彼女のこと 2

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2. 告白

 そして次の日。一日の授業がもうすぐ終わるという頃のことです。
 普段通り授業を聞いている私の耳に、ある声が聞こえてきました。
「……ッ……ふ……あ……つッ」
 どこから聞こえてくるのかと目を巡らせると、昨日の彼女でした。私の斜め前に座っているのです。
 何か必死に我慢しているような、そんな顔でした。
『どうしたの?』
 そう声を掛けようとした時です。
 ただ我慢しているだけかと思えた彼女の顔が、少し違うことに気づきました。
 我慢はしているが、何かこっそりしている……
 そう、まるで気づかれないように悪戯をする子供のような……
 そこまで考えたとき、ふと、昨日の朝にもした、自分の『行為』……オムツを穿いて、学校でおもらしをする行為……を思い出しました。
「まさか……」
 呟きとは裏腹に、ほぼ完全な確信を抱いて、彼女の足元を見てみました。
 足を伝わる雫……。
「(……ッ!)」
私の驚く気配を察したのか、彼女はこちらを見て、『照れたような、怯えたような』、そんな笑顔を返しました。

 やがてホームルームも終わり、下校する段、私は彼女の席へ行きました。
「……どうして?」
 私の真剣な顔に少したじろいだ彼女でしたが、しばらくの沈黙の後、意を決したように答えました。
「今から……時間ある? 家で……お話したいの……」
 彼女は、それきり俯いてしまいました。
「……いいわ」
 取り立てて急ぐ用があるわけでもないので、その誘いは受けることにしました。
 ……そして私は、彼女の家に行くことになったのです。




 彼女の家は、回りより少し大きい程度の極々普通の家です。
 誰も居ないとのことで、彼女と二人、部屋へ行きました。

 出されたお茶を飲みながら、おたがい取っかかりを探すような、少し気まずい空気が流れました。
 私もこういう空気は苦手です。どうしようかと考えあぐねていると、彼女が口を開きました。
「私……見ちゃったの。昨日の朝、教室で……してたの……」
 心底驚きました。同時に、昨日の事が鮮明にフラッシュ・バックし、今更ながらですが、鏡を見なくても真っ赤になって行く自分が分かりました。
「ず……ずっと……見てたの? 私の……」
 心臓が鼓動を早め、しどろもどろになりながら、私は訊ねました。
「ううん、少しだけ。最初は何か変だな、ぐらいにしか思わなかったんだけど、なんだかえっちな顔だなって思ったから……まさか、と思って訊いてみたの。」
「あっ!」
 そう。私はカマをかけられたのです。
 彼女は、慌てている私の顔がおかしかったのか、悪戯っぽく笑いました。
「でも……違うの。私……嬉しかったの。」
 しかし、一転、消え入りそうな声で彼女は言いました。
「えっ?」
「貴女も……してたこと……」
 まさか、と思う反面、やっぱり……と思いました。
「………………」
「同じだと思ったの。貴女なら、私のこと解ってくれると思ったの! 昨日、貴女の背中でしちゃった時、優しくしてくれたでしょ。嬉しかった。凄く嬉しかった! それで絶対解ってくれると思ったの! だから……だから今日……」
そこまで一気に言って、彼女は立ち上がり
「見て……」
 と、スカートをめくりました。
「……!! ……おむつ……」
 そう。彼女はオムツを穿いていました。しかも、私のように紙ではなく、可愛いカバーの着いた布オムツでした。
「……はぁっ…………」
 見惚れたようにため息を付く自分が居て、ぼうっと躯が熱くなっていきました。
『羨ましいでしょう……』
「羨ましいわ……」
 久しぶりに現れた『アタシ』と、そんな会話を心の中でしていました。
 呆然としているような私を見てか見ずか、彼女は続けました。
「私……おしっこが近くって……なかなかオムツが手放せないの……」
 半分は本当で、半分は嘘でしょう。本当にそれだけなら、市販の目立たない対策商品が売られているはずです。
「……それだけじゃ、ないんでしょ?」
ちょっと意地悪っぽく、私は訊き返しました。
「うん……」
 そう言った瞬間、彼女は泣きそうな顔になりました。
 私は、そんな顔の彼女がいとおしく思えて言いました。
「だっこしてあげる。そしたら、少しは話せるかもよ……。」
 そして私は彼女を膝の上に座らせ、ぎゅっと抱きしめました。
「うっ……ううっ……うあぁぁぁーーーーんっ…………!」
 彼女は泣き始めました。私は彼女の顔は見ないまま、回した手で背中を、子供を寝かしつける調子で、ぽん、ぽん、と叩きながら、彼女の泣くに任せました。

 ひとしきり泣いた後、彼女は自身のことを少しずつ、語り始めました……

つづく

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