ファイナル・クエスト 6

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6.憂鬱への疑念

「あのー……」
少し離れた位置から、タダシは三人に呼びかけた。が、

「…………!!」
「…………?!」
「……………………」

なにやら、議論に夢中らしい。一向に気づく気配はない。
「あのっ!」
もう一度、少しトーンを上げて声を掛ける。
「…………?!」
「…………!!!」
「……………………!」
それでも、まだ気づかない。
「あのーーっ!!」
大声で呼びかける。が、全く意に介してくれない。
「(むっ………………!!)」
ここまで来ると、故意ではないかとすら思えてくる。さすがに、腹が立つ。
「す! い!! ま!!! せーーーんっ!!!」
タダシは、ほとんどヤケになって怒鳴った。普段出し慣れないだけに、頭がフラフラする。

「んだぁ?! ……テメェ…………」
さすがにやかましいと感じたのか、戦士がいぶかしげに睨み付けてくる。
……素行がどうあれ、歴戦の戦士であることには変わりない。気迫のこもった視線は、それだけで素人を後ずさりさせられる。
「うっ……あっ……あの……ちょっと、お尋ねしたいんですが……」
縮みきった思考を懸命に奮い立たせて、タダシは言葉を振り絞った。
「なんだ! ……おかしな格好しやがって……」
じろじろと眼前の青年を睨みながら、さもうっとうしそうに戦士が答えた。

最初、その好奇の視線が解らなかったタダシだったが、考えてみれば、ネルシャツにジーパンというタダシの出で立ちは、この世界では浮いて見える。
視線については納得できたが、言葉尻のあからさまな敵意は、やはり怖い。
「あのっ、みなさんは、この近くに住む魔女の城を探しているんですか?」
「ああ、そうだ」
ふんっ、と鼻を鳴らし、胸を張る三人。
「じゃあ、言ってみれば、悪しき魔女を倒しにやって来た、勇者様ご一行!」
「言ってみれば、ではなくて、まさにそれだ! ふっふっふ……」
さらに胸を張る三人。

『勇者様ご一行』等という仰々しい台詞が何故とっさに出てきたのか、分からない。ただやはり、『そう言うことになっている』という『前提』が、自分の頭の中にあった。そして眼前の彼らが、そう呼ばれることに、この上ない喜びを感じるだろう……と言うことも、なぜだか、良く『知って』いた。
ともあれ、彼らの自分に対する空気も少し和らいだようだ。もう少し話をしよう……と思ったときだ。

「お主、何か知っておるのか?」
魔法使いが訊ねてきた。
「えっ……?」
「実はの、手に入れた地図が火事で燃えてしまっての……ここから先がわからんのじゃ……」
うっかり酒をこぼしてしまい、にじんで読めなくなったので、証拠隠滅のために火炎の魔法で半分燃やして、ランプの火の不始末によるボヤ騒ぎをでっち上げた……等とは、この場では口が裂けても言えない。
「僕、知ってます! 城の場所……!」
老人の切羽詰まった視線に応えて、タダシは、短く、はっきりと言った。
すると、
「本当か?! 教えろ!! すぐに教えろ!!」
戦士が血相を変えて胸ぐらをつかんできた。ものすごい腕力だ。やすやすと、足が地面から離れる。
「ぐえっ……苦しい……です……分かりました、分かりましたから……離して……くだ……」
そのうめき声に、慌てて手を離す戦士。
「おぉ、悪い悪い」
ちっとも悪いと思っていないのだろう。目があさっての方向を向いている。
「げほっ! げほ……っ! 僕に、ついてきてください……」
ともあれ、タダシは彼らを先導して、再び城の方へと歩き出した。



「……ところで、そんなに悪い事してるんですか? その魔女は……」
均等な緑一色の草原を貫く道を歩きながら、タダシは、ふと浮かんだ疑問を訊いた。少なくとも自分といる間は、自分はともかくとして、他人にちょっかいをかけるようなことはなかったからだ。
「さぁな、俺は知らん」
驚くほどあっさりした答えが返ってくる。
「え? じゃあ、どうして悪い、って、分かるんです?」
「へき地にある古城に住まう魔女……なんざ、うさん臭ぇモンの代表だろ? 何やってるか分かりゃしねぇ。村人も、気味悪がってるしな。『あそこの魔女は、気味が悪くて仕方ない。きっと悪いことをやってるに決まってる』ってな。……噂が噂を呼ぶってやつだ。真偽がどうって事より、奴らにとっちゃ、不気味なモンが近所にあるよりは、ない方が良いに決まってるのさ」
「それに、城と言えば、お宝じゃ。どんな道具や薬があるか、考えただけでわくわくするわい」
「『悪の魔女を倒した』っていう、冒険者としてのハクもつくしね」

さも当然、という戦士、卑しさむき出しの声の魔法使い、楽しそうな僧侶。
「………………」
そんな物なのだろうか……いや、そうなんだろう。
納得しようとして、釈然としない何かがあるのを、タダシは、強引に押し込めた。

「で? テメェはなんで、奴の居場所を知ってるんだ?」
今度は、戦士が訊いてきた。
「あ……それは……僕、別の世界からこっちに迷い込んだみたいで……落ちてきたのが、城の中だったんです。で、その時、記憶、無くしちゃったんです。その時から、いろいろ世話になってたのが、クリープ……魔女の名前ですけど……なんですよ」
彼女の顔が、一瞬、脳裏をよぎる。とたんに

(ちくり……)

胸のどこかがが痛んだ気がした。
「(……?)」
おかしいな、と思っていると、
「随分、嬉しそうな顔するのね。……ひょっとしてアンタ、魔女とつるんで、アタシ達をはめようって魂胆じゃないでしょうね……?」
女僧侶の冷たい声が、背中に突き刺さる。
そして、はたり、と、隊列が止まる。

「……本当か……?」
押し殺した声で、戦士がつぶやいた。その腕は、腰の剣に伸びている。一気に血の気が引く。
「とととっ……とんでもない!! 僕だって散々ひどい目に遭わされてきたんです! 変な薬の実験台にされたり、化け物をけしかけられたり、魔法で遊ばれたり……死にかけたことが何度あるか! それをあいつは楽しんでるんですよ! 人の命なんて、何とも思ってないんだ! ……あいつの顔なんて、もう見たくも無い!!」
恐怖を抑える意味も込めて、一気にまくし立てた。確かに、本当のことだ。二度と顔も見たくない、という気持ちも、ある。が……

(ずきり……)

再び、胸が痛んだ気がした。

「とにかく! 早く行きましょう! あいつをやっつけてください!」

なぜこんなに胸が痛むんだ? 馬鹿馬鹿しい……。タダシは、うち消すように頭を振り、城へ向かう歩みを早めた。三人も、まだ釈然としない様子だったが、しばらくしてそれに続いた。

つづく

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