彼女のこと 1

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1.発端

 ……またお会いしましたね。『私』です。
 再び皆さんに私のお話を聞いていただけるとあって、嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちです。

 今回は、あの出来事―私が自分の中の『アタシ』という名の願望に気づき、赤ちゃんに返ることができた日―その後の、一つの出会いをお話ししようと思います。

 ……それは、ある日の体育の授業でした。
 大学受験を控え、ピリピリしたムードを紛らわそうと考えているのでしょうか、その日はレクリエーションめいた内容でした。
 その中に、『馬跳び競争』と言う物がありました。ご存じかとは思いますが、前屈みに躯を曲げて、『跳び馬』になり、別の人が跳び箱の要領で跳ぶ物です。それを10人ずつ位のチームに分けて、一定の距離をどれだけ速く全員跳べるか競うのです。
 最初は渋々やっていても、やはりみんな一度火がつくと熱中する物です。
……『事件』はそんなときに起きました……

 私が跳び馬になり、一番後ろの娘が跳ぶ番でした。
 その娘は割と可愛いのですが、あまりクラスでも目立たない存在の子です。
 と言うのも、クラスメイトとの談笑の時の顔もどこかぎこちなく、よそよそしい、厭世(えんせい)的と言ってもいい様な雰囲気を漂わせているからでしょう。加えて少し鈍めのようで、これまでも跳ぶのに随分失敗していました。
「よいしょっ!」
 そんな彼女が私の背中に手を突き、跳ぶかと思った瞬間……
「きゃっ!」
 半ば予想していたとおり、彼女は跳び損ねて、馬を崩した私の背中の上で尻餅をつくような格好になりました。
 しかし、その後です……
「あっ……!」
 しぼり出すような声が聞こえ、そして……生暖かい感触が、背中に伝わって来ました。私の、よく知っている……
「まさか、この感触は!」
 そう。おしっこです。その娘は跳び損ねて尻餅をついた拍子に、私の背中の上でおもらしをしたのです。

 シュュュゥゥ……

 彼女からあふれるおしっこは私の背中を濡らし尽くし、グラウンドへ染みを作っていきます。

 私の背中の上、永遠に続くかと思われていた奔流が止まり、私はようやく彼女の重みを認識しました。
「うっ……うあっ……ひっ……ひぐっ……」
 背中越しにその娘の顔を見ると、彼女は手で顔を覆い、泣きじゃくっていました。
『カワイイ…………』
 思わず、そう呟いてしまうような仕草でした。

「ホラ立って。おぶってってあげる。」
 彼女の下から這い出た私は、そう言っておんぶの体勢になりました。
「え……?」
 泣き止みかけたその娘は、怯えるような目でこちらを見ます。警戒を解いていない顔でした。そんな彼女に、私は、努めて冷静に言いました。
「大丈夫よ。私たちのチーム、競争がビリで、おまけに私たち一番後ろだったから誰も気づいて無いみたい」
 みんなが熱中していていたのは、本当に幸いでした。
「ほら、行こう」
「う……うん……」
 私は彼女を負ぶって、先生に悟られないように少し遠くから、彼女を保健室へ連れて行く旨を説明しました。勿論、腰を打ったとかの適当な口実を作って。

 シャワーを浴びさせ、私の『我慢できなくなったときの為の』替えのショーツと予備のブルマーを貸して上げて、保健室へ連れていきました。汚れた彼女のショーツとブルマーは、手近なビニール袋に入れ、他人に解らないように彼女の鞄に入れておきました。
 彼女をベッドに横たえ、シーツをかぶせた後、私は優しく言いました。
「安心して。私、絶対に誰にも言わないから。ゆっくり休むといいわ。ついでに、今日はこのままサボッちゃいなよ」
 驚いたような顔をして、彼女は訊き返します。
「……どうして……?」
「いいの、いいの。気にしないで。じゃ、私は戻るわね。あっそうそう、汚れたショーツとか、ビニールに入れて鞄の中に入れておいたから……」
「うん……ありがとう……」

 彼女を保健室へ残し、私はグラウンドへ戻りました。
 歩きながら、私の中には二つの疑問が湧いていました。

『おもらしの瞬間の声、あれは快感の声ではなかったか』

そして
『保健室のベッドでの彼女の顔は、驚きの下に予感が当たった確信と喜びのような色がなかったか』

 この二つでした。
 ……答えは、思ったより早く出ました……。

つづく

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