まりこちゃん(仮名)跳び箱で大失敗をするの巻

ニセ児童文学叢書
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(ぴっ!)
(たったったったっ……ばんっ! たーん……)

(ぴっ!)
(たったったったっ……ばんっ! たーん……)

今日は雨が降っているので、まりこちゃん(仮名)のクラスの体育の授業は、体育館です。今日のメインは跳び箱。みんなで重たい跳び箱やら、汗くさいマットやらを運んできて、せっせと準備をしました。外はすっかり寒くなっていましたから、風が入らない体育館での授業は、みんなほっとするのでした。

「(うー……まだかなぁ……まだかなぁ……)」

軽い準備体操の後、まりこちゃん(仮名)は、みんなが順番に飛んでいく列に並びながら、そわそわそわそわしていました。
え? まりこちゃん(仮名)は跳び箱が大好きで、早く跳びたくてうずうずしてるんだろう、って? いいえ、違います。
じゃあ、大嫌いだから早く終わらせたいのかって? それもはずれ。
まりこちゃん(仮名)は、跳び箱が好きなわけでも嫌いなわけでもありません。どちらかと言えば、ちょっぴり苦手ですが、今はそれどころじゃなかったのでした。

(ぴっ!)
(たったったったっ……ばんっ! たーん……)
「(うー……あと……四人……あと……三人んん……えーん……)」

泣き出しそうなほど困り切った顔を笑顔で隠しながら、まりこちゃん(仮名)は自分の前にいるクラスメイトの数を数えていました。ひとりにつき二十秒も掛かりませんから、自分の番まであと一分もないはずです。
でも、まりこちゃん(仮名)には、とても、とっても長く感じるのでした。

「(ふえぇーん……もれちゃうよぉ……もれちゃうよぉぅ……)」

まりこちゃん(仮名)は、もう半分泣きそうでした。
そうです。まりこちゃん(仮名)は、ずっとおしっこをガマンしていたのでした。風が入ってこないとはいえ、底冷えのする体育館。そして、まりこちゃん(仮名)はブルマです。体が冷えてしまったのでしょう。列に並び始めてしばらくしてから、まりこちゃん(仮名)はおトイレに行きたくて仕方なかったのでした。

え? じゃあ先生にトイレに行くように言えばいいじゃないか、ですって?

そこが問題です。まりこちゃん(仮名)がそうであるように、クラスのみんなは、全員が跳び箱を好きなわけではありません。だから、もし途中で列を離れれば、『まりこちゃん(仮名)が跳び箱をさぼった!』と言われかねません。
仮に、まりこちゃん(仮名)が「トイレに行きたかったの!」と言い返したとしても、いじわるな男子などは、信じてはくれないでしょう。
だから、せめて一回跳ぶだけでもしないと、おトイレには行けないのでした。

(ぴっ!!)
「(やったぁ!)」

いよいよ、まりこちゃん(仮名)の番です。

視線を跳び箱の先にいる先生に合わせます。
「先生! おトイレに行かせて下さい!」と言う言葉を、おなかの中に準備して、まりこちゃん(仮名)は走り始めました。

(たったったったった……) スピードをつけて……
(ばんっ!) 踏み台で身を屈め……
(たっ!) 手を着いて、ジャンプ!

したつもりでした。が……
(とすん!)
ずっとおしっこをガマンしていて、力が抜けてしまっていたのでしょうか。
まりこちゃん(仮名)は跳び箱を跳べずに、その上にのっかってしまいました。

「(あうっ!! やっ……やあぁ……)」
まりこちゃん(仮名)は跳び箱の上で肩を震わせていました。
『絶望』というやつです。
跳ぶのに失敗して、まりこちゃん(仮名)は、自分のおしっこの出口を思いっきり跳び箱にぶつけてしまったのです。
必死になっておしっこを止めていた出口さんにとっては、あまりにも乱暴なごあいさつ。出口さんは、怒っておしっこを止めるのをやめてしまいました。

と、いうことは……
(ちょろちょろちょろちょろ……)
「(あっ……やっ……やだぁっ…… と……止まってよぉぅ……)」
いくらオシッコを止めるようにお願いしても、全くの無駄でした。
それどころか、どんどんどんどん熱いおしっこがあふれてきます。
(じゅじゅじゅじゅじゅううう……)
「(ふえっ…………)」
パンツとブルマを楽々すり抜け、跳び箱の台に染み込んでいくおしっこ。
まりこちゃん(仮名)には、まるで他人事のようにその光景を見ているしかなかったのでした。

(ざわざわ……ざわざわ……)
(おい……大丈夫か……おい……!)

自分のことを不思議がっているらしいみんなの声も、心配してくれているらしい先生の声も聞こえません。
ただ、
(しょろしょろしょろしょろ……)
という、やけにはっきりとした音だけが、まりこちゃん(仮名)の耳に聞こえていました。
(ぶるり……)
「(ふあっ……んっ……)」
やがて、体が「あぁすっきりした!」といわんばかりに小さく震え、おしっこが全部出たことを教えてくれました。

でも、まりこちゃん(仮名)の気分はすっきりどころではありません。
大失敗です。
まりこちゃん(仮名)はどういう顔をしていいのかわからずに、涙目で照れ笑いを作って、

「あちゃあ……」

とだけ、つぶやきました。

 

ーおしまい

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