神隠し~コレクション・ハウスの夜2

「いらっしゃいませ」
ちょっと洒落た商店街にある、高級ランジェリーショップ。
そこに、どう見ても分不相応な学生風の娘が入ってきた。
それに気づいた店員の挨拶も、高をくくって言葉尻がいい加減になる。その娘は、店内に並ぶ色とりどりの商品に目を奪われ、呆けたようにキョロキョロしていた。大方興味本位でウィンドーショッピングにでも来たんだろう……店員はその客に掛けようとした声を呑み込み、知らんぷりを決め込むことにした。

しかし、その娘-清香(さやか)の落ちつきのない目線は、店員が考えていたような羨望のそれではなかった。彼女は『どれを貰おうかな』という“物色”をしていたのだ。

初めて都会に出てきたお上りさんのような目線を装いつつ、ちらちらとレジをうかがう。店員はそっぽを向いたままだ。天井に目を遣る。防犯カメラは……死角はこの辺かな。視線を陳列棚に写す。シルクのショーツが目に入る。
……よし。

しゅっ!

すばやく手を動かし、ショーツを一つ、ポケットにねじ込む。そしてもう一度、レジの方を見る。気づいている様子は、ない。
しかし、品物を『もらって』からすぐに店を出たのでは、かえって怪しまれる。
そこで、相変わらず物欲しそうな顔をしたまま、もうしばらく店内をうろうろする。そして、心底残念そうな顔をして、溜息の一つでもつきながら、店を出るのだ。店を出てしばらくも、大げさに肩を落として、とぼとぼ歩く……ふりをする。

店が視界から消えた頃、清香は演技を止め、心底楽しそうに歩き出す。

「(また成功した。ちょろいもんね……)」
そう。清香が万引きをするのはこれが初めてではない。
最初は、魔が差した程度だった。本当にウインドーショッピングをしているときに、『こんなショーツをはいてみたいなぁ』と思った。そして、『もし、今私がこれをポケットにねじ込んだら、どうなるだろう?』という、『囁き』が聞こえてきた。
やってみようかな……止めようかな……迷ったあげく、実行に移した。
店員は気づくそぶりもなく、店を出ても追いかけてこなかった。
そして清香は、味を占めた。
「んふっ……これをはいてアレができるのね……楽しみだなぁ……」
盗んだショーツをうっとりとした目で見つめ、清香はわくわくした気分で、近くの公園へと向かった。

清香の家と、先ほどの店との丁度中間程に位置する公園。
清香は足早に、そして一直線に公衆トイレに入った。
「さぁて……と……」
おもむろに、今はいているショーツを脱ぐ。薄黄色に汚れているのが解る。

すぅっ……

臭いを嗅いでみる。アンモニアの臭いが鼻を突く。しかし、自分にとってはとてもいい匂いだ。
しばらく、うっとりと匂いを嗅いでいた清香は、さっき盗んだショーツをポケットから取り出し、手早くはきかえた。シルクのすべすべとした感触が、とても心地良い。まともに買おうとすると、随分の出費のはずだ。それが、何の労力もなく、さらには適度なスリルまで味わえて、手に入れられるのだ。嬉しくないはずはない。

思い出し笑いを浮かべながら、清香は足どりも軽く、公園を出た。

公園から家までの道のり、昼間と言うこともあり、人影はまばらだ。
昼間? そう、昼間である。清香は今日の万引きのために、仮病を使って学校を早退したのだ。学校が終わる夕方に店に行くと、他の客が多くてやりにくいからだ。

清香はきょろきょろと辺りを見渡し、人影がないことを確認した。
そして、ちろりと舌を出し、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。そして…………

みちっ……ぶひっ……ぶっ……ぶちゅぶちゅぶっ……ぶほびっ……しゅぅぅぅ……

立ったまま、ショーツの中に、糞尿をした。
足下には尿の水たまりができ、ショーツの中に収まりきらない軟便が、内腿を伝う。尻の部分は、あたかもうさぎの尻尾のようにこんもりと盛り上がり、強烈な臭いが立ちこめる。
……清香は、まさに至福、と言った顔で立ち尽くしていた。びくん、びくん、と体が名残惜しそうにケイレンし、排泄の快感とは別に、身体の芯が熱くなってくるのが解る。

……これが清香の何よりの楽しみであった。万引きしたショーツで、それをはいてその中に糞尿をする。それも、盗んですぐ、外で……だ。自分で金を払って買った物なら、こんな使い方は出来ない。自分の腹が痛まないからこそ出来ることであって、また、だからこそ余計に快感なのだ。

「はぁっ……」
立ちこめる強烈な臭いも、清香にとってはこのうえない媚薬だ。
うっとりと焦点の定まらない目で、ゆっくりと歩き始める。

にちゃ……ぬちっ……ぐちゃっ……

尻に溜まった糞がゆさゆさと揺れ、擦れ合う内腿が糞をこね回す。
しかし、そのぬるりとした感触も、音も、全てが清香にはたまらなく心地良いものであった。
清香は歩きながら、これからのことに思いを巡らせていた。
「(帰ったらどうしよう? うんちを体に塗って遊ぶ? アソコに擦りこんでオナニーする? あぁ……楽しみだわ……)」

そうこうしているうちに家に着いた。普通、こんな格好で家に帰ってきたら怪しまれるのが普通だが、清香の家はそう言うことに関しては驚くほどにオープンだった。清香には妹がいるのだが、その妹も、小便を漏らしながらのオナニーが大好きだ。母親もそれをとがめることはなく、むしろその後かたづけに小言を言う程なのだ。どうしてそうなったか、等は考える必要もない。ただ、自分の好きなように、気持ちのいいことが出来るのだから。

「ただぁいまぁ」
もどかしそうに家の扉を開け、さあ自分の部屋に行こう……としたときである。
清香は、家の様子が違うことに気づいた。トビラと玄関はそのままだ。
しかし、その先が真っ暗なのだ。
「……あれ? うち、こんなに暗かったっけ……?」
靴を脱ぎ、家に上がる。一歩進んで見てみても、自分の先は真っ暗だ。
「おかあさん……どこ? 居るんでしょ?」
糞の尻尾をゆさゆさ揺らし、清香は先に進んだ。しかし、相変わらず周囲は
暗い。それに、玄関から真っ直ぐ行けば台所のはずだが、まだたどり着かない。
おかしいなぁ……と思いながらも、深くは考えず、歩を進めた。
……やがて、目の前に扉が見えた。しかし、その扉はいつも見慣れた台所の物ではなく、随分古めかしく見えるものだった。
「……? おかあさん? いるの?」
ノブに手を掛け、扉を開ける。

ぎぎぎぃ…………

重々しい音を立てて、扉が開く。
……中は、ちょうど小さな教室ほどの広さの部屋だった。レンガらしき壁にはロウソクが灯してあり、淡い光を放っている。床はフローリング……と言うよりは、板張りだ。体の重心を動かす度に、ギシギシと音を立てる。

「ちょ……ちょっと! どういうこと? ここ……どこ?!」
ようやく事態の異常さに気づいたように、清香は慌てふためいた声を上げる。
……確かに自分は、自分の家に帰ってきた。でも、中は真っ暗で、台所がやけに広くなってて……ううん、台所のある場所に広い部屋が出来てて……でも、こんな住宅街に、こんな奥行きが取れる? 変だ。絶対変だ。ちょっと待って、本当に私の入ってきたのは、自分の家? そうだ、もう一度確かめてみよう!

そう思い、今入ってきたドアを出て、清香は玄関に向けて走り出した。
ゆさゆさと揺れる“尻尾”が、このときばかりはもどかしく思えた。
……しかし、どんなに行っても、入ってきたはずの玄関は見えない。真っ暗な空間を走りながら、清香は徐々にいらだちを覚えはじめた。いつまでたっても『おたのしみ』が出来ないからだ。

「仕方ないなぁ……戻ろっか。そこでやってもいいや……後かたづけさえすればいいんだから……」
清香は、ふぅ、とため息をつき、きびすを返して再び歩き始めた。……すると、今度はやけに速く元の扉にたどり着いた。

ばたん、と扉を閉め、適当なところに荷物を放り出す。そして、制服を脱ぎ、下着姿になる。
「うふふぅ……・」
板張りの床に、ぺたり、と座り込む。

にちゅ……ぐちゃ……

尻の“尻尾”がつぶれ、糞が尻の割れ目や性器に押し広がる。今日は時間が経ってしまったため、糞は随分冷たくなってしまっていたが、それはそれでまた、感触が変わって楽しい。
「はぁっ……」
すっ、とショーツの中に手を伸ばす。指先に当たる、柔らかい糞の感触。そして、手のひらに感じる、熱く火照った性器……。
左手で、性器から溢れる粘液をすくい、右手は、ショーツの後ろから手を入れて、糞を一つかみ取り出す。

しゅり……しゅり……にちゃ……くちゃ…………

清香は目の前で両手を擦り会わせ、粘土でもこねるように、二つを良く混ぜる。茶色になった手の、指先を少し嘗めてみる。
「……にがぁぃ……くすっ……」
嬉しそうに少ししゃぶった後、おもむろに手のひらの糞を身体に塗りはじめた。

べちゃっ……しゅっ……しゅっ……しゅっ……

身体が、茶色に染まっていく。そして、今までより激しい臭いが、清香の鼻を刺激する。いや、清香には、何にも代え難い、芳しい香りだった。
「はぁぁっ……」
全員に塗り終わり、ごろりと仰向けになる。
天井は、見えない。しかし、今の清香にはそんなことはどうでも良かった。全身から立ち上る、何とも言えない良い匂い。そして……再び手を性器に伸ばす。

ぐちゃり……

粘液が、溢れるほどに出ている。糞まみれの指を挿入し、愛撫を始める。
片方の手は、同じく糞まみれの胸を、ブラジャーの上からもみしだく。
「あ……あぁあっ! んっ! はぁぁっ!! ぃ……いぃいっ! ンッ! ンッ! んおぉ……っ!」
ばたばたと床にのたうち回り、清香は悶えた。今、ここが何処だってどうでも良い。この瞬間、これが私は一番好きなんだから……。

「いんっ! いいっ! あっ! ああっ! いぐっ! いくっ!! あ………………っ」
びくっ、と身体がのけぞり、清香は達した。心地よい疲労感が襲ってくる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
再び仰向けになり、ふぅ、と大きく息を付いたときである。
視界に、人影が入った。
「あれ? おかあさん……?」
清香はそう言いかけたが、それが全く違う影であることに気づき、慌てて飛び退くように起きあがった。
「……だっ……誰よあんた!!」
しかし、眼前の人影は応えない。
人影は、良く見ると、奇妙な出で立ちをしている。
頭を覆う、とがった黒頭巾。目の部分には穴が空いているが、そこから表情は解らない。そして、首から足下まで、すっぽり覆う、同じく黒いマント……。
突飛な風貌に、清香が目を丸くしていると、人影が言った。

「ようこそ。コレクション・ハウスへ……」
慇懃な、良く通る男声だ。眼前の清香の痴態など、全く意に介さない様だ。
「…………は?」
再びあっけにとられる清香。いぶかしげな目で、眼前の男を見る。
しかし、黒い男はそんな視線など全く気にせず、続けた。
「清香様、お待ちしておりました。では、こちらへどうぞ……」
そして、くるりと背を向け、歩きだそうとする。
「ちょっと待ってよ!」
やっと我に返り、清香が男を呼び止める。
「コレクション……何とかって、何よ?! ここはアタシの家よ? 様付けは悪い気はしないけど、一体何がどうなってるの?!」
その声に、歩きだそうとした黒い男が向き直り、再び慇懃な口調で言った。
「いいえ。ここは貴女の家ではありません。コレクション・ハウスです。罪深き貴女のための、懲罰の館です」
「罪? アタシ……何かした?」
あっけらかんと応える清香に、黒い男はしばらくの沈黙の後、
「……それを今からお教えいたします。こちらへどうぞ……。」
「うーん……」
しばらく考えていた清香であったが、何故かついて行きたいという気分になってしまった。
そして、部屋全体を教室に問えるならば、教卓がある辺りに二人が来たときだ。
おもむろに、黒い男が指をパチン! と鳴らした。

「わっ!」
思わず清香が声を上げた。
……明るくなった部屋の中心には、十数人の男が居た。皆、きっちりとしたスーツを着ている、ビジネスマン風だ。しかし、顔には真っ白な仮面を着けており、細かな顔立ちまでは解らない。そして、良く見ると、自分の居る辺りには、何処からかスポットライトのような光が当たっている。
それにしても、あの男達は、ひょっとしたら人形だろうか? 生きているような気がしない……。

「それでは、これより被告人、清香の裁判を執り行います。被告人、前へ」
黒い男が高らかに宣言する。
今一つ状況が飲み込めない清香だったが、とりあえず前に一歩出る。
「では、被告人の罪状を読み上げます」
黒い男が、いつの間にか手に持っている、妙に古めかしい巻紙を開いていく。
……異様に通る声で読み上げられた、『罪状』の内容は、次のような内容だった……。

『被告人・清香の罪は以下の通り。一つ。度重なる窃盗。一つ。その為の虚偽の理由による勉学のサボタージュ。一つ。盗んだ品による、そして神聖なこの館にての淫らな行為。一つ。これらの行為に対する、罪悪感の欠如……。以上の罪により、被告人には平手による尻叩き50回、パドルによる尻叩き50回、ケインによる尻叩き50回を申しつける。』

「どなたか、御異議のある方は……?」
罪状に落としていた目を前に戻し、黒い男が尋ねた。
『……、……、……。』
少し、男達からざわめきが聞こえた。そして、
「異議有り!」
何処からか声がした。見ると、最前列左手辺りの男が立ち上がっている。
「どうぞ」
黒い男が促す。
「被告人の身体は糞尿にまみれており、実に汚らわしい。かような身体に我らの平手が直に触れるのは、誠に遺憾だ。よって、平手打ちを無くし、パドルの回数を70回にする事を望む」
その男は、淡々と、しかし黒い男同様身体の芯に直接響くような声で述べた。
黒い男は、しばらくの沈黙の後
「それでは、被告人への懲罰を、パドルによる尻叩き70回、ケインによる尻叩き50回に変更いたします。皆様方、よろしいでしょうか?」
『異議なし!』
一斉に声が挙がる。

「ぷっ……あっはははははっ! なぁにこれ! 裁判? 被告人?……凝ってるわねぇ。何? アタシのお尻叩くの? 『スパンキング』ってやつ? ふーん……面白そうね。やってやって!」
男達のやりとりを聞いていた清香が、突然笑い出した。あまりに現実離れしているためか、何かの冗談だと思っているようだった。
だが、清香が糞まみれの身体をよじらせて笑い始めたとき、その場の空気が凍り付いた。そして

『懲罰の意味を知らぬ愚か者よ……』
『度し難き程、愚かなる者……』
『価値を与うるまでもなし……』
『価値を与うるまでもなし……』
『価値を与うるまでもなし……』

抑揚の全くない、氷のように冷たい群唱が響きわたる。
「え……?」
さすがの清香も、流れる空気の違いに気づく。ふと前を見ると、何かの器具が置いて有る。SMプレイに使うような……三角木馬?いや、高さが幾分低いし、足に拘束具のようなものが着いている。
何だろう?と思っていると

がちゃり

と後ろで音がした。……手錠?
「なっ……なにすんのよ!」
抗議の声も虚しく、手錠についた鎖で、ぐいぐいと眼前の器具の前に引っ張られる。
「うつ伏せに身体を折り曲げろ」
スーツを着た男の一人が、無機質な声で清香に言う。

がちゃり、がちゃり

足を広げられ、器具の足に付いている拘束具に留められる。

一体どうなるんだろう?さっきまでの笑いもどこかに吹き飛び、清香の心臓はものすごい速さで脈打ち始めた。様々なことが頭をよぎる。
「(懲罰って言ってたわね……まさか、あの店の人間? いや、いままでバレずに済んだんだもの。そんなことはないわ。にしても『窃盗』なんて人聞きの悪い事を言うわね。ちょっと貰っただけじゃない。取られるような管理の仕方をしてる店が悪いのよ。……でも、お尻を叩かれるのかぁ。どんな感じだろう? 昔はよくおかあさんに叩かれてたけど……。手じゃなくて、パドル、とか言ってたわね。何のことだろ?でも、どのみちそんなにひどいことにはならないはずよね)」

やがて、ぐいっ、とショーツの引っ張られる感触があった。尻との間に溜まっていた糞が、ぼとぼとと床に落ちる。
「(ああ、いよいよか)」
場違いな『期待』にも似た感情で、清香はその瞬間を待った。
そして……・

びしゃっ!

固く、重いパドルが清香の尻に打ち据えられ、尻にこびりついた糞が飛び散り、激しい音を立てる。
「が…………?!」
痛い。
知らない。
こんな痛さ、知らない……
痛い……!
痛い……!!
いっそう激しくなる心音を感じながら、清香の頭は混乱し始めていた。

ばしっ!

「ぐぅっ!」
二度目の音と共に、後ろから声がした。
「叩く度に数を数えろ。でなければ一回目が永遠に続く」
氷で背筋を撫でられるような感覚。清香は、消え入りそうな声で
「……はい」
と答えた。
「2」

ばしっ!

「ううぅ……に……」
「もっと大きく数えろ。2」

ばしっ!!

「あぁっ!……に!!」



 心臓が口から飛び出すほどに脈打つ。パドルの衝撃が、頭にまでガンガン響く。
後ろ手に拘束された手が、ぶるぶる震える。器具に固定されている足も、ガクガク言っている。今、何回目だろう? 口は数字を言ってるけれど、自分には何回目か解らない。「ばしっ!!」ああっ! ……痛い……。きっと今、自分のお尻は腫れてるんだろうな。なんだか、スースーするような、ピリピリするような……。「ばしっ!」うっ……でも、なんでだろう? 身体の奥が……熱い…………次はいつ? ……え? 今なんて思った?「ばしっ!!」ひっ!!うっ…………痛い、痛い、痛い。涙も、もう出ない。でも、何故? 次の一撃が欲しい私が居る? 何故? 何故? 何故?「ばしっ!」あ……熱い……お尻が? いえ、身体が……?
ドキドキする。緊張? 違う。期待? 次の一撃への期待? 早く……叩いて……。
え? 今、なんて言ったの? 早く……叩いて……もっと……叩いて……。

「60」

ばしっ!

「ろ……くじゅう……はぁ……はぁ……」
茶色だった尻は、赤黒く腫れ上がている。しかし、ぶつぶつと回数を数える清香の顔は、一種、恍惚とした物になっていた。そして、性器からは新たな熱い粘液が滲み始めていたのだ。
「61」

ばしっ!

「あぁっ!! ろくじゅういち!!」
数える声も、喜びのような感情が混じりだしていた。やがて……

「70」

ばしっ!!

「嫌……もっと……もっとぉぉっ! 叩いてぇ! 叩いてぇぇッ! アタシのお尻ィ……! グチャグチャにぃぃぃ!」

清香はついに叫んだ。それは、今や心からの欲求であった。今気づいた新しい快感に、もっと浸りたい。理由なんてどうでもいい。もっと叩いて欲しい! そう思って、素直な気持ちを口にした。

しかし、その叫びが発せられた瞬間、
「あっ……!?」
突然、身体の下にあった拘束器具が消えた。
「……え?」
顔を上げる。ひたすらの闇。
黒い男も、スーツの男達も、いや、部屋の壁やロウソクすら見えない。完全な闇。
「な……何? どうしたの?」
熱く火照る自分の身体は本物だ。しかし、手足は手錠で拘束されたままだ。
「ねぇ! みんなどこ行ったの? ねぇ!」
その声すら響かない。眼前にはただ、闇のみが広がる。
「ねぇ……もっとアタシのお尻叩いてよ! 身体が熱いの! ねえったら!」
相変わらず、返答はない。
「お尻叩いて! ねぇ!! アタシをイかせて!! お願いよぉ!」
必至の哀願も、届かない。
「あっ……んっ……くっ……のっ……」
熱くぬめる性器を触りたくとも、手錠のせいで届かない。
ほんのひと触りで、イケそうなのに、できない。
「なんとか……して……おかしく……なりそう……」
痛さではない涙がこぼれる。しかしそれでも、闇からは何も聞こえない。

「ナントカシテェェェェッ! オネガイヨオォォォッ!!!」

清香は、いつまでも、いつまでも闇の中で叫び続けた……。



 警察に捜索願を出して、もう随分経つ。しかし、清香の手がかりは全くない。
結局捜査は打ち切られ、この失踪は『神隠し』だ……ということになった。
ー了