[Index] [Profile] [Novels] [Cocktail] [BLOG] [CG] [Link] [Mail Form] [DO-JIN]

『あの娘』

0.日記

 ……今日もおかあさんに怒られた。テストの結果が悪いんだって。
「お前のためを思って言ってあげてるのよ」
 その言葉はもう聞きあきたよ。それに、なんだかおかあさん、怖い……

 いつからこんな風になったんだろう。
 いつからこんな……何かが足りないような気がするんだろう。
 大事なことを忘れているような、そんな気分……

1.抑圧

「ひゃっ!」
 ひんやりする感触に私は跳び起きた。
ぐっしょり濡れたパジャマに、布団に描かれた世界地図……
「あ……またやっちゃったのか……」
 高校生にもなっておねしょなんて、情けない……
 私は朝から、それこそ今の布団のように湿っぽい気分になってしまいました。

 どういう訳か、私はその……おシモが弱いようなのです。おねしょをしたのだって、今日が初めてではありません。
 寝る前におトイレに行っても、水分をなるべく取らないようにしても、何故か一向に良くなりません。
 だから、ときどき大人用の吸水パンツを付けているのですが、格好悪いし情けないので、しないときもあります。
 ですがそう言うときに限って、何かの拍子にちょっと漏れちゃったり、寝るとおねしょをするのです。
 特に最近は多いのです。布団類は、親には内緒で、帰ってから自分で洗濯しています。

・  ・  ・

「なんなの、このあいだの英語のテスト! あんな点数じゃ、この先やっていけないわよ! これからの社会は英語が絶対に……」

 その日の晩、もう日課みたいになっているおかあさんのお小言が始まった。

 ……同じ事を何度も何度も……
 ……一生懸命やってるのに、どうしてそんな事言うの?
 ……もっとがんばれって、どういう風に?
 ……わかんないよ……わかんない。

 あーあ……帰りたいなぁ……

 ………え?
 「帰る」って、どこへ?
 今の言葉、……私?
 言ったような……言ってないような。
 変だなぁ、疲れてるのかな?

 寝室へ帰ってからも、さっきの言葉が気になって仕方有りませんでした。
「帰りたい……? どこへ……?」
 何度も何度も反すうしてみましたが、わかりません。
 勉強をしようとしても、その言葉が頭の中をぐるぐる回って、手につきません。
 きっと疲れているんだ、そう言い聞かせてその日は早々に眠ることにしました。

2.悪夢

 ………夢を見ました。

 私は遊園地を歩いていました。沢山の家族連れが、楽しそうにしています。
 元気な子供達、振り回される親、はじける笑い声……
 見ているだけでほほえましくなるような、そんな風景でした。
 ふと、見覚えのある親子連れが歩いてきました。
 両親の手に引かれて歩く小さな女の子……あれは……私?
 そして手を引いているのは……おとうさん、おかあさん。
「あんな時代もあったんだなぁ……」
 何だかひどく懐かしい気分になり、その横を通り過ぎようとしたときです。
「あっ!」
 突然、私に似たその子が、私を指さして言いました。
 何かと思い、私は自分自身を改めて見ます。
 私は我が目を疑いました。

 私は……丸裸で歩いていたのです。

「え……?! きゃぁっ!!」
 それに気づき、私はうずくまりました。

 しかし次の瞬間……
『あっ!!!!』 
と言う和音と共に、遊園地にいる全ての人が、全員私を指さしました。
 皆、私を凝視して、細い、しかし大量の視線の矢を射かけます。
 信じられない、という顔で私を睨む、目、目、目……。
「……はぁぁっ……!!」
 ……私は緊張に耐えきれず、うずくまったままオシッコを漏らしてしまいました。

 ……周囲から来る『驚嘆』の矢は、『蔑視』というつぶてに変わり、なおも私に降り注ぎ、私を打ち据えます。

 そして今度は、「ひそひそ……」「こそこそ……」という話し声が聞こえてきました。
 聞きたくないと解っていても、耳に入ってきます。

『なにをやってるんだか……』
『いい年をして……』
『そんなことだからいつまで経っても……』
『勉強も……』
『まったく……』

「どうして……? どうしてそんな目で見るの? やめて……やめて……やめてよ……」
 私は泣きじゃくり、必死につぶてを払おうとしました。
 しかし、その見えないつぶての雨は止んでくれません。
「やめて……いや……いやだよ……いやあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 全身の力を込めて私は叫びました。
 すると、すうっ……と景色が消え、私は暗闇の中で魂の抜けたように倒れてしまいました……。

 ……そこで目が覚めました。
 夢の生々しさに顔を覆うと、涙でぐしゃぐしゃになっていました。
 掛け布団も、きっと暴れてしまったのでしょう、全然違うところへ蹴飛ばしています。
 そして……やっぱりもう一枚、敷き布団のキャンバスに、世界地図を描いていました。

3.共鳴

 そんな夢に起こされたのですから、その日はいつにも増して憂鬱な気分で学校へ行きました。
 今まであんな怖い夢、いえ、怖いけど懐かしさもあって……でもやっぱり怖い夢……見たこと有りません。
 何がなんだかさっぱり解らず、自分が今何をしているのかさえ上の空で、教室に入りました。

 学校って、嫌いです。
 みんなどうして、そんなに騒げるんだろう。
 他愛のない話をして、先生をけなして、また笑って……。
 誰か話す相手が欲しくない訳じゃないけれど、そんな皆は嫌です。
 だから、私には本当に友達と言える人は、いません。
 話さない訳じゃないけれど、それはほとんど会話ではありません。会話に聞こえる独り言を毎日繰り返しているのです。それは「自分はクラスの中にいる」という事の確認の手段である以外は中身のない、とても虚しいものでした。

 見るでもなく、ぐるっと教室を見渡します。ふと、ある人物に目が止まりました。
 クラスで一番の優等生の子です。朝早くから参考書を読んでいます。
 いつものことなのですが、その日は少し違っていました。今まではどことなく怖くて近寄り難かったのですが、今日はなんだか優しい顔でした。そして何より、本を読んでいる彼女の顔が、変に艶っぽかったのです。

 私はその顔を見て、なぜか胸が高鳴りました。
「オナジカモシレナイ」
 いつの間にか、呟いていました。
「……え? 何が??」
 また突然、思いがけぬ自分の言葉に戸惑います。
 釈然としないまま、始業のベルが鳴りました……。

 その日、学校から帰り、疲れた体をベッドに横たえていた時のことです。
 ふと、今朝の彼女の顔が脳裏によみがえりました。
 ……いつものような顔の下の、妙な艶っぽさ。
 すました顔の下で、とんでもないことをしている様な、悪戯っぽい様な、照れた様な……そう。子供のような……。
 子供……
「子供……か……」
 ぼそりとひとりごち、今朝見た夢を思い出しました。
 楽しそうな自分と両親、無邪気な笑い声……
「……っ……」
 思い出すと何故か哀しくて、涙が一筋、こぼれます。
「あの頃に……戻れたらなぁ……」
 涙の溜まった目で、呟きました。

 気が付くと、少しうとうととしていたようでした。私は、軽い尿意で目覚めました。不自然な格好で眠っていたからでしょう。
「おトイレ……」
 のそっと起きあがり、何気なくトイレへ立とうとしたときです。ふとまた、さっきの夢のことを思い出しました。
「赤ちゃんの頃は……オムツの中に全部してたんだなあ……」
 そう呟くと、なぜだか無性にオムツが懐かしくなってきました。でも、オムツなんてしまい込んでしまって今すぐは出せません。でも、もう一度見たい……いや、自分にあてたい! 解らないけど、無性に当てたくてたまらない!
「そうだ!」
 私はしばらく思案し、タオルと安全ピンで代用してみることにしました。

 厚手のタオルを用意し、Tの字に広げます。ショーツを脱ぎ、ドキドキしながら腰を落としました。タオル独特のざらりとした感触が、アソコに伝わります。
「あはっ!!」
 不思議な感覚が躯を突き抜けました。

 ぷしゅっ!

 と同時に我慢していたオシッコが、音を立てて吹き出しました。

 しゅろしゅろしゅろしゅろしゅろ……

 弓なる躯の下、どこまでも世界地図は大きく描けます。
 普段ならば、後始末の事を考える物ですが、その時は排泄の快感の他に、「突飛な行動をしたこと」に、明らかに躯は震えていたのです。それは、悪戯をした後、「ざまぁみろ」と、舌を出す感覚に似ていました……。

 結局、その後始末は、後でその場所にお茶をわざとこぼして、親にその旨を伝えごまかしました。そしてその晩、両親が寝静まったのを見計らい、押し入れの中から昔使っていたオムツを出してきたのです……。

4.日記・弐

 今日見たあの彼女は、なんだか角が取れたような感じだった。
 周りの人とはきっと違う、そんな確信が私にはある。
 彼女と友達になれたらいいな。
 きっとなれそうな気がする。
 話しかけられるかな? 変に思われないだろうか?
 ほんとうの私を見て貰おう。
 ほんとうの私を見て貰いたい。

 ……明日は少し、学校へ行くのが楽しみだ。
―了