影縫光(かげぬうひかり)~幻影・裏面 3

この記事は約3分で読めます。

3. 視線

 そんなある日のことです。授業中、奇妙な視線を感じました。
 視線の元を探すと、一人の男子でした。
 取り立てて目立った存在でもなく、女子達の間でも話題にすら上らないような、本当に「普通の」男子です。
 私が気づいたと思ったか、向こうは慌てて目を逸らします。

 ……私は妙にその視線が気に掛かりだしました。
 視線がまとわりついて嫌だ、と言うのではありません。その視線の種類です。恋慕や、あるいは憎悪の類の物ならば、視線の元へ行って、問いただす事もできるでしょう。
 ですが、今私に注がれているそれは……そう、怯えながら何かを問いかけるような、そんな視線でした。

 休憩時間などに、友人達と他愛のない話などをしているときも、話がそこに及びました。

「ねぇねぇ、あそこの席に座ってるアイツ、さっきからずーーっとアンタのこと見てるよ。」
「気があるのかな?」
「もしかして、イキナリ告白されたりなんかして!」
「アハハハハッ!」

 私への視線が、ただの「視線」にしか思えない彼女たちは、そう言って無邪気に笑うだけでした。ですが、明らかにその視線には、何か切迫すらした物があるような気がしてなりませんでした。

 そしてその日の終業まぎわのことです。私は、ふとそれまで感じていた視線を感じないことに気づきました。そうなるとおかしな物で、それまであまりいい思いはしていなかったはずの視線の主を、教室を見渡して探しました。

 ……相変わらず彼は自分の席にいましたが、こちらの視線に気づくと、今度は必死に目を逸らそうとします。
 突然彼の態度が変わったことに多少いぶかしみつつ、私は、授業は上の空でとりとめのないことを色々と考えていました。

 その思考は、ついさっきやった、いつもの「楽しみ」のことに及びました。
 一部始終の感覚を思い起こし、再び躯が少し震えます。 その時、一つのことが思い当たりました。
 一通り終わって、トイレを出るときです。まだはっきりしない私の視界に、確かに「彼」がいたことを。

 不審に思っているんだろうか。しかし、それにしてはあの「目」は好奇の物や、軽蔑の物ではない。何か言いたそうにも思えた……。

 そしてその日の放課後。「彼」を探して声を掛けてみようかどうかと迷っているうちに、窓から、凄い速さで走って帰る「彼」の姿が見えました。

『ああ、やっぱりそうか』

 何が「そう」なのか解らなかったのですが、私は明日の放課後、彼に話を聞いてみようと心に決めたのです。




 そして、その日。校舎を出て、門までの道。
 彼は、まだ居るだろうか?
 ひょっとしたら、待っているかも知れない。
 早く話を聞いてみたい、そんな気がする。

 でも

 今日の校門はやけに遠い。
 歩いても、歩いても、まだ遠い。
 でもいいや、どうせ見えているんだもの。
 彼は、そこにいるのだろうか?

つづく

 

タイトルとURLをコピーしました