D's NEST

闇色きゃらばん 3

ちくしょう。
なんでこんな昔のことを思い出さなきゃいけねえんだ。
すすけた木賃宿の窓べりに腰掛け、空へ向かって毒づく。
だがそこには、にやけたように光る、おぼろ月があるだけだった。
舌打ちと共に考える。
あの男――おれにジャグリングを教えてくれたスポーツマン崩れ――なんて名前で、どんな顔してたっけ? おれは、今の瞬間だけはそれを思い出せなかった。

ちゃぷ ちゃぷ じゅる ずる……

音がする。そして、下半身を覆うのは、痛みとは対極にあるものだ。
「はっ、はふ、うぐ、うむ……」
口いっぱいに頬ばる女の声。一心に、嬉しそうに、生き甲斐のように……その声は聞こえる。
そうだ、今は余計なことを考えなくていい。ウジウジ悩むのは、頭で十分。チンポは脳じゃねえんだ。
「あぐ……はむ……うんっ……んっ……」
「うめえかあ? ワン子? ん?」
おれは、股間に食いついている女――ワン子に声をかけてみた。
そう、名前こそ『ワン子』と呼んじゃあいるが、コイツはれっきとした人間の女だ。年の頃は……ハタチ前後だろうか。小柄ではあるが、出るところは出て、締まるところは締まってる。いい体型だ。肌は少し浅黒く、髪はショートで、顔は……目鼻立ちのはっきりした、少し濃いめの顔だ。だが、十分に美人だ。ただし、これまでのやり取りで気づいてると思うが、おつむの方がいかれている。セックスにな。
コイツとの出会いは強烈だった。雨の闇夜、道ばたに、段ボールに入れられて捨てられてたんだ。それも全裸で。ご丁寧に、首からは『かわいがって下さい』と札まで着いてた。端から見てれば、哀れの極みだ。
だがコイツは……その箱の中、しかも雨の中で、オナってやがったんだ。クンクン甘ったるい声で鳴きながらよ。
おれは、あきれて笑うしかなかったね。同時に、コイツの境遇が読めた。

性奴隷。どっかの金持ちが、道楽で女を買って、『仕込んだ』んだろう。最初から『仕込み済み』の女を買ったのかも知れないが。で、飼い始めたはいいが、あんまりヤリすぎて、おつむかイッちまった……と、こんなとこだろう。
んで、おれがたまたま通りがかったところを気まぐれで拾ってやって、手当をしてやったら……なついちまった、というわけだ。

「こら、ワン子」
「はぐ……むぐ……うふ……」
声の主は答えない。ただ、ヨダレをだらしなく垂らしながら、思い切り、口でおれのチンポをしごいている。
「ふん……」
おれも、今のこいつに何を言っても通じないのは分かってる。だから、それ以上何も言わないでいた。
「ふう……」
それで許せるのは、ひとえにコイツの上手さにある。奉仕の仕方ってのを、憎いまでに知っているんだ。おれは結構慣れているが、初めてされれば一分もたねえんじゃねえだろうか?
やがて、快感のしびれが一つ所に収束を見せ始める。
「出すぞ……」
「はぐ! あふ! うん! うぅんっ!」
直前になって大きさを増したおれのチンポを感じたのか、ワン子の口の動きが最高潮を迎える。
「そらっ……!」

どくっ……!

「うぅっ……!」
頭をつかみ、のどの奥へたっぷりとザーメンを流し込んでやる。ワン子は、嫌がるそぶりなどみじんも見せずに、汁の一滴も逃すまいと飲み干していく。
「おっと……」
射精の後で、おれは思い出した。さっき考え事をしていたときに、ションベンへ行きたかったんだ。その尿意が、今になってよみがえってきた。
「おーし、そのままでいろよ、ワン子……」
おれの言葉に、ワン子はチンポをくわえたままこくんとうなずく。
「そぉら……!」
「くふぅぅ……ん……」
おれは、ワン子の喉にションベンを流し込んだ。ザーメンに先を越されていたせいでガマンしていたからか、勢いよく思い切り出る。
「うぐ、うぐ、ごく、うご……!」
しかしワン子は、ザーメン同様、それを嬉々として飲み干していく。やがて、出終わった後も、まだチンポを離そうとしない。

おれはこういう光景を見るたびに、元の飼い主に同情したくなる。何をやっても嫌がらないというのは、張り合いがないんだ。まっ、その二人の間に、何かあるなら別だが。
「よーし、ケツ向けろ……犯してやっからよ……」
「くうん……!」
もったりとした動きで、四つん這いになるワン子。『犯す』『つっこむ』その辺の言葉に、コイツはトコトン敏感だ。おれは特性のサポーターを膝にはめ(素のままじゃあ、騎乗位しかできねえからな)グチャグチャにとろけている穴の中へ、テメエのチンポをぶちこんでやった。
「あおぉーー……ん……!」
よほどつっこまれたのが嬉しいらしい。かん高い遠吠えと共に、中の肉が小刻みに震える。お手軽な奴だ。
「くぉぉんっ! んっ! んふ……きゅぅぅん……!!」
のしかかるようにかき回してやると、コイツは一番喜ぶ。中の抵抗は極限までなく、締め方もバツグンだ。
「(不思議なもんだぜ……)」
だが、その理由を考えると少し萎えそうになる。おれは、なるだけそのことを頭から追い払って、ワン子の中を味わうことに専念した。
「おぉら……ココも好きだったよなあ?」
「ぴっ……!」
ケツの穴へ、無造作に指をねじ込むおれ。2本の指が、苦もなく狭い穴へ入っていく。そのまま、ごく薄いしきり越しに、マンコに収まったチンポをさする。
「あうぅうぅうぅうぅうーーーんっ!!」
断末魔のようなよがり声。中のケイレンが、再び激しくなる。
「よっと……」
おれは、姿勢を変えてワン子を上に乗せた。よだれまみれの口が、キスを求めて近づいてくる。
「ダメだっつてんだろ!」
「くふうん……」
しかし、おれはそれを腕で押し戻す。今のコイツとは、間違ってもキスをしたくない。
「うむ、うふ、くん……」
仕方なく、ワン子はおれの指をしゃぶりにかかる。その間も腰の動きは絶えることなく、そろそろ、おれも2発目が来そうになっていた。
「出すぞ……!」
「くんっ! んっ! うぅぅんっ!!」
「そらっ!」

どくっ……!

「きゅんっ……!!」
つなぎ目が、思い切りねじ込まれに来る。果てしない圧迫感と脈動が、おれを芯から絞り出す。
「うふ……ふ……ふうん……」
「いてて……! ちったあ……加減ってもんを……!」
イテエぐらいに締め付けてくる肉。いつも言い聞かせているんだが、コイツはちっとも聞きやがらねえ。
「くうん……くううん……」
ワン子は、一心におれの顔を舐めてくる。こういうことをされるから、なんか強く出きれないんだよな、おれって奴はよ……
「もういい。どけ、ワン子」
「んっ……」
「寂しがってる奴が一人、いるみてえだからよ……」
おれは、さっきから押し殺した声を上げている、もう一つの布団に向かった。

「終わったぜぇ、ヒトミ……?」
「……何がよ……」
むくれたようにつくろう声。しかし、その手が布団の中で股間を押さえているのは、誰の目にも明らかだ。
「待ってたんだろ? ん?」
「フン、何寝ぼけてんのよ。アンタ達がうるさいから、眠れなくて迷惑してるって事ぐらい分かりなさいよ……」
せっかくの悪態も、月明かりに濡れ光る唇と荒ぶる息で言われちゃあ意味なしだ。加えて、もどかしそうな手の動きは止まっていない。
「ふーん、まーたそんなこと言うんだぁ? んじゃ、これは何かなぁ……っと!」
「きゃっ!?」
おれは、思い切りにやけながら、ヒトミの掛け布団を強引にひっぺがした。
はたして、その手はパジャマの下半身に滑り込んで、磯のそれにも似た臭いをまき散らしていた。そしてもう片方は、上半身で胸元を揉みしだいている。これは見えなかったな。
「布団、返しなさいよ! 怒るわよ!」
暗闇でも分かるぐらいに顔を赤く染め、母親か姉みてぇにヒトミは怒る。
「ほぉう……ずいぶんなことをおっしゃるんですねえぇ……?」
まったく、しゃくに障る物言いだ。おれは、テメエから意識をワン子レベルに下げ、獣欲をたぎらせながら言った。
「やれ、ワン子」
「わんっ!」
「ひっ……!?」
おれの命令で、ワン子がヒトミに襲いかかる。オナった快感にぼやけた身体は抵抗を空振らせ、夏向けのパジャマも相まってすぐに剥かれてしまった。
いいや、なんだかんだ言いながら、その抵抗はポーズにしか見えなかった。
剥いてる最中から、ワン子はヒトミの身体をなめまくる。その様は、まさに犬だ。ヒトミのことをヌメヌメのナメクジにでもしようかってぐらいになめる。ただし、のべつまくなしじゃあ無い。よがるポイントをなめ分けているところは、さすがだ。
「う……はぁぁ……っ……」
ヒトミは、おれと目線を合わせないようにしながら、押し殺した甘い声を上げる。怒って見せた手前、素直には感じられないらしい。
「く……はぁぁんっ……!」
だが、ワン子の舌技は一級品だ。そんな意地は、へのつっぱりにもなりゃしねえ。すぐに体が大きくわななき、不規則な吐息はますます熱くなる。
「(くくくっ……毎度毎度、いーい見せ物だぜ……。素直に『してくれ』って言やいいのになあ……)」
会心の含み笑いを少しく飲み込んで、おれは攻めている側の犬に向けて言った。
「よし、もういいぞ。戻れワン子」
「わん……!」
「あっ……!?」
おれの膝元に駆け戻ってきた(もっとも、狭い部屋のことだ。数歩もない距離だがな)ワン子が、ご褒美をねだって甘えてくる。もちろん、褒美はおれのチンポだ。ヒトミの姿に三度たぎりつつあるところを、ワン子は喜んでくわえる。
「さぁーて、どうしてほしい、ヒトミぃ?」
余裕たっぷりに問いかけるおれに、ヒトミは、股ぐらをすりあわせながらうめく。
「くっ……卑怯よ、アンタ……! いつもいつも、こんな方法でしか私を抱けないっての!?」
「そーだよ。正々堂々申し込んで、オマエがつっぱね続けてるからだろが? あん?」
状況はおれの方が断然有利なのに、この女はどこまでもおれの神経を逆撫でしてくれる。続く恨み節。
「……なんでアンタなんかにワン子がなつくのよ……」
「いわゆる、人徳の差ってやつだな」
「ハン! どの口が言うのよ?」
「そらぁ決まってる。この口だッ……!」
「あぐっ……!?」
おれは、コメカミのケイレンを押さえつつヒトミに覆い被さり、頬をつまんでこじ開けた口に、自分の舌をねじ込んだ。
「ふぐっ……う……ぅん……うぶぅ……!」
オナニーとワン子の愛撫の興奮で、すでに口いっぱいに溜まりかけていたヒトミのヨダレを、音を立ててすする。
「はふ……う……ぅうぅ……」
ケンカ腰だったヒトミの舌も、すぐにおとなしくなる。
「ふうっ……はあっ……。さあ……ヒトミぃ……どうして……ほしい……?」
「…………」
唇の興奮に、鼻息も猛々しく訊ねるおれ。だが、ヒトミは目をそらして口ごもる。
「言えよ……」
「…………」
さらに静寂。いや、ヒトミも興奮しているから、互いの荒い息だけが響く。
「言えったら!」
鼻の奥が酸っぱくなり始めたおれは、強引にヒトミの顔を正面に向け、きつく怒鳴った。
「……入れて……」
黒髪に片方隠れた大きな瞳の光を、それでもおれと交わらせることなく、かすかにつぶやく声。
「ハッ……もったいつけてんじゃねえよ……」
おれは、これ以上なく意気のない勝ち名乗りと共に、ヒトミの中に入っていった。
「そらッ……!」
「くふっ……あぁぁ……!」
散々ほぐしまくった、そして何度となくぶちこんでるマンコだ。目をつむってたってお定まりの場所に抵抗無くおさまっていく。そして、張り詰めた怒張の先端から、熟れた肉の、えも言えない感触がおれを包んでいく。
『あっさり根元まで入ったぜ』
『ギチギチに締めやがって、やっぱり欲しかったんだろう?』
『布団までボタボタマン汁たれ流しやがって、この淫乱が』
考え付く限りの口汚い罵声。
この女に言いたかった。
言える状況にあるはずだった。
何度も言おうとした。
でも、言えない。
なぜだ。
ちくしょうめ。
こんちくしょうめ!
「くっ……ううっ、うううっ……!」
「ンアッ……! あっ! あうっ! んっ……んぐ……あ……」
『そら、ワン子が見てるぜ。見られるとイイんだろ?』
『団長も、薄目開けて見てるぜきっと。もっとよがれよ』
言えなかった。
「(ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうめ!)」
夢中だった。
夢中で、無言で、荒ぶる息のまま、ヒトミを犯す。
こすれ合う胸板同士。
ふくよかな双丘、硬い頂。
鼻に掛かった嬌声、交じりあう汗、高ぶる感覚。
交わし合う吐息、求める唇、むさぼるだ液。
音。声。匂い。臭い。体液。動く。飛びちる。犯す。犯す。
「痛ッ……!」
せっかくの夢心地も、おれの足は理解ができないらしい。限界を超えた負担に、サポーター越しの激痛を走らせる。ひざを突く体位はもう無理だ。
おれは、あお向けに寝そべって、ヒトミをまたがらせた。
「アうッ……ん……!」
女の体重がモロに掛かる分、より深くチンポがくわえ込まれる形だ。ヒトミは、この体位が好きだ。おれも楽だが、どうしても好きになれない理由があった。
「んふっ……! んっ! ううっ! うんっ! んはあぁん……!」
子宮の奧を叩く快感に、ヒトミの高ぶりはさらに増す。自分で腰を振り、乳房を揉みしだき、意のままの壁へおれのチンポをこすり付けていく。
「あふっ! あっ! あひいぃぃぃっ!」
振り乱す髪。月明かりが一瞬、それまで隠していたヒトミの顔半分を照らす。
そこに、目はない。眉もない。塗り込めたような肌だけが、ある。
変な言い方になるが、『顔半分のっぺらぼう』という表現ができるだろう。
詳しくは知らないが、ガキの頃に熱湯を浴びて、ただれたらしい。絶品の美人であるヒトミの、最大の疵だ。
だが、この目のおかげで、『失った視野に他人の記憶が見える』っつう『力』が身に付いて、おれ達一座で『失せ物当て』の名人としてやってるわけだが。
この顔が見えるから、騎乗位が嫌なのかって? 違う。
「……モキ……」
マン汁のこねくり合う音に混じって、喘ぎとは明らかに違う言葉が聞こえはじめる。
来やがった。
おれは、その言葉を打ち消すべく、さらに腰を突きあげる。
だが、そうすることで、言葉はさらにはっきりとなる。
「あんっ! んっ! いいっ! ……モキ……トモキいぃぃぃっ!!」
「くっ……!!」
ヒトミが『ソイツ』の名前を叫ぶのと、おれが達するのは、皮肉にも同時だった。
「はっ、はっ、はあ……う……」
おれに崩れおちるヒトミ。満足げに荒い息をつく。
だがおれは……気分の良かろうはずもない。
苦い気持ちでいっぱいだった。いつもの事とはいえ、だ。
言いたいことは山ほどある。
『死んだ奴にいつまでもすがってんじゃねえよ』
『幽霊にチンポがあるかよ。やってんのはおれだぜ』
『なんで……』
結局、その言葉のどれひとつも言えることなく、おれは黙々と後始末をした。
外は、うっすらと白みはじめていた。