かぼっ 3

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3.ぶくぶく

 喜び勇んで脱衣場へ。しかし、下駄箱と脱衣場のロッカーが有料制であることに、その勢いはいささかそがれてしまった。細かい。けちくさい。僕は「いかがなものか……」と、その時だけ、狭量な偏屈爺さんと化した。
でも悲しいかな、盗難事件は結構あるのも事実だ。僕はすぐに眉間のしわを消した。
がらり……と、戸を開けた瞬間に強くなる温泉の匂い。
「あぁ、これだよなぁ……」
今度は偏屈ジジイから好々爺になって、僕はいっぱいにその湯気を吸い込んだ。
中にあるのは、『銀泉』と言う名の透明な温泉と、『金泉』と言う赤茶色の物。それが真ん中に大きな柱を隔てて、ちょうどヒョウタンのような形でくっついている。それがメインの湯舟だ。それに、打たせ湯と、サウナ。一通りある。
老若男……女はさすがにいないけど、やっぱり人は多い。雑多な雰囲気だけなら、銭湯と変わりない。でも、掛かり湯の時に、僕は決定的な特徴を見つけて変に安堵してしまった。
「頭痛薬ケロリン」と書かれた黄色い洗面器。これだ。どれほど浴場がこぎれいでも、これがあると無いとではえらく違う。ある意味、薬用入浴剤より温泉気分だ。偏見だろうか。多分そうだろう。
さておき、まずは普通に『銀泉』から攻めてみることにした。
ざぶり……と首近くまでどっぷり浸かれば、冷たくこわばっていた関節に、熱いものがじんわりと、まさに骨身にしみて感じる。心までしみる水。ああ、だから『沁みる』って書くんだなあ……なんて、誰に出されたわけでもない問題を解きながら、しばし、水栽培の球根の気持ちになってみる僕だった。汗と湯気にけむる視界で改めて周りを見渡す。
……にしても、どうしてオッチャンって、床に直に寝そべるんだろう? 身体を沈めて、目線が低いためか、余計に変に見える。アオリで見ると、ボテ腹も雄大な山脈に……見えるわけがない。

しばし目を閉じ、また、球根に戻る。
じり、じり、じり…… ぷつ、ぷつ、ぷつ……。
どんどん流れる汗が心地良い。うっ屈した気分も、一緒に流れてくれればいいな、と、ほとんど顔半分まで浸かりながら、僕はぼんやりと考えていた。

じり、じり、じり……
さすがにもう限界かも知れない。くらくらしてきた。
あれ? なんか景色が……歪んで……

「あ……………………」

がぼっ
ぶくぶくぶく……

僕は、湯船に突っ伏してしまった。

つづく

 

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