ばふっ 3

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3.3回目

「よっ……」
奥のソファーに女性を横たえ、冷水を含ませたおしぼりを額にあてる。
「ふぅぅっ……んっ……」
勘違いされるような声を上げる彼女に、僕は思わずあたりを見渡してしまった。
でも、良かった。それほど顔色も悪くない。呼吸がちょっと荒い気もするけど……。
しばらくそのままにしておいて、一度額のおしぼりを替えようとしたときだ。僕の手が、つっ……と、彼女の頬に触れた。
「はぁんっ……」
ぴくん……と彼女の体が震え、うっすらと目が開いた。
そして僕を認めるや、彼女は……抱きついてきた。
「げ!?」『問題:この状況に至った原因を類推せよ』

……解答不能。エラーである。つまり、完全に僕の頭はパニクっていた。
僕の鼻を、甘い髪の臭いがくすぐる。
耳からは、荒い息づかいが聞こえる。
胸には柔らかな感触……気持ち良い。
「あ……あかくっ……あうあうあうあう……」
石になっている僕の耳に、こんな囁きが聞こえた。
「連れてって……」
かすれるような、妙に艶かしい声だった。
「ひえっ? ……どっ……どどどどどこへ?」
ろれつの回らない舌で訊き返す。
「どこでも……。二人になれる場所へ……。」
「え? え!? ええっ!?」
今まで以上に、パニックになる。勢いで肩を抱いてしまっていた手も、ぶるぶると震える。しかし……
「ねぇ……」
ふぅっ……と、僕の耳になま暖かい息が掛かった。

ぷっつん

僕の頭の論理回路は、強制的にオフになった。

「マスター、自転車、店の前に一晩置かせてよ」
僕はカウンターの方を見やり、声を掛けた。
「あ? いいよ。しかし、君も隅に置けないねぇ」
すっとぼけたマスターの言葉を半ば無視して、僕は彼女と共に店を出た。
そして、駅前でタクシーを拾い、自分の家に向かうことにした。

ばふっ

どことなく間の抜けた、タクシーのドアの閉まる音が、なぜだか妙に艶かしく響いた。

つづく

 

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