私とアタシ 1

1.萌芽

 私は、受験を間近に控えた女子校生です。
これからお話しするのは、私が、『変わることができた』きっかけの、不思議な体験です…………。私は、世間一般で言うところの『優等生』です。親や教師の言うことをよく聞き、反抗もせず、成績も良い。
『ヨクヤッタネ』
『オマエハワタシタチノタカラダヨ』
もはや空疎な記号になり果てた、親や教師の繰り言を聞く度に、いつからか『キュイィィ……ン』

こんな『音』が、どこからか聞こえるようになりました。まるで、ビデオテープを一気に巻き戻し、また一気に早送りするような音が。
その度に、心のどこかがずきりと痛み、

『うふふ……』

と、誰かが私を嗤(わら)うような『声』が聞こえるのです。

ある日のことです。図書館からの帰り道、いつもの町中を歩いていると、子供の泣き叫ぶ声が聞こえました。

見ると、小さな女の子が、母親に連れられて歩いています。女の子の下半身に目をやると、グッショリと濡れていました。おもらしのようでした。
「あらあら……」
私にも、そういった経験はあります。私は思いがけず昔を思い出し、ほほえましくなってしまいました。それから、心の中で少し笑って、その親子連れのそばを通り過ぎようとしたときです。

「……?!」
『キュイィィ……ン』
また、あの音が聞こえました。
『うふふふふ……』あの声も。

声は囁きます
『ウ ラ ヤ マ シ ク ナ イ カ イ ?』
「えっ?!」
私は驚いて立ち止まり、辺りを見渡しました。勿論、誰も居ません。
気持ちを落ちつけるように胸に手をやると、

バックン!! バックン!!

何故か心臓が早鐘のように打ち、躯(からだ)のどこかが熱くなるのを感じました。
「へ……変なの……」
我に返った私は、訳もなく無性に恥ずかしさを感じ、足早に家に帰りました……。

自分の部屋に入ると、どっと虚脱感が襲ってきて、私はベットに倒れ込んでしまいました。
「はあっ……はあっ……あ……あぁ…………」
虚脱感の裏、消したと思った焚き火の中に残った火種がぷすぷすと音を立てるかのように、躯の熱さはまだ残っています。
「くっ……か……あはっ…………」
その熱は、私を内側からじりじりとあぶり、私の息を荒げ、口のなかをからからに渇かしていきます。
『うふふ……うふふ……うふふ……』
遠く遠く、かすかに、でもはっきりと、あの声も聞こえます。
「ひっ……ひ……きぃ…………っ!!」
一日の疲れをいやすオアシスであるはずのベッドは、その時ばかりは砂漠の上のしんきろうでした。
胸をかきむしる渇きの中、私は必死に考えました。

どうしてあの子供を見てから、こんなに『渇く』のだろう?
時折聞こえる、あの音や声は何なんだろう?

考えれば考えるほど、喉が張り付くほどに渇き、汗が噴き出しました。答えは、いっこうに出ません。
「……………………」
そのうち私は考え疲れ、いつの間にか眠ってしまっていました……。



 次の日。私は昨日のことを頭の片隅に無理矢理押し込め、いつもの生活を送っていました。
あれは疲れていただけ。十分睡眠をとった今日は、大丈夫なはず。そう思っていました。学校から家に帰り、食事を摂った後、疲れた躯をほぐそうと、お風呂に入ろうとしました。服を脱ぎ、下着姿になったときです。
また、あの音が聞こえてきました。

『キュイィィ……ン』

そして……昨日見た、あの小さな女の子のおもらし姿が強烈にフラッシュ・バックし、声が、また聞こえてきたのです。
『やっちゃいなよ……気持ちいいよ……ほら……』
「え……?」
『やっちゃえ……やっちゃえよ……あの子みたいにさあ……』
「……う……うん……」
不思議なことに次の瞬間、熱病にかかったか、あるいは夢遊病者のように、フラフラと下着姿のまま風呂場に入って行く自分がいました。
そのまま、風呂場の床にぺたりととんび座りになります。
そして、またもあの声が言いました。
『ほら、シーしちゃえ。シー……気持ちいいよぉ……』
「うっ…………」
どきり、としました。
普通なら考えられないことです。服も脱がずに風呂場に入り、あまつさえ風呂場で……風呂場でおしっこをするなんて。
でも、その時の私は、その行為がとても甘美な、すばらしい行為のように思えたのです。
「ん……………………」
下腹部に力を込め、うながします。少し抵抗がありましたが、一度出てしまうとあっけない物でした。

シュウゥゥゥゥゥ……

そんな音を立てて、風呂場の床に薄黄色の液体が広がり、アンモニアの臭いが立ちこめます。

シュシュシュシュシュシュゥゥゥ……

押し寄せる快感と奇妙な満足感の中、私はぼう然と呟きました。
「……私……シーしちゃった……高校生なのに……下着のまま……お風呂場で……私……私……あは……あはは……あは! あはははは…………!!」

全てを出し切った後、私は笑っていました。
普段とは違う声で。
いえ、いつも聞こえる『あの声』で……