五日目
点滴の管を埋められて、左腕がやっぱり変な気がするが、それでも寝付けた。いよいよ手術当日。『も、どーにでもならんかい!』と、腹を括る。
朝は絶食。食べることが楽しみの入院生活において、これは辛いか? と思いきや、凄まじい緊張感が、それをうち消してくれた。
そんなこんなで十時三十分。寝間着から手術着に着替える。前がマジックテープで開く、ゆったりとしたずんどうの服だ。次に点滴開始。ひんやりとした感覚が、奇妙に気持ち良い。同時に、左腕の違和感が消える。さらに、弛緩剤の類だろうか、肩への筋肉注射。……メチャクチャ痛い(泣)。思い出しても痛い。しかし、徐々に力が抜けてくる。
十時五十分頃、移動開始。ベッドのストッパーが外され、ベッドごとの移動だ。ごろごろと廊下に運ばれ、そこからが凄い。凄まじいスピードで、まさに疾走するベッド!
『とりゃぁぁぁぁーーーーっ』
……という気合いの声が聞こえてきそうな程、思い切りベッドを押す看護婦さん。走る! ベッドは走る!
「(なんか楽しいぞ……)」
空飛ぶジュウタンに乗る気持ちって、こんなのかしらん? 等と思いながら、エレベーターに乗り込み、同時に、点眼麻酔開始。手術室の入り口で台車に乗り換え、それで更に手術室内を疾走。
|

|
そして手術台。体を固定し、心電図、血圧測定の準備。目を洗浄し、局部麻酔開始。麻酔はどこに打つか?
……皆さんご自身の目玉の下を触っていただきたい。目玉の下と、頭蓋骨の間に、隙間があるのがお解り頂けるだろうか? そこから針を通し、目玉の裏にある視神経の束へ、麻酔を打つのだ。長い針で。ヘタクソだが、図解するとこうなる。
ぷつっ……とした痛みの後、異様な感覚がはっきり分かる。
『ああぁっ!! 入っていく! 入ってイクのぉぉぉっ!!!』
アソコにナニが入って行くのではない。頭蓋骨の中に注射針が入っていくのだ(爆)。
|
|
顔に覆いをかけ、器具でマブタを固定し、手術開始!
手術の方法は、黒目両脇の結膜を切開し、眼球を動かす筋肉を露出させ、余分なところを切ったり、位置をずらしたりしたあと、元通りに結膜を縫合するものだ。再び図解させていただくと、こうなる。
それにしても、痛い。ただひたすら痛い。極度に緊張していたせいか麻酔の効きが悪く、四回ほど追加を受ける。それはもう、『これで効かなかったら、静脈麻酔(=全身麻酔)行きますよ』と言うほどに。ちなみに、白内障の手術の四倍、麻酔を使ったそうだ。
言い訳がましくなるが、本当に恐ろしかったのだ。全身麻酔で眠りの縁に落ちるならまだしも、部分麻酔だ。しかも、手術台の照明でほぼホワイト・アウトしているとは言え、今自分の目を手術している先生の手や、メスの影が見えるのだ。祈るような気持ちで、私は心の中で震えていた。
|

|
そして、二時間が経過した。
ぐったりと虚脱し、ただ、チクチクとする結膜の縫合後だけがよく解った。呆然とした体で、手術着のまま、昼食を食った。もちろんと言うべきか、メニューすら覚えていない。
麻酔が切れると地獄の始まりだ。
発熱、痛みが襲ってくる。氷のうと、唯一無二の親友になる。それでも我慢がならず、頓服薬を飲む。
午後三時頃、母親が見舞いに来た。しかし、ベッドから起きあがれず、目も開けられない。ほとんど応対のできないまま、差し入れを貰ったことだけは覚えている。
痛みはなかなか引かない。主治医の先生が、
「まだ痛むなら、座薬があるよ?」
と言われるが、それはあまりに恥ずかしいので、唸りながらも、
「……いえ、ガマンします……」
と答える。
その日は朦朧としたまま、晩飯が過ぎ、夜が来た。
辛うじて私を起きさせていた、意識の繰り糸はぷっつりと途切れ、私は、そのまま眠ってしまった……。
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [術後]