うらめしあずき 5 全ては手のひらの上でしたー!

ニセ児童文学叢書
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「…あれ?」
気がつくと、曽宗さんは保健室のベッドに横たわっていました。
ちゃんと、制服も着ています。確か、プールで……
「よう、おはようさん。よく寝てたな」
その時、横から声がしました。振り向くと、隣のベッドでくつろいでいる緒茂さんがいました。
「あ…あの…なにがどう…?」
「ま、成功ってことさ。お疲れさん」
「…………」
「さーて、今日も一日が終わったか! 帰ろ帰ろ。お前も帰れよ。もう授業は終わって、先公に連絡は行ってるからさ。大丈夫だろ?」
「えっ? う…うん…」
「んじゃな」
短く言い残すと、緒茂さんは昨日のようにくるりと背を向けて保健室を出ていきました。
「あー…やっぱり言わずにゃいられねえなあ…」
…と思ったら、またくるりと向き直りました。くるくると忙しい人です。
「な…何?」
いぶかしむ曽宗さんに、緒茂さんはたっぷりと間を取って言いました。
「…最高に可愛かったぜ。ひひひっ…」
「………っ!」
ぼんっ! と音を立てそうなほどに、一気に赤くなる曽宗さんでした。

時間はもう放課後でした。教室まで帰る途中、クラスメイトの何人かとすれ違い、そのたびに「大丈夫?」と声をかけられます。それにすべて「うん…うん…」とうつむいたままの生返事で返す曽宗さん。…どうにも納得行かなかったのです。のろのろと教室に戻り、帰り支度を整えて、やっぱりうつむいたまま、下駄箱に向かいました。

所変わって、ここは体育館の裏。緒茂さんは、そこで待ち合わせをしていました。
「お嬢」
「お疲れさま、緒茂さん。どう? 彼女の具合は」
「ああ、もう目ぇ覚ましました」
「そう、良かったわ…」
「でも、まーだちょっと、余韻が残ってるみたいですけどね」
「まあ…うふふっ…」
にこにこと緒茂さんに返しているのは、まぎれもなく御司留さんでした。

「へへへーっ、お嬢のテク、すごいですからねえ…」
「あら、気に入った相手には、思いっきり気持ちよくなって欲しいと思うのが普通でしょう?」
「ま、そうですけどね。…にしても、あの薬、スゲェですねぇ。アイツ、プールん時は飲んでないと思ってたから、反応の面白かったこと! 『そ…そんなあ…あたし…飲んでな…あ…あーっ!』だって。可愛い可愛い。お嬢が目をつけたのも、うなずけますよ」
「ええ…」
「お嬢もすごかったっすよ、薬無しでも、みんなに見られて、オシッコ我慢してるだけであんなにヌルヌルですもんね。マゾっ気たっぷり。いつもながら、すごく可愛い…どれだけ混ざりたかったか…」
「もうっ…! からかわないで…。それに、『目をつけた』なんて言わないで。もっと仲良くなりたいって思ってるだけよ」
「はいはい。んじゃ、そーゆーことにしておきますよ」
ぷう、と頬を膨らませる御司留さんに、ひょい、と肩をすくめる緒茂さんでした。
「それから緒茂さん、その雑な口調、いつも言ってるけど何とかならない?」
「へ? やあ…こりゃあもう…どうにもならないっすよ…クセですから…」
「…私の部屋じゃ、いつもあんなに可愛いのに…」
「ぶっ…! そ…そりゃぁ…お嬢と二人っきりの時だけですぉ…参ったなあ…」
ぼそっ…と言った言葉に、緒茂さんは途端にしどろもどろになります。
「そう? だったら、ちょっと嬉しいかな…?」
そんな緒茂さんの様子を見て、御司留さんはくすくすと笑うのでした。
「そっ…それにしても…変でしたね…」
「変って?」
「プールで、結構派手にやったのに、誰も気付かない…いや、何人かチラチラとこっちを見てましたけど、大声ではやしたり、近寄ってくる奴は一人もいなかった…」
まだ慌て口調のまままくし立て、それから首をひねる緒茂さんに、御司留さんはあっさりと言いました。
「あら、当然よ。先生を含めてクラスのみんなには、うちの最中をごちそうしたから」
「へ? 最中…ですか? …確かに『御志流琥庵』の最中は絶品ですけど…でもそれだけで?」
「うふふっ…同じ最中でも、金色の最中、よ」
「あぁっ…!」
「ね? そういうこと」
「あははっ…さすがはお嬢! 参りました!」
「さ、帰りましょう。…うち、来るでしょ?」
にこり…と色んな意味を持たせて微笑む御司留さんに、緒茂さんは、
「…………はい」
と、真っ赤な顔をこくん、とうなずかせました。

「…へへっ…」
緒茂さんは首だけを後ろに振り向かせ、視線の先に照れ笑いを一つしてから、すたすたと歩いていく御司留さんについて、帰っていきました。

「……………」
曽宗さんは、怒るべきか、悔しがるべきなのか、はたまた喜ぶべきか、全く決められないでいました。
要するに、御司留さんと緒茂さんが…いえ、クラス中がグルだったのです。知らぬは曽宗さんばかりなり。下駄箱で緒茂さんをみかけ、気になったのでついていってみれば案の定。しかも、帰り際に緒茂さんが振り向いて見せたあの照れ笑い。陰から覗いていることもばれていたようでした。
最初から最後までいいように踊らされて、あんな…
「あんな…」
プールサイドでの、あの光景がよみがえります。
あの時の御司留さん。恥ずかしそうに感じる顔、もだえる声、興奮に赤く透き通る肌、硬くとがらせた乳首、どろどろになったアソコ…そして、自分をとろかしてくれた、あの指…
はっきり言って、全てがとてもとても可愛かったのです。初めにあった恨む気持ちなんて、砂糖のようにどこかへ溶けて無くなってしまいました。

「…ま、いっかぁ…」

相変わらずあずきは思い出すだに嫌ですが、御司留さんの身体の「あずき」なら、今度は指じゃなくて口で味わってみたいなあ…。御司留さんにも、自分のをもっと食べてもらいたいなあ…と、そんなことを考えながら、曽宗さんは、またどきどきし始めた胸からちょっぴり熱くなってしまった息を、仰いだ空にほうっ…と吐きました。

-おしまい。
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