……」
知美ちゃんはどっと力が抜けました。と同時に、

ちょろっ……

……と、最後の一滴が緩んだ股からこぼれ落ち、全てが出尽くしました。
「あーー……」
「すっきりした」と「よかった」の言葉を一緒くたにしたため息をつきながら、知美ちゃんは、崩れ落ちそうになる身体を、連結のじゃばらに預けていました。

「ただ今から、車掌が車内に参ります。乗り越しその他、ご用の方は……」
再び聞こえる車掌さんの声。
こうしてはいられません。知美ちゃんは、急いで後始末をすることにしました。




知美ちゃんは、無事、家に帰ることが出来ました。
お母さんは出かけていました。どうやら、新しい服に合わせて美容院にでも行っているのでしょう。知美ちゃんは、少しほっとしました。

「…………」
自分の部屋。
知美ちゃんは、荷物の中から出してきたペットボトルを机の上に置き、椅子に腰掛けほおづえついて、ぼんやりと眺めていました。

改めて見ると、空だった500mlが、5分の4ぐらい戻っています。
そこに入って、窓から差し込む午後の日差しを机にゆらめかせているのは、お茶ではありません。
自分の、おしっこなのです。

ケーキ、クリーム、絞り袋、口金……じょうご。
お茶、ペットボトル……おしっこ。

「ぷっ……」
知美ちゃんは、何だかとてもおかしくなってきて、思わず吹き出してしまいました。
「あははははっ……!」
ひとしきり笑った後、知美ちゃんは、ポケットから丸まったティッシュを取り出しました。
おしっこが出終わった後、お股をふいたティッシュです。
眺めていて、不思議に思いました。
ふいたとき、なんだか割れ目がぬるぬるしていたのです。
おかしいなと思ってよくふいたら……それが、気持ちよかったのです。
まったく、変でした。
あんなに緊張したのに、あんなに辛かったのに、あんなにどきどきしたのに……?
考えれば考えるほど、変でした。
でも、ずっと考えると疲れそうなので、やめました。

「とりあえず、このおしっこ流してこようっと」
知美ちゃんは立ち上がり、ペットボトルを持ってトイレに向かいました。

「よく洗ってから、このペットボトルは捨てないとね……」
歩きながらの独り言に、でも……と、心の中で続けます。

でも、この口金としぼり袋は、よく洗って持っておこうかな。
何回でも、使えるように。

なんだか楽しそうな、知美ちゃんでした。

―おしまい

 

たちにょは人のためならず?

「調査は進んでいるか?」
「はっ……行為と結果の因果関係は判明しましたが、阻止方法まではまだ……」
ごく限られた生徒しか知ることのない秘密の会議室。数人のメンバーが深刻そのものの顔つきで会議を行っていました。議長らしき男が続けます。
「我々には時間がないんだ! 彼はもう、三年生になっているんだぞ! 彼の性質上、留年をさせるわけには行かないんだ! もう一度確認する。リミットまで、あと何回だ。出せ」
その声に答えて、別の女性は一層沈痛な表情になりましたが、渋々といった感じで、コンソールのキーを叩きました。
「…………」
画面に現れたのは絶望的な結果のみ。怒鳴られた幹部は口をつぐむしかありませんでした。
「何回と読める?」
アンタこそ、何回同じ事を言ってるんですか、イヤミですか……そんな不満をぐっと堪えて、彼は声を絞り出しました。
「あと……一回です」
「そうだ、あと一回だ!」
ほとんどお決まりのように机をばんっ! と叩いて、彼は立ち上がりました。
「いや、いらだっても仕方がないか……とにかく、警戒態勢を厳重にして、構造の調査に全力を挙げろ! 猶予はない! 諸君の速やかなる行動を期待する! 以上、解散!!」
緊迫した空気とともに、その場にいた者達は各自の持ち場へと散っていきました。
「……僕は、現状の維持で良いのですか?」
ふと、それまで一言も発言しなかったあるメンバーが、抑揚のない声で議長に訊きました。議長は、彼を信頼しきった目で見つめて「そうだ、よろしく頼むぞ」と言いました。

「はあ……」
部活の始まったテニスコート。館 翔子(たち しょうこ)さんは何十回めかのため息をついていました。先輩達の指導する声もつつぬけで、彼女は一つのことばかり考えているのです。「ああ、こんなはずじゃなかったのになあ……」と思ってみても、やっぱり身の入らないことには変わりません。ああこんなはずじゃなかったのに、もっと一生懸命部活に打ち込むはずだったのに……どうして……。入学して一ヶ月、何百回同じ事を考えたでしょうか。
「あっ! 館さん危ないっ!!」
「……えっ?」

ぱっかーーーんっ!!

やけに小気味のいい音と共に、頭に硬い衝撃が来て、館さんはへなへなと倒れてしまいました。そう言えば、今自分はラリーをしていたのでした。『悩むか動くか、どっちかにできればいいのに。こんな中途半端なことだから、いつまでも踏ん切りがつかないんだ。でも……』気を失う最後の最後まで、館さんはめそめそとした気分でいるのでした。

「だいじょうぶですか、館さん?」
戻ってきた視界に入ったのは、保健の先生でした。仁王堂 好子(におうどう よしこ)という、ものすごくいかつい名前の先生ですが、気だてはとっても良く、みんなにはすごく人気があるのでした。
「すいません、先生……」
「いいですよ、無理をしなくて」
そう言って好子先生は、起きあがろうとする館さんを手で制しました。寝直しながら、ここにかつぎ込まれた理由を思い出し、どうしても館さんはしゅん……としてしまいます。そこへ、いつの間にかくだけた調子になっている好子先生の声がしました。
「なにか、悩んでない? 見たところ、恋の悩みってところかしら?」
「えっ……!?」
そのものズバリをいきなり指摘されて、館さんはぎょっとしました。
「すごく、分かりやすい顔してるわよ。うふふ……」
大きな眼鏡の奥、少し小じわの走った目がいたずらっぽく笑います。おかげで館さんは、すっかり恥ずかしくなってしまいました。これが、好子先生の人気の秘密です。保健室を訪れる生徒は、必ずしも体調が悪い人ばかりではありません。色んな事で悩んでいる人がほとんどと言ってもいいでしょう。どこの学校でも、保健の先生はそういうカウンセラー的な役目を負っていますが、この好子先生の場合は、それがとても際だっているのです。どんなちっぽけな悩みもよく聞いてくれて、適切なアドバイスをくれるのです。おまけに物腰にいやみなところが少しもないので、いまのようにずばりと心に踏み込まれても、みんな、嫌な気持ちはちっともしないのでした。
「お相手、当てて上げようか?」
にこにこと館さんの顔をのぞき込む好子先生。まるで、自分だけの秘密の宝物を持っている小さな女の子のようです。館さんはいよいよ恥ずかしくなって、「うぅっ……」とうめきながら、耳まで赤くするしかありませんでした。
「三年の、瀬木君……でしょ?」
「ーーーーーっ!!」
もう館さんときたら、掛け布団の中に潜りきって身体を丸め、もがもがとうごめくきりです。でも、指摘されたのが嫌なんじゃあありません。確かに恥ずかしいです。すごくすごく恥ずかしいのですが、瀬木先輩のことは考えていたいのです。言って欲しくないけど言って欲しい。秘密にしておきたいけど知って欲しい。相反する気持ちがそれはそれは激しく渦を巻いて、館さんはそのまま、布団の闇の中にとろけ込んでいきそうでした。まったく、乙女心は複雑です。

「でも彼、人気あるわよねえ……」
「…………」
布団の中の館さんが、ぴたりと止まりました。そうです。そこが一番の問題なのです。瀬木先輩は、成績優秀スポーツ万能、人当たりもよく、男女を問わず、彼を嫌う人なんていません。でもなぜか特定の彼女がいるという話はさっぱり聞かず、お付き合いしたいという人も男女問わず山ほどいます。そんな瀬木先輩は、せいぜい真面目さぐらいしか取り柄のない館さんには、遠すぎる憧れの人なのでした。

「それでも、何とかチャンスはないかなって、思ってない?」
「…………」
どうして好子先生は、こうも自分の気持ちを読むのがうまいのだろう? 魔法使いか何かなんだろうか? そんな突拍子もない事さえ頭に浮かぶほど、館さんは布団の中で驚きました。
でも、確かにそうです。かなわぬものほどすごく焦がれてしまうのは、人の常というもの。ひとめ見かけたその日から、好きで好きで仕方がないのです。今までだって、どれだけ瀬木先輩に寄り添う夢を見たか知れません。その夢を思い出すと、館さんはとても悲しくなって、布団の中でまたしくしくと泣いてしまうのでした。
「ねえ、館さん。あなた、おまじないとか、ジンクスとか、信じる方?」
「……??」
突然、好子先生は変なことを言いました。館さんはわけが分からず、べそ顔を布団からひょこっと出しました。すると、目の前に先生の顔があったので、館さんは「きゃっ……」と息を飲み込んで、そのまま固まってしまいました。
「この学校に昔から伝わる、恋愛成就のジンクス。……聞きたい?」
もこもことしたくせっ毛から、ふんわりと香水の匂いがします。その香りにつられるように、館さんは「はい……」とうなずきました。

「よし、揃ったか。各人、結果を伝えてくれ」
それからしばらくの日が経ちました。場所は再び秘密の会議室。議長が調査の終わったメンバーを前にして、緊迫した面もちでいました。
「一点、ありました」
余計な前振りをつけず、一人が言います。「続けろ」という声の終わらないうちに、彼は報告をし始めました。
「保健の仁王堂教諭が、一人の女子生徒に教えていました」
「なんだ、それぐらいはよくあることだ。実行の確率でもあるのか?」
「そこです。不思議なことにその生徒は……例の『能力』の影響が見受けられないのです」
「ばかな……?!」
「確証はありませんが、よほど思念が強いのか……ともあれ、その生徒の性格を調査しました。よく言えば極めて真面目、悪く言えば熱中のあまり自ら視野をせばめやすいタイプです。その他のデータをかんがみて計算しましたところ、あのジンクスを実行する確率は……95%以上と出ました」
「なんてこった……!」
頭を抱えてうめく議長。やがて、一筋の光明を思い出したかのように言いました。
「まてよ、相手はやはり……」
「そうです」
うなずきあう二人の視線が、対面に座る別の男子生徒に注がれました。
「瀬木。お前から動いてもらう。なんとか、阻止してくれ」
「……分かりました」
瀬木君は静かにうなずくと、音も立てずに席を立ち、部屋を出ていきました。
「瀬木、お前が最後の望みだ……」
議長がつぶやいた言葉は、その場にいたみんなの思いでした。

「えぇえぇーーーっ?!?!」
それからまたしばらく。部活のために登校してきた日曜日。館さんは、ほんとうに腰を抜かして驚いていました。
だって、下駄箱に手紙が入っていたのです。それも、瀬木先輩から!

『館 翔子さんへ
ぜひお話ししたいことがあります。
屋上まで来て下さい。待っています。
瀬木 規孝』

館さんは、一気に体の芯までぽうっ……と熱くなってしまいました。それというのも、好子先生から教えて貰ったジンクスは、あんまりにも奇妙すぎて、どうやって実行しようかずっと悩んでいたからです。でも、向こうから来てくれるとなったらもう何も心配することはありません。このジンクスでとどめを刺しちゃおう……! 館さんの後ろに、ごうごうと燃えさかる炎を見ていただければ幸いです。
「よおし……!」
館さんは、これから部活であることも忘れて、テニスウェアのままで屋上へ駆け出しました。いくら真面目な館さんと言えど、瀬木先輩の呼び出しは何にも優るのです。だからちょっぴり、心の中で『クラブの先輩、顧問の先生、ごめんなさいっ!』とつぶやくにとどめました。

「…………」
屋上の一角に立ち、瀬木君は考えていました。
もうすぐ彼女が来る。でも、どちらかというとゆううつだ。いよいよ、自分が持つ『能力』のリミッターを外さなくてはいけない。そうすれば、目標の館翔子は、瞬時に、僕が彼女に揺るぎ無い絶対の恋愛感情を持っていると思うようになるだろう。相思相愛、運命の二人と認識し、あのジンクスなど、おこなう気もなくすだろう。

女子の間だけで広まっているというあのジンクス。『どうしても振り向いてもらえない好きな男の子がいるときには、屋上のある一角に彼を呼びだし、そこで立ちションを見せること』……まったくばかげている。だが、それはとんでもない導火線だった。

この校舎には、おそるべき仕掛けがしてあったのだ。ジンクスの示す屋上のポイントこそ、導火線の着火口。火となりうるのが、それは、ある一定の高さから落下する、ある液体だ。一定以上のアンモニア濃度を持ち、一定以上の塩分その他諸々を含む液体……つまりは、女子生徒の、立位にて行う尿の排泄行為。女の子の立ちションなのだ。

過去数回のデータを見せて貰った。なるほど、そのジンクスを行ったカップルは、例外なく結ばれている。だがしかし、それも超常的な理由ではない。おそらく行為に信憑性を持たせるためだろう、『導火線』が燃える見返りに、尿に反応したタイルから、一種の持続性フェロモンが滲み出ていたのだ。おかげでじわじわと行為は繰り返され……僕が今、ここにいるのだ。最後のジンクス実行を阻止するため、この学校に送り込まれた改造人間。裏生徒会のメンバーによる仕掛けの分析が終わるまで三年の時間を稼ぐため、つねに全校のある程度の好意を集めるように『義務づけられた』のが、僕なのだ。

「しかし、待てよ……」
そこで、瀬木君ははたと思い返しました。常日頃から、自分はみんなに、あのジンクスを行わないよう集団催眠をかけているに等しい。じゃあなぜ、館翔子だけ、それが効かないのだ? それほど、彼女の思念……自分に対する思いは強いのか?

「ばかな……僕がそれほど……真剣に想われているだと……?!」
そう思うと、瀬木君は無性に胸がどきどきしてくるのでした。会議室のモニターで見た館さんの顔が頭をちらついて、くらくらします。それは、ずっと機械のように任務を遂行してきた彼にとって、初めて感じる想いでした。

屋上と校舎を隔てる、分厚い扉の前。館さんは手にいくらかの汗を握りながら、ドアノブに手を掛けようとしていました。この向こうに先輩がいる。そして、緊張のせいか、さっきから激しい尿意が下腹部をせき立てています。準備は良し。でも、どうやって話を切り出そうかしら? なにせ、大好きな先輩の前で、オシッコをするなんて……普段の館さん、いいえ、普通の女子生徒なら頭をかすめだにしないことです。そういえば、私はこのジンクスをクラスメイトから聞いたことがない。いや、聞いてすぐにたちの悪い冗談と思って忘れたのかも知れない。そう思い始めると、何だか保健室で聞いた好子先生の言葉すら疑わしくなってきます。いやいや、でもあの好子先生に限って、生徒をだますなんて事は……
「あっ……」
そんなことで迷っているうちに、もうおなかはパンパンです。もし、ドアノブを握ったときに静電気が走ったら、そのショックでおもらししてしまうのではないかと思えるほどでした。

がちゃっ……

どうやら、大丈夫のようでした。視界に飛び込んでくる青空、新緑の香り立つさわやかな風の向こうに……先輩は、いました。
「館さん……」
「せんぱい……」
館さんは、瀬木先輩の顔を見た瞬間、疑念も何も全部風に持って行かれて、ふわふわと彼の元へ行きました。
瀬木君も、館さんの顔を見た瞬間、使命も能力も何もかも、全部忘れてしまいました。そうなると彼はもう、ほかよりうぶなただの少年です。じいっと、歩み寄ってくる館さんを見つめます。
「ああ……せんぱい……せんぱいぃ……」
春風は、館さんの頭のネジも何本か持って行ってしまったようです。立ち止まった彼女は、紅潮しきった顔に潤みきった瞳で眼前の彼を見つめ、おもむろにアンダースコートを脱ぎ、スカートを持ち上げていきました。
「先輩……見て下さい……」
「…………」
どうやって話を持っていこうかなんて、関係ありません。ただ、何の力を借りてもいいから、今この瞬間をつなぎ止めておきたい……そんな想いと、ものすごい緊張でもよおしていたオシッコが、あまりに嬉しさに脱力して……ああもう、どっちでもいいですね。

じゅじゅじゅじゅじゅぅぅ……

音さえ立てながら、薄桃のパンツを内側から濡らしていく熱いオシッコ。ぱたぱたとしぶきを立てて、屋上のマス目に落ちていきます。
「…………」
目の前の瀬木先輩は、真っ赤な顔で館さんの股を見つめています。心なしか、ズボンの前が膨らんでいるようにも思えました。館さんも、別のぬめりが奥からあふれてくるようでした。目の前の彼を想って自分を慰めたことも、一度や二度や三度や四度じゃないのです。
「はああ……ん……」
館さんはもうなんだか最高に嬉しくて、ああ、夢なら覚めないで、と思いました。
「館さんっ!」
「あむっ……?!」
突然、館さんの視界と呼吸がさえぎられました。オシッコを全部出し尽くし、絶頂にへなへなと崩れそうになっていた彼女を、瀬木先輩は思いっきり抱き寄せ、思いっきりキスをしたのです。

「んっ……! んぐっ……うぅうっ……」
がむしゃらで、無遠慮な、荒っぽい……でも、とても心のこもったキスでした。そうです、夢じゃありません。きちんと止められた詰め襟の制服。その下から、先輩の心臓がものすごい早さでときめいているのが分かったからです。
「(せんぱい……せんぱいぃぃ……)」
くちゅくちゅと互いの唇をむさぼりながら、館さんは、自分の中で溜め込んでいたものが全部流れてしまうような涙をはらはらと流していました。
「(ああ……なんて可愛らしいんだ、なんて……なんて……!)」
瀬木君だって同じです。これまで彼が集めてきた好意は、いわばにせもの。ほんとうに彼のことを想ってくれる人はいないんだ。僕は、そういう役目なんだから……彼自身、そう思い続けてきました。だから、女の子のこれほど真剣な告白……オシッコまで見せてくれる覚悟……そのすがるような顔……そしてキス……全て、初めてだったのです。胸の辺りにこみ上げてくる感情に、瀬木君は、『気付いて良かった』と思いました。

しかし……

ぐごごごごごごぉ……

「えっ……?」
突然、校舎全体がうなりを上げ始めました。そして、二人の立っている辺りから、ヒビが入っていくではありませんか!
「しまった……!!」
瀬木君は、ここへ来た当初の目的を思い出しました。ですが、もう間に合いません。ジンクスは規定回数実行され、導火線は燃え尽きたのです。
「なっ……何? 何なのぉ……?!」
幸せの山頂から、一気に千尋の谷を渡る綱の上へ。館さんはわんわんと泣きながら、瀬木先輩にしがみつくだけでした。
「館さん、いや、翔子ちゃん。そのまま、僕にしっかりつかまってて!」
「へっ……? きゃあぁあぁあぁーーーっ?!?!」
瀬木君はジャンプ一番、遙か上空へ飛びました。ええ。『跳んだ』のではなく、『飛んだ』のです。そして、がらがらと崩れ落ちる校舎の破片が及ばない、校庭の隅へと着地したのでした。
「うそ……」
瀬木先輩の腕に抱えられて、館さんはその通り目を白黒させていました。
「えっと……その……どこからが夢なんでしょう? せんぱい……? あの、私……ずっと……こうやって先輩に抱かれたりする夢を見てたのは本当なんですけど……?」
「夢じゃないよ。翔子ちゃん」
「あっ……」
そう言って瀬木君は、館さんをぎゅっと抱きしめました。お互いの胸の鼓動が、何よりの証でした。
「……やっぱり、あのおまじないのせいですか……?」
「違うよ。いや、初めはそのつもりだったんだけどね……」

そうして、瀬木君は館さんに全てを話しました。あのジンクスの本当の狙いと、みんなにかけていた能力のこと、自分は、校舎崩壊を阻止するために送り込まれた改造人間であることも……。

「そんな……じゃあ、私のせいで……?」
「いや、翔子ちゃんのせいじゃない。むしろ、僕は君に感謝してるんだ。君は僕に、人間らしい気持ちを思い出させてくれた。本当の感情を教えてくれたんだ。ジンクスもフェロモンも関係ない、ほんとの気持ちをね」
「…………」
それにしては代償が大きすぎると思うのは、作者だけでしょうか。ともあれ、そんな風に大げさに言われると、果たしてどう返して良いのやら。館さんはうつむいて上目遣いに先輩を見るだけです。
でも、次の瞬間には、その彼も上目遣いになって言葉をこもらせはじめました。
「だから……その……さっきは、いきなりキスしちゃって、ゴメンよ……。順番が逆になったけど……あの……僕と、つき合ってくれないか……?」
「……はい!」
大きくうなずいて、館さんは大好きな先輩に抱きつきました。

暮れる夕日を背景に、果てしなくロマンチックな二人。間に挟まるがれきの立場は、一体どこにあるのでしょうか。ないですね、今のところは。それから、いつの間に夕暮れになったのかなんて野暮なことは言いっこなしですよ。愛は時間を超えるのですから。




そして、翌日。
月曜日だと思って来たら学校が……校舎そのものがないのですから、みんなの驚いたことと言ったらありませんでした。しかし、先生たちには極秘のうちに連絡が回っていたので、混乱はさほどありません。すぐに校庭で青空ホームルームが開かれ、今後の対応が伝えられました。

しかし、かんかんに怒ったのが校長先生です。文字通りの学校崩壊を防ぐために、調査機関たる裏の生徒会を組織したのも彼なら、切り札として瀬木君を入学させたのも彼です。その瀬木君が失敗したのですからもう……

「あんな役立たずは退学だ!! どこへなりと消えるがいい!!」
二人の蜜月も、ほんの数瞬。あわれ瀬木君は、人知れず退学となってしまいました。

瀬木君がどこへ行ったのかは、誰にも分かりません。もとより彼の個人データは学内にはなく、素性を探るという意欲も、彼自身の能力でみんなの中から消していたのです。彼がいなくなった今、存在の記憶自体が消えていこうとしていました。闇から闇。それが、いつの時代も改造人間の宿命のようです。

でも、たった一人、彼女だけは違いました。

「せっかく両想いになったんだから! あきらめないわ!!」
館さんが、リュック一つで家を飛び出すのは、それからすぐのことでした。

恋する乙女は、強いのです。

翔子ちゃん、がんばれ!

-おしまい

うらめしあずき 5

「…あれ?」
気がつくと、曽宗さんは保健室のベッドに横たわっていました。
ちゃんと、制服も着ています。確か、プールで……
「よう、おはようさん。よく寝てたな」
その時、横から声がしました。振り向くと、隣のベッドでくつろいでいる緒茂さんがいました。
「あ…あの…なにがどう…?」
「ま、成功ってことさ。お疲れさん」
「…………」
「さーて、今日も一日が終わったか! 帰ろ帰ろ。お前も帰れよ。もう授業は終わって、先公に連絡は行ってるからさ。大丈夫だろ?」
「えっ? う…うん…」
「んじゃな」
短く言い残すと、緒茂さんは昨日のようにくるりと背を向けて保健室を出ていきました。
「あー…やっぱり言わずにゃいられねえなあ…」
…と思ったら、またくるりと向き直りました。くるくると忙しい人です。
「な…何?」
いぶかしむ曽宗さんに、緒茂さんはたっぷりと間を取って言いました。
「…最高に可愛かったぜ。ひひひっ…」
「………っ!」
ぼんっ! と音を立てそうなほどに、一気に赤くなる曽宗さんでした。

時間はもう放課後でした。教室まで帰る途中、クラスメイトの何人かとすれ違い、そのたびに「大丈夫?」と声をかけられます。それにすべて「うん…うん…」とうつむいたままの生返事で返す曽宗さん。…どうにも納得行かなかったのです。のろのろと教室に戻り、帰り支度を整えて、やっぱりうつむいたまま、下駄箱に向かいました。

所変わって、ここは体育館の裏。緒茂さんは、そこで待ち合わせをしていました。
「お嬢」
「お疲れさま、緒茂さん。どう? 彼女の具合は」
「ああ、もう目ぇ覚ましました」
「そう、良かったわ…」
「でも、まーだちょっと、余韻が残ってるみたいですけどね」
「まあ…うふふっ…」
にこにこと緒茂さんに返しているのは、まぎれもなく御司留さんでした。

「へへへーっ、お嬢のテク、すごいですからねえ…」
「あら、気に入った相手には、思いっきり気持ちよくなって欲しいと思うのが普通でしょう?」
「ま、そうですけどね。…にしても、あの薬、スゲェですねぇ。アイツ、プールん時は飲んでないと思ってたから、反応の面白かったこと! 『そ…そんなあ…あたし…飲んでな…あ…あーっ!』だって。可愛い可愛い。お嬢が目をつけたのも、うなずけますよ」
「ええ…」
「お嬢もすごかったっすよ、薬無しでも、みんなに見られて、オシッコ我慢してるだけであんなにヌルヌルですもんね。マゾっ気たっぷり。いつもながら、すごく可愛い…どれだけ混ざりたかったか…」
「もうっ…! からかわないで…。それに、『目をつけた』なんて言わないで。もっと仲良くなりたいって思ってるだけよ」
「はいはい。んじゃ、そーゆーことにしておきますよ」
ぷう、と頬を膨らませる御司留さんに、ひょい、と肩をすくめる緒茂さんでした。
「それから緒茂さん、その雑な口調、いつも言ってるけど何とかならない?」
「へ? やあ…こりゃあもう…どうにもならないっすよ…クセですから…」
「…私の部屋じゃ、いつもあんなに可愛いのに…」
「ぶっ…! そ…そりゃぁ…お嬢と二人っきりの時だけですぉ…参ったなあ…」
ぼそっ…と言った言葉に、緒茂さんは途端にしどろもどろになります。
「そう? だったら、ちょっと嬉しいかな…?」
そんな緒茂さんの様子を見て、御司留さんはくすくすと笑うのでした。
「そっ…それにしても…変でしたね…」
「変って?」
「プールで、結構派手にやったのに、誰も気付かない…いや、何人かチラチラとこっちを見てましたけど、大声ではやしたり、近寄ってくる奴は一人もいなかった…」
まだ慌て口調のまままくし立て、それから首をひねる緒茂さんに、御司留さんはあっさりと言いました。
「あら、当然よ。先生を含めてクラスのみんなには、うちの最中をごちそうしたから」
「へ? 最中…ですか? …確かに『御志流琥庵』の最中は絶品ですけど…でもそれだけで?」
「うふふっ…同じ最中でも、金色の最中、よ」
「あぁっ…!」
「ね? そういうこと」
「あははっ…さすがはお嬢! 参りました!」
「さ、帰りましょう。…うち、来るでしょ?」
にこり…と色んな意味を持たせて微笑む御司留さんに、緒茂さんは「…………はい」と真っ赤な顔をこくん、とうなずかせました。

「…へへっ…」
緒茂さんは首だけを後ろに振り向かせ、視線の先に照れ笑いを一つしてから、すたすたと歩いていく御司留さんについて、帰っていきました。

「……………」
曽宗さんは、怒るべきか、悔しがるべきなのか、はたまた喜ぶべきか、全く決められないでいました。
要するに、御司留さんと緒茂さんが…いえ、クラス中がグルだったのです。知らぬは曽宗さんばかりなり。下駄箱で緒茂さんをみかけ、気になったのでついていってみれば案の定。しかも、帰り際に緒茂さんが振り向いて見せたあの照れ笑い。陰から覗いていることもばれていたようでした。
最初から最後までいいように踊らされて、あんな…
「あんな…」
プールサイドでの、あの光景がよみがえります。
あの時の御司留さん。恥ずかしそうに感じる顔、もだえる声、興奮に赤く透き通る肌、硬くとがらせた乳首、どろどろになったアソコ…そして、自分をとろかしてくれた、あの指…
はっきり言って、全てがとてもとても可愛かったのです。初めにあった恨む気持ちなんて、砂糖のようにどこかへ溶けて無くなってしまいました。

「…ま、いっかぁ…」

相変わらずあずきは思い出すだに嫌ですが、御司留さんの身体の「あずき」なら、今度は指じゃなくて口で味わってみたいなあ…。御司留さんにも、自分のをもっと食べてもらいたいなあ…と、そんなことを考えながら、曽宗さんは、またどきどきし始めた胸からちょっぴり熱くなってしまった息を、仰いだ空にほうっ…と吐きました。

-おしまい。

 

うらめしあずき 4

プールサイドから、10メートルほど離れました。ほんの少しですが、みんなのざわめきが遠くに聞こえます。
曽宗さんと緒茂さんは、御司留さんの片腕ずつを持ってわざとゆっくり…いえ、ほとんど足踏みに近い早さで歩きます。
「はあっ…ア……ァンッ……うっ…ぐふっ……うぅうっ…」
御司留さんの息が、疲労でも苦痛でもないことは、もう一目瞭然です。
「あらあぁ? どーしたのぉ? 御司留さん…ずいぶん苦しそうだけど、そんなに痛いぃ?」
するすると腕をなでながら、曽宗さんはねっとりと訊ねました。
「ねえ、痛い? 痛いのぉ?」
肩から腕、背中からお尻をするする、するする。全身が、水泳のせいだけではない熱を持っていることもよく分かります。
「ねえってばさあ…アタシ、心配なんだけどなあ…」
「アハッ…ア…アァンッ…!」
なで続けているうちに、御司留さんの胸―そういえば、曽宗さんよりちょっと大きいです―の先端が、ぷっくりと膨れ上がりました。
「………ッ!」
曽宗さんはカチン! ときました。間近に見るにっくき御司留さんの胸が自分より大きいことと、何より、小さく膨れ上がった乳首が…あずきを連想させたのです。…笑わないようにね、そこ。曽宗さんは真剣なんですから。
「なに一人で気分出してんのよ!」
「あうっ…!」
曽宗さんは、怒りにまかせて御司留さんの胸を思いっきりわしづかみにしました。はっきりとした苦痛の声が聞こえます。
「あーら、何これ? アンタなに興奮してんのぉ? ここは学校よぉ? わかってんの?!」

ぐい ぐい ぐいぃっ…!

「あぎっ…! ひっ…いいった…ぁぁ…っ!! 痛い…やめ…あぁんっ!」
「フン! 痛い? 痛いぃ? へーっ! その割には、先っちょこんなにしてるわねえ? ん? ホラホラ! 豆みたいにカチカチにしてさあ…!」

きゅうううっ…!!

「いひぃぃいぃぃーーーっ…! き…ぃぃっ…ぐ…うむっ……!」
金切り声を必死に飲み込もうとする御司留さん。そりゃそうです。すぐ後ろには、クラスのみんながいるんですから。
「はあっ…アッ…アフッ…ん…やっ…やめ……」
「やめてほしい? だーめ。アンタ、痛そうな割には、まだまだ収まってないみたいじゃない? くすぶったままだと、嫌でしょぉ?」

ぎちゅうっ!

「うぅんっ…!!」
曽宗さんは、後ろから滑り込ませた手で、御司留さんの下腹部をまたも思い切り握りました。ぬるま湯のようになったプールの水と、それとは全く別の汁が、曽宗さんの手をあふれてこぼれました。
「なにこれ、あつぅい…ぐちゃぐちゃねえ…」

ぐしゅ! じゅく! にちゅ! ちゅくっ!

「アハッ! ヒッ…ア…アァァッ…!」
適当に揉んでいるだけで、御司留さんの股間からはどんどんどんどん粘ついた汁が出てきます。うごめく曽宗さんの手にも、吸い付くような熱さと、中でめくれきっているであろう御司留さんのアソコのヒダの形が、水着越しにさえ分かるようでした。
「…むっ…!」
曽宗さんの指先が、また新たな『あずき』を見つけました。そう、クリトリスです。
「こんなところ、こうしてやる…!」
「ひゃっ…?! あ…く…うぅうーーーんっ! んっ! んぐぅっ…!」
「ほらほらほらほらほらぁっ!」
まさに仇のように責められる、御司留さんの股間の豆。下半身を中心に、全身ががたがたぶるぶると震えます。
「いっ! いひっ! やっ! いやぁっ! でっ…出ちゃ…あっ! や…やめ…あぁぁっ…!!」
「なになに? 出ちゃう? なにが? えっ? もしかして、おしっこ? ねえ、おしっこぉ?」
「はひっ…き…あぁぁっ! そ…そう…だ…から…手…止め…あはぁんっ!!」
「あれ? 御司留さん? 漏らしそうなの? おもらししちゃうの? 学校で? えっ? うそぉっ? 後ろにみんないるのに? ねえ? ほんとにいぃぃ?」

ぬちゅ! ぐちゅ! にゅりゅっ! ぴちゅっ!

トドメとばかりに股間をこねる曽宗さん。おもむろに、手を離しました。だいっきらいな御司留さんの、汚いおしっこが手にかかるなんて、絶対嫌だからです。
「あぁぁーーーっ! も……だっ…め………ぇぇ………」

ばっ!

緒茂さんが持っていた右腕をふりほどき、御司留さんは、自分の手であそこをきゅうっ! とつかみました。
しかし…
「アン…っ! で……出ちゃう……!!」

ジュジュジュジュジュジュゥゥゥ……!

指ごときで栓が出来るわけはありません。御司留さんのアソコから吹き出したオシッコは、かえって指のせいであちこちに飛び散り、焼けたコンクリートの上にパタパタとしぶいて消えていきました。
「アハッ…! アッ…! アァンッ…!」
びくん、びくんと震える御司留さんの身体。オシッコが出た後の余韻にしては、不自然です。
「お・し・る・さ・ん・っ! まさかと思うけどぉ…イッたの?」
「うっ…うふうっ…ンッ…ふぐっ…」
「ねえってばあ…。御司留さん、学校のプールで、みんなに見られながら、アソコを思いっきり乱暴に責められて、あまつさえオシッコ漏らしながら…イッたのぉぉぉぉ?」
「…はっ…あ…あぁぁっ…」
しつこいぐらいに訊ねる曽宗さんに、御司留さんはただ荒い息をつきながらうつむくだけです。曽宗さんは、耳元でとどめの一言をささやきました。
「ヘ・ン・タ・イ!」
「……ッ!」
「本性を現したわね、この変態! マゾ! 淫乱! 小便娘!」
「う…ううっ……!」
「恥知らず! 露出狂! 万年発情期! 公衆便所!」
「ふぐっ…う…うあぁぁっ…あはぁぁ……!」
考えつく限りの悪口雑言を並べ立てる曽宗さんに、御司留さんはとうとう泣き出してしまいました。
「いっ…いやぁぁっ…言わないで…もう…言わないでぇぇ…うぐっ…う…あぁぁあぁ…ん…」
「なっ…何よ…泣いて許してもらえる…」
言いながら、曽宗さんは不思議な気分に捕らわれました。
真っ赤な顔で、ぽろぽろと涙をこぼす、御司留さんの横顔。
それを見ていると、「ちょっとやりすぎちゃったかな…」と言う思いと、「御司留さんの泣き顔って、初めて見るなあ…」という物珍しさのような気持ちと、なによりちょっと言葉では言いづらい胸の高鳴りを覚えて…なにがなんだか、曽宗さん自身、さっぱり分かりませんでした。
「はあっ…あ…あぁっ…ん…」
頭に血が上り、呼吸が苦しくなってきました。ささやくために寄せていた御司留さんの身体の血の流れまで、細かな振動として感じます。
「(どくどく言ってる……熱い…。これ…もっと…欲しい…)」
今や曽宗さんの目は、興奮にとろとろとうるみ、泣き出しそうになっていました。かたわらでずっと見ている緒茂さんが、それを見て「フッ…」と笑いましたが、本人には気付くはずもありません。
「この…へんたい…」
「アッ…?!」
気がついたときには、ぴちゃり…と音を立てて、御司留さんの透き通るほどに赤くなった耳をなめていました。

ぴちゃ…ぺろ…くに…こり…

「ハッ…あ…アァンッ…!」
口に広がるカルキの味なんて、全く気になりません。ただ、舌に感じる御司留さんの肌の感触と、なめるたびに聞こえる甘い声が、曽宗さんを夢中にさせました。そうしなければすぐにでも死んでしまう…そう思えるような夢中さで、曽宗さんは、耳と言わずうなじと言わず、自分の口の届くところは全て舐め、軽く歯を立て、もぐもぐと御司留さんを味わいました。
「アハッ…ン…フアアァッ…」
「うるさい…」
「あむっ…!」
とうとう曽宗さんは、正面から御司留さんを抱き寄せ、唇をねじ込みました。
「んっ…うんっ……」
「ン…フゥゥ…」
くちゅくちゅと舌を絡ませながら、曽宗さんの頭はもうまっ白に痺れきっていました。何でコイツの唇はこんなに甘くて柔らかくて気持ち良いんだろう? むにゅむにゅとこねあわさる互いの胸―そういえば、曽宗さんの乳首もコリコリになっています―と合わせて、アソコにじんじん響きます。
「ぷはっ…は…はあっ…」
「…ァンッ…!!」
口を離すや、手を御司留さんの股間に滑り込ませます。今度は水着越しなんてまだるっこしい事はしません。水着の横から強引に中を探ります。
「(わっ…あ…あぁっ…す…ご……)」
指で感じるそこは、まったく不思議な、未知の世界でした。
にゅるにゅるとぬめっていて、ぷりぷりとしたヒダがいくつもあって、どくどくと全体が脈打っていて…おまけに、一緒に指がとろけてしまいそうなほどに熱くて、ちょっと指を動かそうものなら、それらがいっせいに絡みついてくるのです。それがまた、とてもとても気持ち良いのです。
「はあっ…ああっ…すごい…すごいぃ…」
ぬちゅ…にゅる…と無心に探っていると、あの豆…クリトリスがありました。まさぐる指があんまり気持ち良いので、もういじめようという気持ちはありませんでした。ぬるぬるくるくると指のお腹でさすってやります。
「くはっ…あっ!! あーーーーっ!」
がくがくがくっ! と震える御司留さん。やっぱり、ここが一番気持ち良いのは誰でも同じのようです。
「はっ…あぁ…いい……あ…あなたも…」
「えっ…? あぅっ…!! んっ…!!」
それまでされるがままだった御司留さんの顔が、今度は曽宗さんに迫ってきました。ふっ…と優しく口がふさがったかと思うと、間髪入れずに舌が入ってきます。でもその動きもしっとりしていて、荒っぽい物ではありません。余分な力が抜けてふわふわとした気分になれる、とても上手なキスでした。
「はんっ…!」
ぬちゅり…と、今度は御司留さんの指が、曽宗さんの中に入ってきました。

ちゅく…にちゅ…ぬちゃ…

「あはっ…?! は…くうぅぅっ…!」
比較対象は緒茂さんしかいませんが、優るとも劣らない指の動きでした。
指は穴の中をぐるぐると動き、あの時一番気持ちよかったざらざらの部分ももちろん容赦はありません。さらに別の指で曽宗さんの豆をぷるぷるとはじき、さらに余った指で、お尻の穴あたりまでさすり…まだあります。上半身を巧みに動かして、水着越しに乳首まで転がすのです。
「はひっ…あ…か…かひっ…ひぃいいっ…!」
三点を同時に責められ、曽宗さんはもうこのまま自分がおかしくなってしまうのではないかと思いました。…でも、一人でイクのはシャクです。こっちも負けていられません。御司留さんの中に入ったままの自分の手を、がむしゃらに動かします。
「ウゥン…! ンッ! ンアァッ…!」
うれしそうに御司留さんの腰がくねります。
さて、ほとんど根比べの様相を呈してきましたね。
「…あーあ…。完全に二人で世界作っちまってるよ…」
すっかり忘れられている感じの緒茂さんが、あきれ顔でつぶやきました。
そうです。二人の熱中ぶりに忘れがちですが、場所は全く動いていません。ここはプールサイド。すぐ後ろでは、みんなが授業をしています。

ざばざばざばざば…
『おーいそこぉ! バタ足の形が悪い! そんなんじゃ進まないぞ!』

くちゅ…ぴちゅ…
「うふっ…んっ…! ふうぅ…!」
じゅく…ちゅる…
「ハアッ…アッ! ウンッ…いいぃ…!」

たんっ! ざぶんっ! たんっ! ばっちーんっ!!
『いってぇーっ!』
『踏み切りが悪い! だから腹を打つんだ! もっと思い切れ!』

じゅる! ぎちゅ! ずぶっ! ぐじゅっ!!
「あんっ! んっ! んふっ! うっ! はひっ!!」
ぬちゅっ! にちゃっ! ぐにゅ! にゅぐっ!
「アアンッ! ンッ! ウンッ! うふぅんっ!!」

ざわざわざわざわ…
『おーし! そんじゃオーラスだ! 100メートル一本行くぞー!』
『えぇーーっ?!』

「あんっ! んっ! あ…そん…だ…だめ…ど…あぁぁっ!」
「はあっ…はっ…そ…そそう…さん…イキそう…? 出そうなの…?」
「そ…そんなあ…あたし…飲んでな…あ…あーっ!!」
「いいわ…出して…曽宗さん…! 私も…一緒に…イ…イキ…そ…あ…はあぁっ…!」
「だ…めぇぇぇーーーーっ!」
「ンッ……!!」

じゅっ…じゅばばばばばぁぁーーっ…

「はっ! はひっ! いっ! いああっ…あ…あは…」
「うわあぁ…熱い…すっごく熱い…曽宗さんのおしっこ…あぁ…」
曽宗さんは、ものすごい絶頂感とともに、水着の中、御司留さんの手のひらに、思いっきりのオシッコをしてしまいました。御司留さんはそれを全て受け止めながら、恍惚とした笑みを浮かべるのでした。

「はふ…………」
そして、全てを出し終えた後、曽宗さんは自分の中でぷちん…と何かが切れる感覚を味わい、そのまま気を失ってしまいました…。

うらめしあずき 3

それからしばらく。曽宗さんが正気を取り戻したところで、緒茂さんは改めて『計画』の説明を始めました。ああ、おもらしの後始末についてはご心配なく。緒茂さんが、手下の人間を使ってジャージを持ってこさせ、曽宗さんはそれに着替えました。そして、そのまま帰るのは恥ずかしいので、同じく手下の人間に車で送ってもらう約束をとりつけたのです。さすが学校一の不良グループと言うべきでしょうか、色んな人脈がある物です。閑話休題。

「…と、いうわけでだ。この薬を、御司留の奴に飲ませる。そして、プールの時間、他のみんなが見ている前で、薬が効き始める…」
「ちょっと待って。どうやって飲ませるの? それに、そんなに都合良く効き始めるとは…」
「ウチの学校、昼飯は弁当だよな? んで、御司留の奴も、弁当と一緒にお茶を持ってくるよなあ? んで、だ。薬は、さっきお前に飲ませた即効性の奴だけじゃない。時間をおいてじわじわ効くヤツも、オレは持ってる。…これでわかるな?」
「…なるほど…」
「全体の筋書きはこうだ。おあつらえむきに、明日の4時限目は化学だ。みんな実験室に行くから、教室は無人になる。そこへオレが隙を見て、御司留の水筒に薬を入れる。昼休み、奴がそれを飲む。そしてプールだ。そこで奴はなぜか足をつってしまう。しかし、保健委員はなぜか正副ともに休み。仕方がないので、前を泳いでいたお前と、後ろを泳いでいたオレが、奴を抱えて保健室へ連れていこうとする…」
「…なぜか、ね…。うふふっ…」
曽宗さんはわくわくしてきました。薬の効果は、さっき身をもって知りました。「手下が見張ってたからな。覗かれる可能性はゼロだったさ」と緒茂さんは言いましたが、もしこれが、確実にみんなのいる場所、しかも、逃げ場のない所だったら…? 自分で想像するだにぞっとします。
「だが、オレは舞台設定だけだ。最後の手は、お前が下せ。いいな?」
「…ありがと。でも、どうしてそんなに協力してくれるの?」
「…べっつにぃ…。金持ちが嫌いなのと…あとカッコわりい話だけど、オレ、和菓子があんまり好きじゃないんでね。和菓子屋の娘ってのが、むかつくんだよ」
「そうなんだ…」
少し照れながら言う緒茂さんに、曽宗さんは、これ以上ない親近感を感じるのでした。
「じゃ、明日を楽しみにな」
それだけ言うと、緒茂さんはくるりと背を向けて帰っていきました。
「…っと、ああそうだ。大事なことを忘れてた」
…と思ったら、もう一度向き直りました。
真顔でつかつかとすぐそばまで来て…
「お前、結構可愛かったぜ」
耳元でささやいてもう一度「ふうっ!」とやるものですから、曽宗さんはその後家に帰っても一日中ドキドキしっぱなしでした。

さて、次の日。曽宗さんはこれまでになくさわやかな目覚めを迎えました。学校へ行く足取りも、いつもよりずいぶん軽いです。
「おはよー!」
「おはよう、曽宗さん。…朝からご機嫌ね。なんかあったの?」
「ん? べっつにぃ…。たまたま、目覚めが良かったのよ」
曽宗さんの喜び方に、誰もが不思議がりました。
「おはよう、曽宗さん」
「うん、おはよう。御司留さん」
この一言で、みんなはさらに驚きました。いつもは御司留さんのあいさつに「ふんっ!」と返すのに…。でも、悪い雰囲気ではないようでしたので、みんな深くは考えませんでした。ただ一人当の曽宗さんだけが、数時間後のずだぼろになった御司留さんを想像して、ほくそえんでいるのでした。

そして、あっという間に4時限目。化学実験室で実習です。いよいよ行動開始。曽宗さんはそれとなく緒茂さんの方を見ました。すると…
「センセー、オレ気分悪ィんで、保健室行きまーす」
「ん? あ…」
先生の返事を待つまでもなく、緒茂さんはさっさと実験室を出ていきました。今回の計画が無くても彼女はサボリの常習犯ですから、先生もなかばあきらめているのです。
そうなると、曽宗さんはいよいよ落ち着かなくなります。授業は始まったばかりで、あと40分ほど。先生の声なんてまるで聞こえなくて、あやうく実験に失敗するところでした。

「ぷはあーっ…!」
昼休み。水筒のお茶をぐーっと飲み干して、曽宗さんは思い切り息をつきました。一緒に机をくっつけてお弁当を食べていた友達が、「なんか、うちに帰ってきてまず最初にビールを飲んだオヤジみたい…」と言いました。「ああ、さっきの実験室、薬のせいで息苦しくてさあ」とちょっとあわててつくろう曽宗さんに、みんな「そーね」と軽く相づちを打って、その話は終わりになりました。

「あー…おいしかった! ごちそうさま!」
曽宗さんは、これまでになくおいしくお弁当を食べ終わりました。気持ちの持ちようでこうも色々変わる物なんだと、自分自身、ちょっと驚きながら。
「あーあ、次はプールかあ…めんどくさいなあ…ねえ、曽宗さん?」
本当にだるそうに友達が振ってきました。それに答えて曽宗さんは、
「そう? まだまだ暑いし、気持ち良いと思うけど?」
…と、晴れやかに言います。そこまで嬉しそうに言われては、話を振った娘も「うーん…」とうなるしかありませんでした。

昼休みが終わり、とうとう、待ちに待った決行の時! 御司留さんに向けられるみんなの優しい目が、軽蔑とあざけりに変わる節目の時間!
「この時間が終われば、アタシが再びクラスの注目を集めるんだ…!」
…別にそんな事実はないのですけれども、いつのまにやら曽宗さんの頭の中では『御司留さんを蹴落とし、自分がクラス内のアイドルに返り咲く』という事になってるようです。本人の性格もあるんでしょうが、思いこみというのは恐ろしい物ですね。
ともあれ曽宗さんは、笑い出しそうになるのを何とかこらえながら、プールへと向かいました。

水泳の授業という物は、大体メニューが決まっています。体操をしてから水に浸かり、ちょっとの間自由遊泳で身体をほぐしてから25メートルを何本か泳ぎ、もう一度整理体操の意味を込めた自由遊泳。飛び込み台に並ぶ順番なんかは決まっていませんから、曽宗さんと緒茂さんの二人にとっては好都合です。それとなく、緒茂さんが近寄って耳打ちします。
「たぶんこれから25メートルを5本ほど行くと思う。時間的に考えて、2本目ってところだな」
「…OK」
二人して御司留さんを見ながら、にんまりとうなずき合うのでした。

やがて…
「ぃよぉーし! 全員上がって飛び込み台に並べ! 軽く25mクロール5本! いくぞー!」
水泳の好きな人が上げる嬉しそうなざわめきと、嫌いな人のだるそうなそれが混ざり合います。曽宗さんは、もちろん嬉しい方です。違った意味で。
気付かれないように御司留さんを見ながら、注意深くペースを作って泳いでいきます。
2本目。いったん上がって元に戻る時、すぐ前に御司留さんの背中がありました。…どことなく、歩くスピードが不自然です。追い抜くときに、曽宗さんは彼女の顔を見ました。
「………うっ……ン………ふ………」
うつむきがちになった真っ赤な顔は、かすかに唇を噛み、何かに耐えているような顔でした。
「(来たっ…!)」
後ろには緒茂さんの気配。そのまま、飛び込み台の列になります。
準備は整いました。後は、御司留さんが泳いでいる最中『なぜか』足をつらせるのを待つだけです。
ざぶん…と、まず曽宗さん。しばらく進んだ所で、ざあっ…と、飛び込まなかったのでしょうか、御司留さんの壁を蹴る音。
曽宗さんが3分の2ほど泳いだとき…
「あぐっ…! ぅぶっ……ごぼ……」
御司留さんの、もがく声が聞こえました。
「あれぇっ? 御司留さん、大丈夫ぅ?」
続いて、ちょっと大げさな緒茂さんの声。
「センセー! なんか、御司留さんの足がつったみたいでーす!」
「なにい? あー…しょうがないな。おい、ちょっとソイツを上げろ!」
そう言って、体育の先生は、にプールサイドに上がった御司留さんの足をマッサージしました。
「どうだ? まだ痛むか?」
「………はい……」
御司留さんは、顔を真っ赤に染めながら、消え入りそうな声で答えました。
「じゃあ、保健室に行って休んでろ。えーっと、このクラスの保健委員は誰だ?」
「あのセンセー、あいにく揃って休みなんスよ」
「あ? そうか…。んじゃあ…一人じゃちょっと辛そうだから、前後を泳いでた曽宗と緒茂、お前らが保健室に連れてってやれ」
「はい!」
自分から言い出そうと思うより前に先生が先に言った言葉に、曽宗さんは、思いっきりはっきり返事をしました。
「行こう、御司留さん」
「ンッ……うん……」
緒茂さんと二人で肩を持ち、見かけ上は本当に心配するそぶりで、曽宗さんは歩き出しました。

うらめしあずき 2

「…でも、どうするの?」
「こんな物がある」
気を取り直して訊ねる曽宗さんに、緒茂さんは一つのカプセルを取り出しました。
「なにそれ?」
「利尿作用付きの、催淫剤さ」
「さい…いんざい…?」
曽宗さんには、全くぴんときません。
「あー…そうだな。いっちょ、試してみるか?」

きゅっ! ぷはっ? ぽいっ! トンッ! …ごっくん。

緒茂さんの目にも止まらぬ早技で、曽宗さんは薬を飲まされてしまいました。
念のために、順を追って説明しましょう。

きゅっ! :緒茂さんは、おもむろに曽宗さんの鼻をつまみます。
ぷはっ? :曽宗さんが、苦しくなって口を開けます。
ぽいっ! :口の奥へ、カプセルを放り込みました。
トンッ! :そこへ、口を閉じさせてから、頭にチョップを一発!
…ごっくん:その拍子に、思わずカプセルを飲み込んでしまった曽宗さんでした。

めでたし、めでたし。

「どっ…どうなるの…?!」
「催淫剤ってのは、簡単に言うと、体がうずいてどうしようもなくなる薬さ。プラス、利尿剤って事は…トイレに行きたくてたまらなくなる。授業中に使えば…」
「そっ…そんなの、別に…保健室に逃げればいいだろうし、授業中にトイレに行くことだって、特に変な事じゃ…」
「そうか? 使う場所を、ひねって考えてみろよ。人のたくさん見ている場所で、一人で動けない状況を作ったら? たとえば、足を怪我するとかしてね…くっくっく…」
再びの、緒茂さんの笑顔。にやり…というより、ぬらり…としていて、こう言ってはなんですが、妖怪のような気さえします。
「そういえば、明日の5時間目…昼飯の後は、体育だなあ…。夏だから、プールか…」
「あ……な…なる…ほどぉ…おっ…おほぉっ……」
あさっての方向を向いてとぼけたように言う緒茂さんに、曽宗さんはうわずった息で答えてしまいました。
「あらぁぁー…? どぉぉーーしたのぉ? 曽宗さぁん…? ここは、学校だよぉぉ…?」
「はっ…はくっ…う……うぅっ……か……からだ…がぁ……っ…!」
曽宗さんの目は焦点を失いかけていました。風邪の熱とは違った熱さが体中にあふれてきて、どうしようもなく変な気分になってきたのです。
「あうっ…!」
ふらふらで、立っていられません。もつれた足で、体育館の壁に倒れ込みます。すると、その衝撃までがぞくぞくしてくるではありませんか。
「ふふふっ…効き目はばっちりってね…」
自分を見つめる緒茂さんの視線も、なんだか実体を持った細い触手のように体にからみついてきます。そして、下腹部のあたりがじんじんじんじんとしびれてきて…じゅぅぅ…ん…と濡れてくるのが、考えるまでもなく分かります。
頭の中は、「そこをさわりたい」の一言だけ。でも、ここは学校。しかも外。誰かに見られる可能性は、十分にあります。でもでも…!
「ぐぎ……いっ…いひぃぃっ……!」
スカートの上から股間をわしづかみにして、痛さで紛らわそうとする曽宗さん。でも、それさえも気持ちよくなってきて、押さえる手のひらにまで熱い粘りが感じられるようになってきました。もう、どうしようもありません。
「さわってほしい? 曽宗さん…?」
「…………」
緒茂さんの声が、ものすごい誘惑となって降り注ぎます。きっと、悪魔のささやきというのは、こんなのを言うのでしょう。
「そ・そ・う・さ・んっ。さ・わ・っ・て・あ・げ・よ・う・か?」
「はあぁぁっ…!」
耳に吹きかかる、ふううっ…っという熱い息。だめおしでした。
「うっ………」
曽宗さんは自分の中での抵抗をやめ、目は固く閉じて、おとなしく壁に身体を預けました。
「怖がるなって…オレにまかせろ…」
緒茂さんの髪の匂いが近づいてきて、ちゅっ…と唇が触れ合いました。
タバコの匂いでしょうか、ちょっと変な甘さの残るキスでした。

するすると緒茂さんの手がスカートの中にすべりこんできます。股間からしみ出しているもので冷たい線が引かれた内ももを、すべすべ、すべすべ…。直接はもちろん、ショーツの上からも、一番大事なところを触ってはくれません。「早く…早く…!」と思ううちに、内ももには、新しい熱い線が引かれました。
「あうっ…!」
ようやく緒茂さんの手が、中心にたどりつきました。自分でしか触ったことがないところを人に触らせるなんて、普段の曽宗さんなら考えもしなかったでしょう。でも今は、そんなことはどうだっていいのです。
あそこの形を確かめるように、じっくりとはい回る指。ぬちゃ…にちゃ…という粘ついた音が聞こえます。
きっと今、自分のあそこはぱんぱんにはれて、形が変わっちゃってるんだ…おかしくなっちゃったのかな…どうしよう…?!
ぷるぷると腰を震わせながら、曽宗さんはそんなことを考えていました。オナニーをしたことはありますが、ここまで興奮してあそこを充血させたことはないのです。
「うあぁ……んっ!!」
いよいよ、緒茂さんの手がショーツの中に滑り込んできました。
「はぐっ…あ…か…かはあっ……!!」
中指を溝にあてがい、ぷるぷるとしたヒダを二枚一度に挟んで、じゅこじゅこと全体をこすりながら揉むのです。曽宗さんは、気持ちよすぎて息の詰まったような声しか出せませんでした。
「それにしても、スゲエ事になってんなぁ…? どこでシテるか、分かってんのかぁ…?」
「うくっ…うっ…ふぅんんんっ……!」
もちろん分かってます。ここは学校の体育館の裏。建物の中では、クラブ活動をしています。何かの拍子で誰かがここに来ても、何の不思議もないのです。…誰かに見られたら…そう思うといてもたってもいられないはずなのですが、今は、体中をめぐる気持ちよさのほうが、はるかにまさっていました。
「うぐっ…ふううぅうううっ……!」
だから今は、どうしてでもこの身体のほてりを収めて欲しい…それを、首を振ることで緒茂さんに訴えるしかないのでした。
「わーってるって…。んじゃ、こうしてやろうかな…」
ぬちゅり…と指を沈める緒茂さん。「ふうぅんっ!」と、曽宗さんの身体が弓なります。
「おーおー、絡みつく絡みつく。…へえ、処女か…まいーか。このへんかな…っと…そらっ!」
緒茂さんの手が、曽宗さんの穴の中、壁の一点、ちょっとざらついたところを集中的にさすります。
「ひあっ…?! か…あ…あうあぁぁーーーっ!」
「ちょっと黙った方がいいなあ…」
「はっ! はひっ! ひっ…ぐ…うぅっ…!」
笑い袋ならぬもだえ袋になってしまったかのような曽宗さん。緒茂さんもさすがにうるさいと思ったのか、もう一度唇で叫び声を飲み込んでしまいます。
「んー…ほろほろとろめにしようら(そろそろとどめにしような)…」
「んぐっ! んっ! んふっ! ふううっ…!!」
舌を絡め、右手で穴の中のざらざらをさすり、左手で胸を揉む緒茂さん。
ぎゅうっ! と右手に力を込めました。
すると…
「んっ…?! ふ…うぅーーーーっ!!」

じゅばあぁぁ…

曽宗さんの股間から、おしっこが吹き出してしまいました。
「ぷはあっ…おー…出る出る。熱いなあ…ふふふっ…」
「は…あ…やっ…いやあっ……!!」
泣いたところで、一度出た物は止まりません。緒茂さんの手に激しくぶつかっていく流れは、曽宗さんのスカートへ中からしぶきを散らしていきました。

しゅしゅしゅしゅううう…ちょろ…ちょろろ…

「はあっ…は…あ…あふっ…」
「思いっきりイけただろ? ふふふっ…ほおら、オレの手、こんなにしてなあ…」
「…………」
曽宗さんには、何が何だか分からなくなっていました。学校であるとか外であるとか、立ったままであるとか制服が汚れてしまったであるとか、そんなことは何にも考えられずに、だたしばらくぼけぇっ…っとしていました。
「ちぇっ…幸せそうなツラしやがって…やれやれ…」
ここまで乱れられては、さすがの緒茂さんも、苦笑いを浮かべるしかないようでした。

うらめしあずき 1

席替えのくじの中身を見たとき、曽宗さんはがく然としました。
自分の引いたくじと、番号との対応を示す黒板の文字、それから新しい席の周りの人の名前を見て…やっぱり、唇を噛むほかないようでした。
「曽宗さん、何番?」
「42番よ!」
吐き捨てるように言うと、曽宗さんは自分の机の荷物をまとめ、新しい席に行きました。

ばさっ!

ほったらかすように机の上に教科書類を置く曽宗さん。あんまり大きな音がしたので、他のみんなは何事かと思って彼女の方を見ます。曽宗さんの前の席に座る女の子だけが、平然とした様子で「よろしくね、曽宗さん」と、にっこり微笑みました。
「………っ!」
その娘の顔を見た瞬間、曽宗さんの顔は決定的なまでに引きつりました。
こめかみがぴくぴくと震え、きりきりという歯ぎしりの音が聞こえます。
「どうしたの?」
ふっと小首を傾げ、前の席に座る彼女が静かな調子で訊きました。
でも曽宗さんは、「フンッ!」と一言だけ言って、どっかりと椅子に座り、黙りこくってしまいました。その様子を見て、前の彼女はそれ以上話しかけては来ませんでした。

曽宗さんは、この時ほど自分のくじ運の無さを呪ったことはありませんでした。こいつと同じクラスになっただけでも嫌だったのに、よりにもよって、こいつの後ろの席になるなんて…! 「すいませーん、曽宗さんの席、書き間違えましたあ」…そんな委員長の声を期待しましたが、いつまで経っても「御司留」の後ろに書かれた「曽宗」の名前が書き換えられることはありませんでした。
そうして、大多数の人にとってホームルームは滞りなく終わり、放課後になりました。

曽宗さんは、御司留さんのことが大嫌いです。どこが嫌いかと訊かれれば、すぐにでも「全部」と言うでしょう。じゃあ、御司留さんはみんなに嫌われているかと言えば、そうではありません。むしろ、御司留さんはクラスの人気者で、彼女を嫌う曽宗さんのほうが、みんなからは浮いた存在なのです。
それでも、曽宗さんは御司留さんが大嫌いです。
なぜでしょう? 御司留さんは、有名な和菓子匠の家の一人娘で、いわゆるお金持ちのお嬢様です。でも、そんなことは全く鼻にかけず、それこそ和菓子のようにしっとりとして、かといってくどくない物腰が、みんな大好きなのです。
えっ? じゃあ、何で嫌いなのかって?
それは、ひとえに御司留さんが『和菓子屋の娘』だからです。

曽宗さんは、和菓子の主役とも言える「あずき」が嫌いなのです。とてもとても嫌いなのです。だから、いくら知らない人のいないほど有名な菓子匠『御志流琥庵(おしるこあん)』の娘といえども…いえ、だからこそ、小豆を使った菓子を売ってもうけているような人は、大っ嫌いなのでした。

そんな大っ嫌いな御司留さんと同じクラスになってからと言うもの、曽宗さんには心の安まる暇がありませんでした。普通にしていれば十分可愛い曽宗さんですが、教室ではいつもむっつりしてしまいます。ちょっぴりきつめの顔立ちも手伝って、曽宗さんの周りには近寄りがたい空気が出来ていました。そこへ今度の席替えです。彼女の顔は一層険しくなってしまいました。「もったいないなあ」という男子の声が、どこかから聞こえてくるようでした。

ところで、曽宗さんがそこまで小豆を嫌う理由というのは、実はとても単純なことが原因です。子供のころのこと、曽宗さんのお母さんがあずきを煮ていました。とってもうまく煮えたのですが、うっかり砂糖を入れ忘れてしまったのです。あんこを初めて見る小さな曽宗さんは、そうとも知らずつまみ食いをしてしまったのです。
…そのまずかったこと! おとなならあずき本来の味わいと言うものも分かるでしょうが、小さな子供のことです。でろでろとおぞましく、粉っぽいばっかりでちっともおいしくない、得体の知れないもの…それが、曽宗さんに植え付けられたあんこのイメージでした。いわゆる、トラウマと言うやつです。

他の甘いもの…ケーキなんかの洋菓子や、あずきを使っていない和菓子はむしろ好きです。なので、そうなると余計にあずきが食べられないことに、曽宗さんはいらだちを感じるのでした。

「…と、言うわけでだ。その人を憎むあまりに、その人に関係のある事物すべてが憎くなることを、『坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い』と言う。意味を書けるようにしておけよ。試験に出すからなー」

先生の声が聞こえます。どうやら今は、国語の授業のようでした。

さて、なんでもそうですが、一つのことをずっとずっと思い続けていると、自分でも何だか分からなくなることがままあります。
曽宗さんの場合は、「あずきが嫌い=御司留さんが嫌い」だった気持ちが、「あたしがこんなに嫌いな御司留さんを、みんななぜもてはやすのだろう?」という疑問を産み、「御司留さんはいつもちやほやされて気にくわない。いつかみんなの前で思いっきり恥をかかせてやりたい」と思うようになったのです。ゆがんでますね。
「それって、人気をねたんだ、ただの嫉妬じゃない?」と言われれば、それまでのことです。でもみんな、御司留さんを見る曽宗さんの顔が怖いので、知らんぷりを決め込むことにしているのでした。

そんなある日の放課後のことです。ショートホームルームも終わり、曽宗さんが、いつものむっつり顔で帰り支度をしているところへ、一人の生徒がやってきました。
「なあ、曽宗さんよ。ちょっとツラ貸してくれるか? 話があるんだ」
曽宗さんのむっつり顔が、緊張に引きつります。彼女を呼んだのは、緒茂さんという女の子。でも、御司留さんとは違う意味で、学内に知らない人はいません。いわゆる不良グループのトップで、男子や先生も手を出せません。他のみんなも、腫れ物に触るような感じで彼女には接します。
「なっ…何…? 緒茂さん…」
曽宗さんは、なかば忘れていました。緒茂さんも、同じクラスにいるのです。え? クラスメイトを忘れるな? そんな物だと思いますよ。下手に触ってとばっちりを受けるよりは、腫れ物は腫れ物らしく、そっとしておけばいいのです。意識的に触らないでおこうと思えば、そのうち、忘れる日も出てきます。
…話を戻しましょう。

「だから、ちっとツラ貸して欲しいつってんだ。いいだろ?」
曽宗さんもきつめの顔をしていますが、緒茂さんはそれ以上です。そんな目を前に断ろうものなら、何をされるか分かりません。
「えっ…ええ…別に…」
だから曽宗さんも、おどおどしながらうなずいたのでした。




「…それで、話って言うのは…?」
所変わって、ここは体育館の裏。誰もいない場所に、学校一の不良と二人っきり…曽宗さんは、ガチガチに緊張していました。
「話ってのは、他でもないんだ。御司留のことなんだけどな…」
「…?」
緒茂さんの口から、にっくき御司留さんの名前が出てきたので、曽宗さんは驚きました。その不良、緒茂さんが続けます。
「アンタ、ずいぶんアイツに恨みがましい目を向けるじゃないか。なんでだ?」
にぃっ…と笑いながら訊ねる緒茂さん。曽宗さんの頭に、御司留さんの顔がぱぱぱぱぱっ! と瞬いて、むかむかとした気分がよみがえってきました。吐き捨てるように言います。
「決まってるじゃない! 大っ嫌いだからよ! 何よあんなやつ! 菓子屋の娘だかなんだか知らないけど、ちやほやされちゃってさ!」
「で? 具体的に、なんか嫌がらせしたいんじゃないのか?」
「何で分かるのよ?!」
「なんとなく、な。それも、思いっきりみんなの前で恥をかかせたい…ってところかい?」
「そうよ! ありきたりのイジメ方じゃつまんないわ。だから、ショックでしばらく立ち直れないような事をしてやりたいの!」
曽宗さんも、恐ろしいことをきっぱりという物です。でも、緒茂さんはさすが不良と言うべきなのか、それを聞いて「よしよし」と言わんばかりにうんうんとうなずきました。そして、曽宗さんの言葉をかみ砕いて飲み込むような間を置いてから言いました。
「話ってのは、他でもないんだ。その話、オレも乗るぜ」
「えぇっ?!」
「オレも、御司留は前から気にくわなねえと思ってたからな。組もうぜ」
「…………」
「なんで、って顔だな。オレは知っての通り、先公やクラスの連中にマークされてる。単独で手を出せば、オレが危ない。だから、共犯者を作っちまおう…ってこった」
そう言って、緒茂さんは再びにやり…と笑いました。その、一言で言えば『邪悪な笑顔』に、曽宗さんは内心、縮み上がってしまいました。

なつみちゃんのプール

「……このXが……だから……Yは……やって出せるのであって……」
(じーわ、じーわ、じーわ……)
先生の授業の声よりも、セミの声の方が、よく聞こえます。外はどんどん暑くなっていて、教室のみんなも、朝からもうぐったりしていました。窓の外に目を向ければ、雲一つない、深い青空が広がっています。なんだか、「えいっ」と石を投げれば、ぽちゃぁん……と音を立てて、頭上に大きな輪っかが広がるんじゃないかな? なつみちゃんは、そんなことを考えながら、窓際の席で、セミの声と一緒に、その水面(みなも)のような空を眺めていました。なつみちゃんは、この季節が大好きです。それは、この季節にしかない、そしてとっても楽しい、大好きな授業があるからでした。「(早く終わらないかな、早く終わらないかなぁ……)」
なつみちゃんは、にこにこしながら呟きました。そう、この授業が終わったら、その『大好きな授業』なのです。
わくわく、そわそわ、どきどき……いろんな気持ちが一緒くたになって、落ち着きません。授業が始まった瞬間から、あと四十五分……あと三十分……あと十五分……後五分……よぉし!
「……あれ?」
なつみちゃんは、目をぱちくりさせて、教壇と、壁の時計と、スピーカーをかわりばんこにながめました。チャイムが鳴らない。四十五分経ったのに……?
しばらく考えて、やっと思い出しました。なつみちゃんは、今年の四月から中学生。中学校の授業は一回五十分。小学校より五分間長いのです。だから後五分間、待たなければいけないのでした。
「うー……」
腰を椅子から浮かせて、もじもじ、もじもじ。なつみちゃんには、最後のたった五分間が、それまでの四十五分ぐらいに長く長く感じました。
やがて……「はい。じゃあ、今日はここまで。予習復習をしっかりね。……お、次は、このクラスは体育だね。きっと水泳だから、気持ち良いぞぉ」
数学の先生のそんな声が聞こえました。
水泳! やった、やったやったやったぁ!! なつみちゃんは、なんだかめんどくさそうなクラスのみんなを後目に、もどかしげに水泳用具の入ったビニールバッグを抱え、それこそ一目散に更衣室に向かったのでした。

更衣室。
早く早くと焦る手が、なかなか素直に服を脱がせてくれません。
やっと脱げた! さあ水着に着替えるぞ! ……と意気込む必要はありませんでした。どうして? だってなつみちゃんは、服の下にもう水着を着ていたんですから。だから後は、水泳帽をかぶればいいだけなのでした。水泳帽をかぶると少しはみ出る、肩まである髪の毛を手早く帽子の中に押し込んで、いよいよ準備は完了。なつみちゃんは跳ねるようにプールサイドに向かいました。

ぎらぎらと照りつける太陽のせいで、プールサイドのコンクリートは、とても熱くなっています。
「あちちっ……」
なつみちゃんは、ひょい、ひょい……と、まるでスキップをするように整列場所へやって来ました。

(ひょい、ひょい、ひょい……)

じっと立っていることが、なかなかできません。その場で駆け足をするような格好で、みんなを待ちます。やがて、同じようなおぼつかないスキップを踏んで、みんながやってきました。体育の先生まで、ひょい、ひょい……と熱そうです。
「はぁい、みんな整列!」
プールサイドにみんなが揃ったのは、それからしばらく後でした。
「んじゃ、準備運動行くぞー」
やがて、体操が始まりました。なつみちゃんは、いよいよわくわくしてきました。体をあちこちに動かすたびに、

(じぃん……じぃん……)

と、お腹を中心に、大好きな『波』がうち寄せてきます。一つ波がじぃん……と来るたびに、運動したときとは違うドキドキがあるのです。

体操が終わり、消毒槽の中へ。きつい塩素のにおいと、冷たい感覚が、足首から下を包みます。

(じぃぃぃ……ん……)

そしてシャワー。みんなで浴びる大きな物ですから、あまり水は掛かりませんが、それでも、上から降り注ぐ冷たい水が、体のあちこちに当たるたびに、
(じぃぃぃぃ……ん……じぃぃぃぃ……ん……)

細かな『波』がうち寄せます。
「(はぁ……はぁ……)」
なつみちゃんの息は、少し荒くなっていました。さあ、プールサイドに腰を掛け、掛け水をしてから……

(ざぶん!)

肩まで水に浸かったときです。

(ぞざざざざざぁぁぁぁっ!!)

「(ふはぁぁぁんっ!)」
大きな、大きな『波』が、なつみちゃんの体中で暴れました。その感覚に、思わず声が出てしまいます。
「大丈夫? なつみちゃん?」
隣の女の子の、おかしそうな声が聞こえました。どうやら、水の冷たさになつみちゃんが驚いたように見えたようです。
「う……うん……だいじょうぶ……」
『ごめんね、違うんだぁ……』と、心の中で言いながら、なつみちゃんは夢見心地の声で応えました。

「よおし。じゃあ、まずは馴らしだ。ウオーキング50メートル、いくぞー」
先生の声に従って、みんながぞろぞろと歩き始めました。なつみちゃんも、それに続きます。
水の中は歩きにくくて、普通に歩くよりずっと力、特に下半身のそれが必要です。ぐっ、ぐっ、ぐっ……と、滑る足下を踏みしめるたびに、

(ぞぞっ……ぞぞっ……ぞぞっ……)

と、さっきよりも重さを増した『波』が、どすん、どすん……とうち寄せます。おかげで、なんだか腰から下が痺れてしまったようになりました。それでも、なつみちゃんは、五十メートルを歩き切りました。
「はぁ……んくうっ……ふうっ……ん……」
おなかを中心とした波は、ちょっとした痛みになって、おなか全体をおおっています。なんだか、腰から下が、自分の物じゃないみたいです。
でも、なつみちゃんは、それを苦しいと思う以上に喜んでいました。

だって、これがなつみちゃんの『楽しみ』なんですから。

「よし、じゃあ次は、クロール50メートル、いくぞー」
水泳の授業はまだまだ始まったばかり。次の指示が、先生から聞こえます。みんなそれぞれ、飛び込んだり、下から行ったりしています。なつみちゃんはもちろん下から。飛び込むなんてもちろん、下からプールの壁を蹴ることだって、おなかにはものすごい苦痛です。

(ざばざばざば……)

一列になってみんな泳いで行きます。でも、なつみちゃんはなかなか前へ進みません。足を動かせないのです。下半身は完全にしびれ、水面を蹴り進む事なんて出来ません。腕だけをぐるぐる動かしても、進む距離はしれています。それでも、半分の25メートルまでやってきました。その時です。
「あっ、なつみちゃん、ごめん!」
後ろを泳いでいた別の女の子が、なつみちゃんに追いついてしまいました。今のなつみちゃんには、ちょっとした刺激でも、とても大きく感じてしまいます。自分の手がプールの壁に触れ、後ろの娘の手が、自分の足に触れて……

(びりびりびりびりっ!!!)

前と後ろから、ものすごい電流が走った気がしました。
「うあああっ!!」
なつみちゃんは、プールの壁際に上半身をあずけ、ぐったりとしてしまいました。ふるふると、体全体が震えます。でも、これでこの苦痛を終わりにするわけではありません。今日は、これを終わらせる『場所』を、前もって決めていたからです。別にここで『終わらせて』も、それはそれで、水の中に広がっていく感じが良いと思うのですが、せっかく決めたことですから、もう少し……。なつみちゃんは、最後の気力を下のおなかに集中させました。
「はぁ……はぁぁっ……ふうっ……んくっ……」
「先生! 水沢さんの具合が悪そうです!」
「おい! 大丈夫か、水沢!? ……ちょっとあがって休んどけ!」
なんだか遠くで、クラスの女の子と先生の声がしました。その声になつみちゃんはかろうじて、
「……はい……」
と応え、ゆるゆるとプールサイドに腰掛けました。

「はあ……すう……ふうぅ……」
深呼吸をして息を整えようとするのですが、なかなかドキドキは収まりません。むしろ、呼吸をすればするほど、ドキドキは早くなるみたいです。
「あ……」
ふっ……と前に目を向けると、ぐんにゃりと景色が曲がって見えます。

わいわい……がやがや…… みんなの声、
じー……じー……じー…… セミの声、
吸い込まれそうな青空、
照りつける太陽、
足下に感じる水の冷たさ……
全部が一緒くたになって、自分自身も溶けていきそうな気分です。

「んっ……んんっ……くっ……」
ゆっくり……ゆっくりおなかの力を抜いていきます。ゆっくり、ゆっくり……

(かり……かりかり……)

後ろ手を着いていた指が、コンクリートを軽くひっかきます。それは、こわばっていた力をまるで惜しむような……全部が溶けていきそうな気持ちの中で、かろうじて自分がここにいるということを示すような……そんな仕草でした。

(かき……かり……かりり……)

「ふんっ……つふゅっ……んひ……」
どんどん、どんどん、お股の辺りが熱くなってきます。もう、少しです。

(かりかり……かりかり……かりり……)

「くあ!!」
思わず体が丸まった、次の瞬間。ちょろり……とした、熱いものが感じられたかと思うと……

(じゅじゅじゅじゅじゅ……しゅぅぅぅぅ……)

「あっ! あぁっ! んっ……うあっ……ふはぁぁぁぁぁぁ……」
一時間目の途中辺りからずっと我慢していた、熱い、熱いおしっこが、コンクリートを流れ落ち、プールサイドの排水溝へ吸い込まれていきました。

「ふぁ……んふ……あ……はぁぁ……んん……」

(しゅしゅしゅしゅぅぅぅぅぅぅぅ……)

かなりの間我慢していた物ですから、おしっこはなかなか止まりません。どんどんあふれていきます。

「あ……」
ふと視線を前に戻すと、泳いでいるみんなが、時々心配そうな顔をして、こちらを見ていました。
「(ああ……みんなが心配してくれてるのに……)」
いけないことだとはわかってはいるのですが、それを思うと、不思議とさらに、からだの奥が、なんだか熱くなるのです。

なつみちゃんは、ようやくおしっこが止まって、名残惜しそうにびくり、びくりと震える体を感じながら、ぼうっ……と空を見上げていました。

相変わらず、このままざぶん……と飛び込みたくなるような空が広がり、暑い日差しと共に、ちょっぴり湿った夏の風が、冷たい水と、熱いおしっこをたっぷり吸った、紺色のスクール水着を撫でていきます。水着を通り抜けた風はほんのり冷たく、なつみちゃんの、水泳とは違った理由で火照った体をしずめてくれるようでした。

(わい……わい……)
(じーわ、じーわ、じーわ……)

ぼんやりと遠くに聞こえるみんなの声と、相変わらず一生懸命鳴いているセミの声を一緒に耳に入れ、視線をはるか上の水面(みなも)に遊ばせながら、なつみちゃんは、とろん……とした目で、その『一番大好きな時間』を楽しんでいました。

「……さん……」
「……さわさん……」
「ねぇ、水沢さんってば!」
「ん……ふあ?」
何度目かの呼びかけに、なつみちゃんが夢見心地から醒めて振り向いたときです。後ろには、制服に着替えた保険委員の男の子が立っていました。本当に心配そうな顔をして、なつみちゃんをのぞき込んでいます。
「水沢さん、一緒に保健室に行こう? あんまり具合が悪そうだったから、僕、心配で……。あっ、先生にはちゃんと言ってあるから……」
どうやら、『お楽しみの時間』が、みんなにはさらに具合が悪いように見えたようでした。「ううん、違うの……」と言いたいところでしたが、保険委員の彼の、本当に心配している顔を見ると、その言葉はのみこんでしまうほかありませんでした。
「う……うん……」
なつみちゃんは、ちょっぴりばつが悪そうにうなずいて、男の子の後に続きました。

「じゃあ、僕は外で待ってるから」
そして再び更衣室。扉の前に男の子を残し、なつみちゃんは水着を着替えることにしました。
分厚いせいでたっぷり水を吸って、すっかり重くなったスクール水着は、脱ぐのが結構大変でした。

ようやく脱いで、それを絞ろうと手に掲げたときです。

(ふわり……)

つんと鼻を刺すような、けれどなつみちゃんにはとてもいい匂いが、水着からしました。そう、さっき自分がたっぷり出した、おしっこの匂いです。
「あっ……」
再び、あのドキドキがよみがえります。
「すうぅ……」
思わず、水着のお股の部分を顔に近づけ、直接匂いをかいでしまいます。くらくらするほど、いい匂いでした。ドキドキはなおも強くなり、たまらずなつみちゃんは、空いた右手を、おしっこの出口の方へ持っていきました。

(ぴちゃ……)

やっぱり、お股は別のおつゆで濡れていました。いつも、この『お楽しみ』をすると、きまってこの、透明で、ぬるぬるしたおつゆが、お股からにじむのです。どこから出て来るんだろ? いつもそう思って、指をそこに潜らせます。すると、じぃん……とした、おしっこを我慢しているときとはまた違う、何とも言えない電気のようなしびれが、体を駆けめぐるのです。どこだどこだと探す指が、どんどんどんどん、お股の中をかきまわして、びりびりびりびりと電気が走って……何とも言えない、とてもいい気持ちになるのです。

「あん……んふっ……くあぁぁぁ……」
変な声がどんどん出ます。にじみでるおつゆは、なつみちゃんが出口を見つけられないのをいいことに、どんどんあふれてくるようです。

(きゅちゃ……くち……ぬちゃ……)

探す指が、お股の中をかき回す音も、なんだかよけいになつみちゃんをドキドキさせます。いつの間にか、なつみちゃんの指の目的は、『おつゆの出口を探す』事から、『お股の中をかきまわす』事になっていました。

(くちゅ……じゅぷ……ぺちゃ……)

「ふあ……ん……ああっ……んんんっ……」
だんだん、足に力が入らなくなってきました。なつみちゃんは、そのままぺたり、と床に座り込んで、その『おつゆの出口探し』に夢中になっていました。

(とんとんとん……)「水沢さん?」
(とんとんとん!)「ねえ、水沢さん、大丈夫!?」

と、そこへ、更衣室のドアを叩く音と共に、男の子の声がしました。
そうです。なつみちゃんは今の状況をすっかり忘れていました。慌てて我に返って、
「あっ……うっ、うん、なんともないよ……ごめんね……」
と、すっかり荒くなってしまった息で応えました。それからは急いで服を着替え、今度こそきちんと水着も絞り、なつみちゃんは、やっと更衣室を出たのでした。



「三時間目も休んでいいと思うよ。先生には、僕がちゃんと言っておくから」
そして保健室。ベッドに横たわったなつみちゃんを見下ろしながら、男の子は優しく言ってくれました。
「う……うん。ありがと……」
一番の『お楽しみ』が出来たとはいえ、なんだかずるいことをしたような気がして、なつみちゃんには返す言葉が見つかりませんでした。
「じゃ、僕は教室に帰るから。……ゆっくり休んで、早く元気になってね」
保険委員の男の子は、そう言ってもう一度にっこり微笑むと、静かに保健室を出ていきました。「はぁー……」
誰もいなくなって、しん、と静まり返った保健室。ベッドの上でなつみちゃんは、小さくため息をついてしまいました。
『お楽しみ』のドキドキと、みんなの……特にあの男の子の、本当に心配してくれている顔。二つが、ぐるぐるぐるぐると頭の中を巡ります。「……悪いこと、しちゃったかなぁ…………」
しばらく考え込んでしまったなつみちゃんでしたが、やがて、ばふり! と布団を頭からかぶって、こう思いました。「でもやっぱり、気持ちいいことの方が好き!」

保健室の外では、プールのように透き通った青空の下、たくさんのセミが、なつみちゃんのことなどお構いなしに、あいかわらず一生懸命鳴いていました。

-おしまい