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『初級立ちション講座』(5)

5.補習

「うー………………」
 それからしばらく経ったある日。俺は、再び友人の下宿で徹夜飲みを敢行し、いつもの帰り道を、ふわふわと歩いていた。

 今日も見事な朝焼けだ。
「……そう言えば、あの娘と会ったのは、こんな朝だったよなぁ……」
 同じ道、同じような朝焼けに、俺は、ゆーきの事を思わずにはいられなかった。やがて、最後に『講義』をした場所に来た。自然と、足が止まる。
「……………………」
 空を見上げる。突き抜ける、朝の薄紫が、美しい。
 ふう、と、空に向かって小さく息を吐く。彼女の顔を思い出すと、なぜだか胸が締め付けられ、鼻の奥にツン……と酸っぱい感覚がわき上がる。
 『講義』の時の『可愛さ』もそうだったが、あの真っ直ぐできれいな目、本当に純粋な笑顔。そう滅多に見られるもんじゃない。

 ずっと見ていたくなるような笑顔。
 胸が熱くなる笑顔。
 なぜだか優しい気持ちになれる笑顔。
 一人占めしたくなるような笑顔。

 でも、それを見ることは、もう、ない……。

「ちょっと……寂しい……かもな……」
 見上げる朝焼けがにじむ。涙だった。
「ははっ……何言ってんだ、俺……」
 涙を袖口で拭い、照れ隠しに空へ向かって少し微笑んでから、再び歩き出そうとした時だ。

「せーんせっ!」

 聞き覚えのある声がした。
 背中に感じる、この視線……。

「あぁっ!」
 まさか、と思って振り向いた後ろには、果たして、ゆーきがいた。あの時と同じ、キラキラした目で微笑んでいる。

「どっ……どうして……? 成仏したんじゃないのかよ?」
 厳密に言えば違うのだが、その時は気づかなかった。
「へへぇ……」
 口をぱくぱくさせる俺に、ゆーきは言った。
「あのね、想いが叶って、空に帰るときにね、わかんないことが増えたのに気づいたんだ!」
「わかんないこと……?」
「うん! 女の子達みんなの気持ちじゃなくて、ボク自身が知りたいこと! だからボク、神様に頼んで、ちゃんとした人間にしてもらったんだ!!」

 寛大な神様もいたもんだ……。しかし、分からないことって何だろう……? 俺が首を傾げていると、ゆーきが、ちょいちょいと手をこまねいた。耳を貸せ、と言うことのようだ。心なしか、顔が赤い。俺は、首を傾げたまま、耳を寄せた。

「あの時先生、ボクの体を後ろから抱いてくれたでしょ? ……その時、ボクの腰のあたりに、なんだか固い感触がしたんだ。先生の体の一部みたいだったけど、あれ、何なのかなぁ……って……」

 再び、俺は石になった。
 ……こいつ、知ってて言ってないか……?

「……………………」
「……………………」

 耳まで真っ赤にしたゆーきと、困ったふりをして微笑む俺。しばらく、見つめ合う。

 やがて、ゆーきがモゾモゾと言った。
「それで……そのう……次の講義場所の希望なんですけどぉ……ボク、住むところが……わぁっ!」
 俺はその言葉を遮り、ゆーきの両肩をばんっ! と叩いて言った。
「わかった!! ……これからずっと、俺の家で補習だ!! いいな!!」
「……あっ……はっ……はいっ! ありがとうございますっ!!」

 そう言って、ゆーきは、俺に飛び込んできた。


―おわり