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幸いなる偶然に

 フリーライターN氏と出会ったのは、仕事での東京出張がきっかけでした。その仕事が終わってからも、氏は芝居関係に関わりが深いと言うことで意気投合し、以来何度か連絡を取り合ったり、小説のネタの交換をしたりしていました。そして、私の再びの東京遠征が決まり、『是非飲みましょう!』ということで案内されたのが、浅草。『いい洋食屋があるんですよ』と向かったのは、都営の地下鉄を出てすぐの所にある『神谷バー』という店でした。そこでN氏が言いました。「『電気ブラン』って、ご存じですか?」と。そしてこの『神谷バー』は、デンキブラン発祥の店なんですよ……と。
 私は驚喜しました。まさか、かねてからその由来を不思議に思っていた酒のふるさとへ偶然たどり着こうとは……。

 『電気ブラン』との出会いは、ずいぶん昔になります。既に記憶があやふやですが、地元のパソコン通信ネットのオフ会だったように思います。そこで、参加者の一人が持ってきていまして飲んだのですが……その不思議な酔い口に、印象は強烈でした。そしてふらつく頭で見せて貰ったボトルの能書きが、またおかしかった。

『ブランデーをベースに、ジン、キュラソーなどをブレンド。しかし、分量は秘伝です……』

 当時の私にはその文言がことのほかおかしく、以来、『電気ブラン=酔い心地の妙な、そして出自まで妙な謎の酒』となっていました。
 その後、一部の酒類量販店に『電気ブラン』が売っていることを知り、自ら買って飲んだりして……結局気に入ってたわけです。

 N氏はそんな思いなど知るはずもなく、ただ、彼も驚くばかりでした。いい酒が呑める。私はそう確信しました。

 私.、ノスタルジックな物に弱いです。そして『神谷バー』の中は、いかにも老舗然としていて、これ以上なく私のツボをグリグリ押してくれるのでありました。
 「でも、いきなりブランデーはきついですよ」ということで、まずはビールを飲みながら、アサリのバター蒸しや、ソーセージ、七面鳥のたたき等をつついてみると……これが確かに美味い。どんどん酒を飲ませようという店側のよからぬ陰謀なのではないか!? ……なんてトンチンカンなことは思いませんでしたが、とにかく美味い。
 やがて程なくビールはなくなり、件の『電気ブラン』を注文。
 ……リキュールグラスほどになみなみと注がれた澄んだ琥珀は、恐らくキュラソーの甘みと、薬草のほろ苦い芳香を複雑に放ち、場の空気、グラス、それも相まって、いつも以上に魅力的に見えたのでした。
 口に含めば、やはりほの甘く、後からブランデーと薬草が舌に尻引く感じで……ツマミかタバコが欲しくなる。
 舐める、吸う、食べる……を繰り返しているうちにやってきたのが、N氏オススメのビーフシチュー。

私:「…………(はぁと)」
N氏:「ね? 美味いでしょ?」

 いや、これで1000円なら十分安い! と言うぐらいに美味かったです。
 そしてその塩気の後は電気ブランが欲しくなり、またシチューを食べて……と、それはそれは贅沢なひとときを過ごしたのでありました。

 食後の気持ちを端的に言い表せば……

幸せいっぱい、腹一杯。

……お粗末(笑)。

 さてさて、やはり店の売りたる電気ブラン、いわれを記したリーフレットが店内にありました。現物をボトルで買いそびれたので、その一部を抜粋させていただきます。

デンキブラン今昔『電気が珍しい明治の頃、目新しいものというと“電気○○○”などと呼ばれ、舶来のハイカラ品と人々の関心を集めていました。さらにデンキブランはたいそう強いお酒で、当時はアルコール45度。それがまた電気とイメージがダブって、この名がぴったりだったのです。デンキブランのブランは、カクテルのベースになっているブランデーのブラン。そのほかジン、ワイン、キュラソー、薬草などがブレンドされています。しかしその分量だけは未だもって秘伝になっています。(略)ちなみに現在のデンキブランは、アルコール30度。電氣ブラン<オールド>は、40度です……』


 賑やかながらも、時間がゆっくり流れているようなバーの中で、昔ながらの不思議な酒を飲みながら、旨い料理を喰って過ごすひとときというのも、格別な物であります。

 もう一度、行きましょうね。Nさん(笑)。
 ご興味をもたれた方へ、パンフレットをスキャンした物を用意させていただきました。
 こちらです。



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