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隠れ家にて、友と

「オマエの送別会ってことで、飲みに行かんか?」
 名古屋への引っ越しの日も押し迫ったある日、友人Uが、心なしかしんみりとそう言いました。

 このHPの雑記や、拙作の小説中にもしばしば登場する友人Uとは、大学入学以来のつきあいになります。彼と私は、気の置けない仲、というより、魂の栄養補給をし合う仲です。……といっても、ヤバい意味にとらないようにね、そこ。我々にとっての『魂の栄養』とは、『ボケとツッコミ』あるいは、『ネタのカマし合い』なのです。

 私もUも、関西人です。関西人には、本能として、ボケとツッコミが備わっています。関西人に『ボケるな』『ツッコムな』というのは、『呼吸をするな』とほぼ同義であり、自我の危機にもつながるのです(そこまで言うか?<俺)。

 そしてまた、二人とも演劇部出身です。ネタの質に、独自のノリがあります。たまにはそのノリのやりとりをしないと、心が渇くのです。

会話の一例:
自分.:「……で、こーゆーアホを見てやな、俺は横山ホットブラザーズの一個師団を心で召還したね。こう空挺機でパラシュート降下してきてやな、『お〜ま〜え〜は〜ア〜ホ〜か〜〜』っと、ノコギリで一斉にツッコミを入れてもらう訳や」
友人U:「横山たかしの一個連隊っちゅうのはどや? 赤いハンカチを一斉に噛みながら『あ〜、すまんのぉ〜〜』とパラシュートで降下してくると……」
自分:「あ、それもええなぁ」

《以下、延々と続く》

 ……関西の漫才好きにしか分からないでしょうこのネタ。こういう訳の分からないことを言い合ってないと落ち着かないってのも、難儀なもんです。

 話を戻しましょう。そのUが、「ツレ(友達)から教えてもらった、めっちゃええバーがあるねん。ちーと値は張るけどな」と言いました。「商店街の入り口の、『A』か?」「同じ道沿いやけど、ちゃう(違う)」「へえ?」……などと言いつつ、小首を傾げながらやってきたのは、小ぎれいな雑居ビルに入った『O』というバー。

 ……雰囲気で、既にノックアウトでした。なんというかこう……友人の言葉を借りるなら、『ラフな格好で行くのが気恥ずかしい』所です。「せめて、ジャケットだけでも羽織りたくなるだろ?」という言葉に、「ううむ……」とうなる私でありました。

 しかし、決して敷居が高いと思わせないのがすごいところ。気さくと朗らかを絵に描いたようなマスターが微笑みかけてくれ、するりと会話に混ざって談笑し、特に酒の知識が無くても、雰囲気にあった酒を考えて出してくれる。そして、その一連の流れに嫌味なところが一つもない……とまあ、「バーテン、かくあれかし!」というイカス人なのでありました。そういうところで飲む酒というのが、格別なんですな、これが。

「はぁー……」
「ふぅー……」
 しばしば電話でヨタ話をする二人ですから、つもる話……と言うのはありません。くだらない話も特にせず、静かな時間だけが流れます。

U:「時間を買ってるんだなってのが、分かるやろ?」
D:「せやなあ……」
U:「20代後半にもなると、こういうのもええわな」
D:「ああ。学生連中には、教えたぁない(教えたくない)とこやな。隠れ家っちゅうとこか」
U:「…………」
D:「…………」
U:「しっかし、一生大阪を離れへんと思ってたオマエが、ついに一人暮らしかぁ」
D:「当のオレかて驚いとるよ。正直、いまだにピンと来えへん」
U:「そんなもんやて。おもろいど、一人暮らし」
D:「……せやったらええねんけどな。まだ怖いわ。けど、ええ機会やしなぁ。転機やわ」
U:「転機かぁ……。オマエもそうやけど、オレもそうやわな……」
D:「あん? どういうこっちゃ?」
U:「…………」
D:「……?」
U:「ああ、せやせや。この間、別のツレと来たときに、ニッカの『竹鶴』っちゅうのを飲ませてろたんやわ。試してみ?」
D:「あ? ああ……。ほな、すんません、『竹鶴』シングルをロックで」
バーテン:「はい」

 ……延々と沈んだやりとりを書くと終わらないので、会話記述はこの辺で無理矢理切ります(爆)。で、飲んでみましたニッカのモルトウィスキー『竹鶴』。実はD.S.T.、ニッカにはトラウマがあります(笑)。というのは、昔、名前は忘れましたが、1000円前後の安いニッカを飲んで……あまりに好みに合わなかったので、(今から思えば非常に狭量な理由で)敬遠していたのです。

 初めての物を試すときは、高級な物から行くのがいいとされています。あるいはニッカも、『竹鶴』から始めていれば私の好みも変わったのかも知れません……が……ニッカファンの方、ゴメンナサイ! やっぱり私はサントリー派です。ちびり。(と、『山崎10年』のミニチュアボトルを嘗める我。さすがに、実家にあるたくさんの酒は持って来れない……)

 『やっぱりニッカは好みに合わない』と言うことを書くために、ずいぶん回り道をしてしまいましたが、つまりはそういうことなのです(苦笑)。その時、私の心象風景には、横山たかしの一個師団が、一斉に赤いハンカチを噛みながら「すまんのぉ〜」と言いつつ、空からパラシュートで降下してきたのでした。

 ところでUよ、そんなにしんみりするなって。今生の別れじゃないんだから、さ。とりあえず、もう一杯いっとこうや。



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